2023 Fiscal Year Research-status Report
Loewner Theory on Universal Covering Map and Hyperbolic Metric
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23K03150
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
柳原 宏 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (30200538)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | Loewner theory / covering space / multiply conncected / covering transformation / Fuchsian group |
Outline of Annual Research Achievements |
レブナー理論とは複素平面内の双曲的な単連結領域の変形を扱うものであり, 対応する等角写像の変形を微分方程式で記述, 制御する. 20 世紀初等に導入され, 古典的とみなされていた同理論は21世紀を迎えて, 初頭には統計物理・共形場理論への応用が見出され, さらに2012 年には関連する方程式を全て統合・一般化する統一レブナー理論が提唱された. これらの研究の殆どは, 単連結という謂わば穴の空いていない領域を対象とするものであったが, 近年申請者の先行研究によりレブナー理論は多重連結領域の変形理論へと, 幾何学的に極めて自然な拡張が可能であることが示された. これは領域に付随する標準的な写像として, 等角写像の代わりに普遍被覆写像を考え, 対象となる領域が連続的に増加していくとき, 普遍被覆写像がどのように変化していくかを考察することにより可能となったものである. 普遍被覆空間の理論では, 底空間の基本群と被覆空間の被覆変換群が一対一に対応する. 従ってこの枠組みでは, 領域が変化していくにつれ, 被覆変換群もまた変化する. 本研究では普遍被覆写像の変形を記述する微分方程式を用いて, 被覆変換群がどのように変化していくかを調べ, その応用として多重連結領域上の双曲計量が, 領域が変形されるのに伴い, どのような挙動を示すかを考察する. これは双曲計量の変形 (= レブナー) 理論を作り上げることに相当する. 当該年度は,双曲計量への応用に際し考察する必要のあるレブナー理論の標準的なパラメータ付けについて一般化を試みた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複素解析学の対象は現代では複素平面内の領域の正則函数のみにとどまらず,函数の定義域としてはリーマン面, そしてリーマン面のモジュライ空間であるタイヒミュラー空間まで対象が拡がっている. しかしその基礎となるのは, やはり正則函数の解析性である. リーマンの写像定理により, 2点以上の境界点を持つ複素平面内の単連結領域から単位円板との間には等角写像と呼ばれる双正則写像が存在する. この謂わば座標変換の函数である等角写像の研究は長い歴史を持つが, 現在でも活発に行われていて等角写像論または単葉函数論と呼ばれる. それでは多重連結領域の場合はどうであろうか. 多重連結領域の基本群は連結度-1の生成元を持つ自由群であるが, 単位円板は明らかに単連結であるから,基本群は自明である.従って単位円板と多重連結領域の間には全単射の双正則写像は存在し得ない. しかしながら単射性を犠牲にすれば, 代わりに普遍被覆写像を取るという方法がある.多重連結領域の普遍被覆空間(=単連結な被覆空間)は,多重連結領域の境界点が2点以上存在すれば単位円板と等角同値である. この意味で単位円板上の等角写像の一般化として,正則な普遍被覆写像を考察の対象とすることは幾何学的に極めて自然である. 等角写像論における結果は数多く Bieberbach-deBranges の係数不等式を頂点として,様々な定量的結果が知られ, 一つの大分野を形成している.しかしながら正則な普遍被覆写像 に関する解析学的=定量的な研究はそれほど進んでいるとは言えない. 本研究ではこの普遍被覆写像並びに対応する双曲計量を考察する際に,まずはじめに考える必要のある evolution famlily について基礎的な研究を行い,一定の成果を得た.
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Strategy for Future Research Activity |
境界点を2点以上含む, 複素平面内の領域には双曲計量と呼ばれ, 定曲率-1を持つものの中で最大となる等角計量が一意的に存在する. またこの最大計量は完備であることも知られている. 双曲計量には色々な導入の仕方があるが, その 1 つとして単位円板上の双曲計量を普遍被覆写像を用いて局所的に引き戻すことにより導入するという方法が一番基本的である. このとき対象となる領域が時間とともに連続的に増加するにつれて, 対応する普遍被覆写像, さらには双曲計量も変形される. このときの時間的な変化を微分方程式で記述することに成功すれば双曲計量に関するレブナー理論とでも呼ぶべき新たな理論が誕生する. このような双曲計量の時間発展を記述する微分方程式の導出と, 微分方程式を利用して双曲計量の幾何学的, 解析学的性質を導くことが今後の研究の推進方策である. 換言すれば多重連結領域の普遍被覆空間である単位円板には被覆変換群が推移的に作用する.これは Fuchs 群と呼ばれ, 単位円板の自己同型群の離散部分群である.領域が時間とともに動くとき, 対応する Fuchs 群もまた動く.本研究の先行研究において研究代表者の最新の研究では evolution fammily と類似した性質を持つ被覆変換群間の2つのパラメータを持つ射群準同型写像を構成することが出来ている.普遍被覆写像の満たすレブナー方程式に対応し, この単射群準同型もパラメータに関する何らかの微分方程式を満たすはずである. これを求めて行きたいと考えている.
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Causes of Carryover |
2023年度にインドのPondicherry大学で開催された国際研究集会に参加し,インド工科大学Madras 校の Ponnusamy教授らと研究打合せを行い,その後同じくインド工科大ブバネーシュワル校の Vasudevarao 教授のもとを訪問し,教授並びに若手研究者と研究に関する議論を行うことが出来て大変有意義であった.しかしながら9月に帰国後,微熱が続くようになり医療機関を受診したものの原因がはっきりせず,またインフルエンザに2回も罹患してしまい正月明けにやっと回復した.この為に,予定していた東北大学や一橋大への出張や研究者の招聘を取り止めざるを得なかった.回復後の2,3月は卒研の発表会や入試関係の業務などの為に多忙を極め次年度残額が生じてしまった. 次年度には東北大学で8月に開催予定の,有限次元・無限次元複素解析国際会議に参加し海外の研究者らと交流し,研究打合せを行う予定である. またこの会議に参加予定の海外の若手研究者を研究者代表者の勤める山口大学に招聘を行いたいと考えている.
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