2023 Fiscal Year Research-status Report
縮退バンド超伝導体における四極子と16極子の量子揺らぎによる臨界現象
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23K03319
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
根本 祐一 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10303174)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 鉄系超伝導 / 超音波 / 多バンド / 構造相転移 / 強相関電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄系超伝導はその発見以降,超伝導発現機構をめぐり世界的に活発な研究が展開されている。鉄系超伝導体では3d電子軌道による縮退バンドの特徴があり,構造相転移と超伝導が量子臨界点を中心に競合する相図を示す。電子スピンのみならず軌道の揺らぎをともなう新しい超伝導の開拓を目指し,鉄ヒ素超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2の縮退バンドに着目し超音波実験を行った。この縮退バンドは電気四極子をもつので,母物質では電子間の四極子相互作用により140Kで構造相転移する際,弾性定数C66が転移点に向かって巨大なソフト化を示す。これは電子系の強四極子秩序と理解できる。オーバードープ領域x=0.071ではC66のソフト化は減少するが,超音波吸収係数a66が超伝導転移に向かって発散的に増大することを発見した。縮退バンドがもつもう1つの自由度は軌道角運動量であり,結晶場の中心力場ではエネルギー利得を生まない。そのため自由度として存在はしているが通常は物性に影響を与えない。ところが,2電子間にわずかでも異方的な四極子相互作用が存在すると,軌道角運動量の時間微分であるトルクが発生し,2電子状態がもつ電気16極子が活性となる。これがA2表現に属する横波超音波による回転と直接結合し,a66の発散的な臨界挙動を引き起こすことを検証した。新たにx=0.057ではC66のソフト化の解析から,構造相転移0Kの量子臨界近傍にあることが分かった。また,これまで測定できていなかった母物質での超音波吸収a66の測定に初めて成功し,C66とa66が互いにクラマースクローニッヒの関係を満たすことを実証した。母物質x=0と量子臨界x=0.057との比較により,量子臨界での超音波吸収から明らかになった異常に大きな臨界指数と量子揺らぎの効果について,フォノン弾性論と群論にもとづいて考察した結果を論文報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
測定が困難だった母物質BaFe2As2の超音波吸収係数a66のデータを得ることに成功した。これにより,1/Tに比例するC66の弾性ソフト化と1/Tに比例して転移点に向かって発散するa66の間にクラマースクローニッヒの関係があることを実証した。これは,母物質での構造相転移が,縮退バンドがもつ電気四極子の強的秩序化に起因することを強く示す重要な成果である。これまで,量子臨界から少しはなれた系での超音波実験が世界的に進められてきた。今回,測定したx=0.057では,弾性定数C66のソフト化の解析から,理論的な構造相転移温度が約13Kと特定され,これまででもっとも量子臨界濃度に近いことを確認した。超伝導転移温度も25Kを示し,この系で最大温度であることから,量子臨界性と超伝導引力の増強とが強い関係をもつこともわかった。x=0.057でのC66とa66との間にはクラマースクローニッヒの関係が満たされず,オーバードープ試料x=0.071で示した,四極子感受率に加えて16極子感受率の寄与が重要な主張について信頼度が高い結果を得た。さらに,量子臨界x=0.057の超音波吸収の結果は,そこから離れた領域での平均場的な振る舞いとは全く違って特異な臨界指数をもつことを実験的に明らかにした。電子格子相互作用について微視的な観点に立脚した記述が必須であること,縮退バンドに起因する量子揺らぎの数学的構造が実際の物性に顔を出していると推察される。これらの重要な議論について,学会や論文に整理し公表した。また,静水圧効果と量子臨界性との議論を進めるために,母物質における圧力下超音波実験に成功し,明確な転移温度の圧力依存性を確認できた。以上から進捗状況は順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,母物質のBaFe2As2に加えて,適切なアンダードープ試料を準備し,常圧で構造相転移温度が50-100K程度のドープ領域での静水圧力効果を調べる。母物質において超伝導が出現する圧力値についていくつか報告があるが,それぞれの結果に整合性が無いなど信頼度は低い。そのため,超音波実験が可能である3GPa程度で超伝導が検証できるアンダードープ領域での電子相探索を行う。常圧での量子臨界近傍の実験から得られた量子揺らぎの効果について,アンダードープ系での確認を行い,超伝導転移温度との関係を調査する。また,純良単結晶での実験が必須となるV3Siでの構造相転移の圧力効果を超音波実験によって検証する。圧力下では超伝導転移温度が上昇し,構造相転移温度が低下する報告があるが,それらが一致してくる領域での実験例は無い。V3Siの常圧での量子臨界性について検討するため,試料の成分分析も合わせて行う必要がある。また,精度の高い超音波吸収実験のために新規に導入した12ビットデジタルオシロスコープを活用してデータの測定精度向上を目指す。理論的には,縮退バンドにもとづく電気四極子と軌道角運動量の寄与について微視的モデルを構築するため,2電子からなる電気16極子と回転の相互作用について,縮退バンドをもつ他の系でも観測されるか検証する。また,静水圧力の向上と信号雑音比の向上のため,超音波実験用圧力セルの改良に取り組む。
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Causes of Carryover |
低温超音波実験に必要なヘリウムガスの購入予定経費だったが,ヘリウムガスの供給が制限されており,ガスの一部についてガスメーカーが納入困難になったため。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] Elastic properties of Au-Al-R (R=Yb, Lu) quasicrystals and 1/1 approximants2023
Author(s)
Yuichi Nemoto, Yuma Kobayashi, Shuntaro Takada, Mitsuhiro Akatsu, Kyoma Yokoo, Kazuhiko Deguchi, Noriaki K. Sato
Organizer
International conference on complex orders in condensed matter: aperiodic order, local order, electronic order, hidden order
Int'l Joint Research