2023 Fiscal Year Research-status Report
Three-dimensional spectroscopic observations of star formation activity on various spatial scales using near-infrared wavelength scanning spectrometer
Project/Area Number |
23K03447
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 英則 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80361567)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | チューナブルフィルター / 近赤外線 / 3次元分光 / 星形成活動 / 大質量星クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請の目的は、赤外線観測用波長走査型フィルター(チューナブルフィルター)を実運用装置として完成させること、および大口径望遠鏡の観測装置の前置光学モジュールとして搭載し、大規模星形成領域の物理状態を銀外系内の星団レベルから近傍・遠方銀河までの広い空間ダイナミックレンジを、近赤外線波長全域に渡って連続的に高空間分解能の観測を行い、星形成活動の物理過程を調査、大質量星や銀河の進化を解明することである。 本科研費の初年度は前半に、2枚の干渉光学素子の平行度を保持しつつ、微小距離の走査するための圧電素子(ピエゾ素子)や光学素子のギャップ間の測定、光学素子間隔調整フィードバックための静電容量センサー等を組みあわせた試作モデルの組み上げを行い、さらに測距と駆動をクローズドループで制御し、常にエタロンの間隔・平行性を維持しながら波長走査を行う制御系の設計を進めた。年度後半にはまずアクチュエータと測距センサーを組み合わせた1軸駆動評価試験を行い、想定される駆動距離や微小駆動制御に必要な電圧値と実際の変位距離の相関を測定した。変位距離の測定にはナノレベルでの測定が可能なレーザー変位計を用いた。その結果、駆動最小ビットで25nmの制御が可能であることがわかった。これは分光性能を左右する2枚の光学素子の平行性を維持できる値を満たしている。一方、波長走査のための光学素子の移動に関して、必要な距離を駆動するためのアクチュエータ駆動電圧と実測距離との関係を測定したところ、想定よりも短い距離の変位に留まっている。これは物理的な負荷があるためで、印加電圧を制御することで対応が可能である。次年度には、試作モデルを用いた3軸での制御試験を計画しており、今年度得られた結果を基に最終的な制御系パラメータの調整を行っている。さらに真空・冷却下での試験を行う予定で、そのためのクライオスタットの準備も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の目標は、各種素子を含めた全てのパーツを組み立て、機械的な形状として完成させることであった。冷却試験や実際の分光観測運用に向けて光学素子の固定方法を一部変更する必要があり、一部パーツの変更が必要である。この点を除いては、分光器としての試作モデルは完成している。 一方、チューナブルフィルターとして重要な開発項目である駆動機構の制御について、単軸での動作・測距試験を継続した。測定にはキーエンス社のレーザー変位計を用いたが、これはナノレベルでの測定が可能なレーザー変位計で、これを用いることにより、分光器性能に必要なナノレベルでの駆動状態の確認を行うことができる。具体的には、ピエゾアクチュエータ駆動のために電圧をかけた際に、測距センサーが出力する値(駆動距離)と、レーザー変位計が示す値(実際の変位量)の関係を求める実験である。これは測距センサーは静電容量の変化を2点間の距離に変換して出力しているために、絶対的な距離とはなっていない。これをレーザー変位計の測定値(絶対値)を用いることによって校正することができる。最終的には、測距センサー出力を基にアクチュエータの駆動電圧を制御することで、2枚の光学素子の平行性を維持しつつ、間隔を変えることが可能になる。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の最終目的である分光モジュールの実運用を行うために、第2年度は真空冷却での動作試験を行い、分光器のとしての性能評価試験を行う。そのために3軸駆動の試作モデルでの制御試験から始める。前年度まで機械的準備および制御系の設定等は完了、平行して真空冷却試験のセットアップも進めており、早期に実証試験を行う予定である。年度後半にはファイナルモデル製作への移行を進める。具体的には分光器筐体の軽量化および光学素子固定を最適化したモデルの製作とそこへの駆動、測距システムのインストールである。分光器筐体の基本的な構造は試作モデルと相違ないため、速やかな移行が可能である。また最終的な観測運用を見据えて、具体的に検出器モジュールとのマッチアップや望遠鏡搭載、観測計画の立案も進めておく。 観測は最終年度のR7年度を予定している。本開発において確立される精度の高い波長走査技術を用いることで、「様々な空間スケールで大規模星形成活動の様子を探る」ことが可能になる。まず、系内大質量星クラスターの構成メンバーの分光診断結果から、大規模星形成領域を形作る大質量星の誕生とクラスターの形成・進化についての系統的な情報を得る。引き続いて銀河へと対象を伸ばし、塵によって内部が隠された近傍スターバースト銀河の内部の星形成の空間分布の調査、さらに宇宙全体で最も星形成が活発に行われていた時期を中心に、遠方銀河における星形成の引き金となっている物理プロセスを探る。
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Causes of Carryover |
本研究に関係した課題が、国立天文台・先端技術センターの共同開発研究に採択されたことにより、当初計画していた測定環境整備費用を軽減することができた。具体的には冷却実験のためのクライオスタットの改修で、本開発に適した仕様への改修作業である。主な最適化はには機械的な部分であるが、他にも真空系、電装系も含め、実験の信頼度・安定性が高いものへと更新する予定である。なお、本研究に最適化したクライオスタット本体は代表者が過去に観測研究に使用していたものであり、装置の理解度や使用の自由度は高い。 また、データ取得用の計算機購入を予定していたが、次年度も性能評価試験を継続する必要があり、それが終了した時点での購入でもその後の研究には影響しない。これは次年度に実行(購入)する予定である。
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