2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of hybrid thermal model for small bodies integrated shape and roughness models
Project/Area Number |
23K03478
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Research Institution | Maebashi Institute of Technology |
Principal Investigator |
荒井 武彦 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (80548066)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 小天体 / リュウグウ / はやぶさ2 / 中間赤外カメラ / ラフネスモデル / 熱物理モデル / 小惑星 / 彗星 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は, 2018年から2019年に小惑星探査機はやぶさ2搭載中間赤外カメラ(TIR)によって取得された小惑星162173リュウグウの表層温度データを解析し,表層の熱物性,熱物質進化,さらにリュウグウが誕生した当時の物理環境を明らかにすることを目的としている. TIRは自転するリュウグウの温度変化を連続で観測したため,時系列の温度変化を熱物理シミュレーションモデルと比較して,表層の熱物性や熱物理特性を推定できる.しかし,地形の起伏の影響で表層の岩塊同士が温め合う効果(多重輻射による加熱効果)やTIRの空間解像度よりも小さい起伏の影響(表層ラフネスの効果)のシミュレーションに大規模な数値計算が必要であったため,リュウグウ表層の温度を数値的に再現できていない.本研究では,大容量メモリ(96Gバイト)を搭載したハイスペックマシン(Mac Pro)を使用して,リュウグウの詳細な形状モデルを構築し,TIRが観測した表層温度を数値シミュレーションで再現することを試みている. 現在までにラフネスモデルとして三角錐を並べ表層の凹凸を模擬したAligned Pyramidモデルを開発し,既存の正規乱数を振ってランダムな地形の起伏を模擬するRandom Gaussianモデルとポリゴンのひとつひとつをクレータに見立てて計算を行うSpherical Section Craterモデルと比較して,最も観測データを再現できるモデルを選別している.今回開発したモデルによる観測データの再現度は高く,このモデルを使用して,リュウグウ表層の熱物理特性を明らかにする予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,小惑星リュウグウの詳細な熱物理モデルを数値的に構築し,中間赤外カメラTIRが観測したリュウグウの熱データと比較して,表層の熱物理特性(熱物性,熱慣性,空隙率)を明らかにする. 初年度は,観測データを再現するための熱物理モデルの構築を行った.リュウグウは自転速度が7.6時間のため,朝と夜の間の日照時間内で地下に染み込む熱は数cm程度である.そのため,鉛直方向の熱バランスの式(太陽光の入力と反射,地表内部の非定常熱伝導方程式,地表からの熱輻射,地形間の熱輻射による熱の交換)を数値計算モデルとして開発した.既存のリュウグウの形状モデルは三角形のポリゴンの集合体で構築されているが,表層の微細な凹凸(表層ラフネス)まで再現できておらず,本研究では表層ラフネスモデルとして使用されている正規乱数で表層形状を粗くしたRandom Gaussianモデル,さらにポリゴンをクレータと見立てて計算を行うSpherical Section Craterモデル(Rozitis et al., 2006)を構築した.また,三角錐を整列させたAligned Pyramidモデルをオリジナルなモデルとして開発した. 3つのモデルから予想されるリュウグウの温度とTIRが観測した温度を比較すると,温度の空間分布は再現できているが,温度の絶対値を再現できていない,または絶対値を再現できているが,時間変化を再現できていない,などそれぞれのモデルの特徴を確認できた.この結果から,これらのモデルを統合したハイブリッドモデルを構築し,観測データを完全に再現するパラメータを決定すれば良いことが判明した. 初年度は,モデルの高い再現性を確認できたため,おおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の中盤にTIRのリュウグウウ観測データを再現する熱物理モデルを完成させる.その後,リュウグウ表層の熱物理特性,空隙を明らかにするためのモデルを構築する. はやぶさ2が地球に持ち帰ったサンプルの初期分析の結果から,リュウグウの元になった天体は彗星の形成領域で誕生したことが示唆されている.本研究では,リュウグウ表層の熱観測データから,リュウグウ表層の水の昇華した痕跡の発見を試み,もし,その痕跡が発見できれば,リュウグウは元々彗星だった可能性を示唆できる.または発見できなかった場合でも水を多く含む天体を起源とする岩石の寄せ集めで誕生したことを示唆できる.リュウグウは太陽系で最も始原的なCIコンドライトと同組成で構成されている天体であるため,太陽系の起源物質がどのような環境で誕生したか明らかにすることができる.詳細な熱物理モデルが推定する結果からリュウグウが経験した進化と起源の描像を明らかにする. 本研究で開発したソフトウェアは次世代の小天体熱物理モデルとして,オープンソースとして公開する予定である.小天体の熱解析用のスタンダードなソフトウェアとして,世界中のユーザーに使用されることを目指している.
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Causes of Carryover |
残金に端数があり,0より大きな数値になっている.次年度の計画に変更はない.
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