2023 Fiscal Year Research-status Report
太陽系創生期における含水天体の進化:その多様性の理解と評価指標の確立
Project/Area Number |
23K03479
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Research Institution | Saitama Prefectural University |
Principal Investigator |
小松 睦美 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (50609732)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 小惑星 / はやぶさ2 / ラマン分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
はやぶさ2探査が試料採取に成功した含水小惑星は,太陽系内の水と有機物の進化の鍵を握る可能性が高いことから,小惑星リュウグウ試料の分析が,太陽系創世期の物質進化の理解に大きく寄与することが期待されている。これまでの分析により,リュウグウ試料は”超”始原的な小惑星であることが明らかになっているが,同様の隕石は非常に稀な種であることから先行研究が限られており、その”超”始原的小惑星内の多様性を評価することが困難である。そのため,本研究では有機物の顕微ラマン分光分析を活用することで,小惑星の熱的進化評価を試みた。 隕石物質に含まれる有機物は、炭素の結晶構造に起因するDバンドとGバンドを示すが、超始原的隕石試料(CIコンドライト)における加熱進化のトレンドについては明らかになっていない。そこで本研究では、CIコンドライト隕石Orgueil, Ivuna,リュウグウ試料,CMコンドライトについて,同条件での分析における有機物の加熱履歴の検証を行った。その結果,ラマンパラメーターの値に大きな差は見られないが,蛍光強度がCIコンドライト隕石とCMコンドライトでは差があることが明らかになった。このことは,ラマンスペクトルの蛍光強度と熱変成の程度に相関関係があり,蛍光強度が熱変成の指標となり得ることを示している。本分析を取りまとめた成果を論文として提出した。 また,含水小惑星での熱変成は,短時間の衝突加熱の可能性が高いと考えられることから,埼玉大学との共同研究として,サファイアアンビルセルを用いた,加熱によるラマンスペクトルのその場観察に着手した。現時点では,隕石中の有機物の含有量の違いにより,試料の加熱変質の度合いが異なることが示されており,今後,加熱条件を変えた実験を行うことでラマンスペクトルの変化の詳細を検証する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である,含水小惑星での熱的進化についての定量的指標の確立のための基盤となる,隕石物質のデータ取得を中心に行った。本研究での分析対象とするCIコンドライト隕石は,ラマン分析における蛍光強度が高いことが示された。しかしながら,その蛍光強度が高いことから,ピーク分離に問題が生じることが分かり,レーザー照射条件の調整が必要となった。CIコンドライト隕石とリュウグウ粒子の比較を目的とした実験条件の最適条件を検証した結果は,”Raman spectroscopy of Ryugu particles and their extracted residues: Fluorescence background characteristics and similarities to CI chondrites” として取り纏め,Meteoritics and Planetary Science誌に投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も,当初の目的である,始原的な小惑星での鉱物・有機物・水の反応に基づく評価指標の確立を目指し,始原的小惑星物質の分析を進める。今年度取り纏めたラマン分析条件を基準として,他種の隕石について分析を進めることで,熱変成度との関連性について検証を行う。また,始原的小惑星試料には,水質変質の二次的鉱物である層状ケイ酸塩鉱物と炭酸塩鉱物が多く含まれることから,含水小惑星の母天体では鉱物と有機物が共に反応した可能性が高い。そのため,鉱物学的手法による層状ケイ酸塩鉱物および炭酸塩鉱物の水質変質度の評価も平行して行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では、赤外分光光度計による赤外領域の有機物の吸収スペクトルから化学組成を同定し、その存在度を検証することを計画している。2023年度は,申請者の所有するフーリエ変換赤外分光光度計(日本分光製FT-IR 4100, 2012年度科研費にて購入)に新たに窒素供給装置設備の設置をする予定であったが,分光器の光軸調整に時間がかかったため,2024年度に導入がずれ込むこととなった。この調整に伴い,使用額に変更が生じた。
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