2023 Fiscal Year Research-status Report
格子ボルツマン法による接地境界層乱流解析に向けた大気モデル開発研究
Project/Area Number |
23K03499
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大野 知紀 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (20816160)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 熱力学 / 湿潤大気 |
Outline of Annual Research Achievements |
気象学および気候学において一般的に用いられている湿潤大気の熱力学の表現方法は、様々な手法により大幅に簡略化されており、それらの簡略化法は通常は熱力学系の一貫性を考慮せずに適用されている。こうした熱力学系の内部的な不整合は数値モデルの誤差要因の一つであることが知られている。成層状態を特徴づける熱力学変数の予報方法を検討する上で熱力学の表現方法は根幹部分であり、成層条件の下でのシミュレーションを実施するモデルの構築を目的とする本課題おいては重要な要素である。 本年度では、気象学的に一般的用いられている熱力学表現と内部的な整合性を考慮したものとの違いが、大気場、特に熱力学場の形成に与える影響について解析を行った。気象学・気候学的な応用に対する影響を包括的に議論するため、全球モデルを用いて2つの熱力学系を用いた感度実験を行った。実験の結果、熱力学表現の選択は熱帯対流圏の温度成層に影響を与え、気象学的に用いられている簡略化された系を用いた場合の方が熱帯上層で温度が高く、成層が安定化することがわかった。熱帯の成層が湿潤断熱線に近いことを用いて、気象学的な熱力学表現において用いられているそれぞれの簡略化の、モデルにおいて形成される温度場の違いへの寄与を定量的に解析した。さらに、熱力学表現の違いによる成層の違いは地表面温度が高くなるほど大きくなることを示した。 モデルにより予測される温暖化に伴う大気の安定化は、衛星観測により推定される値に比べて過大評価であることが過去の研究により長年知られているが、未だ原因は明らかにされていない。本研究で得られた結果はこうしたモデルと観測の振る舞いの差異に熱力学表現が関わっていることを示唆しており、精緻なモデルの構築のみならず、気候変動予測や気候変動に伴う顕著現象の変化に対する研究においても有用な知見と考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大気熱力学の表現方法は、成層状態を特徴づける熱力学変数の予報における根幹部分であり、成層条件の下でのシミュレーションを実施するモデルの精緻化における重要な要素である。 接地境界層乱流への応用に向けたプロトタイプである、鉛直2次元大気モデルの構築に向け順調に進行している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度では成層の重要性から熱力学表現に着目して検討を行ってきた。この他、接地境界層乱流への応用においては LBM を用いることで表現しようとするスケールより小さなスケールの影響を取り入れる手法を考慮する必要がある。そのために、比較的計算負荷の小さな低次元の問題において、接地境界層乱流への応用上適切な予報方程式、離散化手法、大気下端の境界条件についての検討を行う。接地境界層乱流へ応用するモデルの中核部分の開発を行う。
|
Causes of Carryover |
本年度の研究成果をアメリカ地球物理学連合(AGU)の学会誌AGU Advancesへ"Impact of moist thermodynamics expressions on climatrogical temperature fields represented in a global cloud resolving model"のタイトルで投稿し、掲載料として使用する予定であったが、原稿の推敲のため次年度へ繰り越した。繰り越し多額は、前述の論文の掲載料とそのオープンアクセス費用に使用する予定である。
|