2023 Fiscal Year Research-status Report
殻体基質タンパク質による化石シャミセンガイの系統関係と生物地理学的変遷の解明
Project/Area Number |
23K03560
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
上田 裕尋 東京農工大学, 学内共同利用施設等, 特任助教 (20963953)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 一佳 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80251411)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | シャミセンガイ / 腕足類 / 殻体タンパク質 / SMPs |
Outline of Annual Research Achievements |
シャミセンガイ(Lingula)は最も研究されている腕足類である。日本近海に生息するシャミセンガイは3種とされてきたが、近年の分子生物学的解析によって形態では識別できない隠蔽種の存在が指摘されており、形態学的な種の識別が難しいことが分かってきている。 シャミセンガイの化石は本邦の第四系堆積物からもよく発見されるが、十分な長さのDNAが得られないため現生種のような分子系統解析ができない。そのため、発見された化石が現生シャミセンガイのどの種に近縁かわからないという問題がある。本研究では殻内部に保存されている殻体タンパク質(SMPs)のアミノ酸配列からシャミセンガイの種分化や生物地理学的変遷を明らかにすることを目的とする。 本年度は、解析に必要となる化石サンプルの採集と解析に必要な機器や薬品類の調整を進めてきた。化石シャミセンガイは千葉県木更津市真里谷に露出する藪層(364Ka~301Ka[MIS10~MIS8])の露頭から採集を行った。しかし、この調査地で採集されるシャミセンガイ化石は非常にもろく、殻内部の殻体タンパク質の多くが分解されている可能性が出てきた。そこでなるべく保存状態の良い化石を入手するために、さらなるサンプル採集を進める予定である。本調査地では同時に定方位サンプリングを行い、採集した岩石ブロックを丸ごとCTスキャンした。このCTデータを用いて現在、シャミセンガイの殻の保存状態と産状の解析を進めている。これらの化石シャミセンガイの解析を進めることで、古東京湾に生息していたシャミセンガイと現生種の類縁関係に迫ることができる。 現生種の殻体タンパク質の解析のために、有明海産のシャミセンガイを用いて試験的な実験を進めた。今後、静岡県下田、岩手県陸奥湾等の現生シャミセンガイを入手し、化石シャミセンガイと共に殻内部に保存されている殻体タンパク質を抽出する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
化石シャミセンガイを採集予定だった露頭周辺でダニが大量発生しており、調査参加者の一名がダニにかまれ、本研究代表者も多くのダニにたかられる被害にあった。そのため、ダニの活動が抑制される冬季まで採集が困難となった。 また、多くの腕足類や軟体動物と異なりリン酸カルシウムの殻をもつシャミセンガイから殻体タンパク質を抽出する実験に、研究代表者が予想よりも手間取ってしまい、習得に時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度とは別の地層及び時代の化石シャミセンガイの採集を試みる予定である。特に地域は多摩川周辺に露出する飯室層および金沢市周辺に露出する大桑層から化石シャミセンガイの採集を進めていく予定である。 また、下田沖、陸奥湾から現生シャミセンガイを入手し、有明海産シャミセンガイと共に外套膜のトランスクリプトーム解析と殻体タンパク質のアミノ酸配列の解析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
シャミセンガイの殻体タンパク質の抽出に予定よりも時間を要しており、年度内でのプロテオーム解析の外注へ進めることができなかったため。これらの予算は本年度分と合わせてプロテオーム解析及びトランスクリプトーム解析の費用として充てる。
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