2023 Fiscal Year Research-status Report
千葉県市原市チバニアン露頭の化石花粉に基づいたMIS19間氷期の古気温定量復元
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23K03567
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Research Institution | Natural History Museum and Institute, Chiba |
Principal Investigator |
奥田 昌明 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (10311383)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 千葉セクション / チバニアン / 花粉化石 / 古気温 / 市原市田淵 / イタリア / モンタルバーノ・イオニコ / ヴァレ・ディ・マンケ |
Outline of Annual Research Achievements |
チバニアン申請の根拠となった市原市田淵・千葉セクションに対する化石花粉解析を行い、分析およびデータ採取を完了した。 分析試料はチバニアン申請リーダーである茨城大学・岡田教授らの協力のもと、産総研などに保存されている申請チーム共用の試料アーカイブを使用し、令和6年の春までに216点の分析を完了した。データ解像度については「250年/試料」がほぼ等間隔で達成されている。千葉セクションの化石花粉分析については、チバニアン審査のためにプレデータが㈲アルプス調査所の本郷氏らによって実施されたことがあるが、それは分析点数が99点に過ぎなかった上、試料間隔には著しい偏りが見られたため、本計画が提供する新しい花粉データは顕著に改善されている。 具体的な作業としては、化石花粉抽出に向けた堆積物試料の前処理を、千葉県立中央博物館の第1化学分析室で実施した。また、光学顕微鏡を用いた検鏡カウントは同地学研究科室で実施した後、得られた花粉データ(%)はモダンアナログ法により80万年から75万年前までの古気温データ(℃)に変換した。 得られた結果は、地磁気逆転を含んだ77万年前頃の温暖期(MIS19)のシグナルが予想していたよりも微弱で持続期間も短めであること、その後に続く氷期(MIS18)が均質な寒冷期ではなく、幾つかの小温暖期を含むことなどを示している。この小温暖期は化石花粉組成の中でもスギ科(Taxodiaceae)の多産によるものであるが、類例としては最終氷期にグリーンランドで知られるダンスガード・エシュガーイベントと類似していた。 なお、70万年前頃の氷期に同じく急激な気候変動であるハインリッヒ・イベントが認められることは既に報告があったので(Naafs et al. 2013など)、同博物館で令和5年夏に実施されたチバニアンに関する特別展の展示解説書の中で、同現象に係る解説記事を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画の進捗状況は、おおむね予定どおりに進行している。予定より明確に遅れたと言えるのは、以下2点である。 (1)イタリア共和国の海外調査のうち、チバニアンの競合地であったヴァレ・ディ・マンケ(以下マンケ)の立入調査ができなかった。海外の化石産地の調査には現地管理者の許可が必要だが、マンケの管理者であるパドヴァ大学(イタリア北部ヴェネト州)のCapraro教授と連絡がつかなかったためである。 さらに、マンケの周辺には牧場地が点在していることが判明した。南欧の牧場には巨大な牧羊犬がいるのが常であり、案内人のいない状態で牧羊犬に近づくと命にかかわるので、令和5年度調査ではマンケの調査は行わず、代わりにチバニアンのもう一つの競合地であったモンタルバーノ・イオニコ(以下モンタルバーノ)の調査に切り替えた上で実施した。 モンタルバーノの管理者であるバーリ大学(イタリア南部プーリア州)のGallicchio教授らとは連絡をとることができ、現地の立入許可を得るとともに、調査開始時には現地案内を受けることができた。今回は調査できなかったヴァレ・ディ・マンケについては令和6年度に再度渡航し、計画の遂行を試みる。 (2)研究開始と同時に購入予定で計上していた備品のひとつ(遠心分離器)を、令和5年度には購入することができなかった。購入予定だった物品は佐久間社製の多本架遠心機 (RSL-IVD/SL-IVD)であったが、円安や物価高の影響により、当初見積から大幅に値上がりし(本体価格にスイングロータ等の付属品を加えれば80万円以上)、令和5年度の直接経費では賄うことができなかった。これについては、庶務課の科研費担当とも相談の上、令和6年1月時点で残額(62万円)を次年度に繰り越し、翌年度に支給される直接経費と併せて購入することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のとおり、令和6年度には、初年度に実施できなかったイタリア共和国ヴァレ・ディ・マンケについて、他に現地案内人を探す等の努力により、当初計画に記した調査を実施することを試みる。また、令和5年度に残額不足で購入できなかった多本架遠心機 RSL-IVD/SL-IVDを、前年からの繰越費と併せた令和6年度の直接経費で購入する。 学術研究の分野においては、データ採取のための分析作業は令和5年度のうちに完了しているので、得られた化石花粉(%)および定量変換後の古気温(℃)データをとりまとめ、国際学術誌に出版すべく、論文執筆に集中する。この作業は令和6年度中に掲載までが終了することを目指して作業する。このほか、チバニアンに関する一般書の出版を企画しており、こちらは出版社との兼ね合いがあるので令和7年度にずれ込むかもしれないが、なるべく早期の出版を目指して作業する。
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Causes of Carryover |
研究開始と同時に購入予定で計上していた備品のひとつ(遠心分離器)を、令和5年度には購入することができなかったためである。購入予定物品は佐久間社製の多本架遠心機(RSL-IVD/SL-IVD)であるが、円安や物価高の影響により、当初見積から大幅に値上がりし、本体価格にスイングロータ等の付属品を加えた総額は80万円以上になっていた。これでは令和5年度の直接経費から海外出張旅費(896,619円)を除いた残額では賄うことができなかったので、次年度使用額として繰り越し、令和6年度に支給される直接経費と併せて購入することとした。
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