2023 Fiscal Year Research-status Report
アルキル鎖導入に伴う分子弾性結晶の構築:力学特性の精密制御と複合物性化
Project/Area Number |
23K04875
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
堀井 洋司 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (90809485)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 弾性結晶 / 磁性 / 電気伝導性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、結晶でありながら可逆的に折り曲げることが可能な弾性結晶について、1)化学ドーピングによる力学特性の精密制御および2)弾性・磁性・電気伝導性が共存した系の構築の2つに取り組みました。 1)のテーマでは、ポルフィリン分子からなる有機結晶を研究対象としており、無金属ポルフィリンに金属ポルフィリンを混入させて結晶化することで、1-90%までの任意の割合で固溶体形成が可能であることを見出しました。また、混合比によって曲げひずみが段階的に減少する、すなわち固くなることを示すデータを得ました。特筆すべきは、ポルフィリン結晶が温度低下によって軟化するような挙動を示す点です。おもりを結晶の先端に取り付けて結晶を冷却すると、温度低下によって結晶がしなるような挙動を示します。また、金属ポルフィリンの混合比を増加させると、結晶が軟化する温度が低下するとともに、軟化が狭い温度範囲で起こることを見出しました。軟化のメカニズムを解明するため、結晶を曲げた状態で保持できるX線測定用マウントピンを自作し、2024年度初めよりSPring-8設置のピンポイント構造計測装置を利用することで、結晶を曲げた際の結晶構造の変化を解明しようとしています。 2)のテーマでは、ポリフィリンよりも平面性の高いフタロシアニンを弾性結晶の構成要素として用いることで、弾性・磁性・電気伝導性の3つが共存した結晶の構築に世界で初めて成功し、学会にて発表しています。実験開始当初は、アルコキシ基をβ位に導入したフタロシアニンを用いましたが、十分な大きさの結晶を得ることができませんでした。しかしながら、フタロシアニンのα位にアルコキシ基を導入したところ、物性測定可能なサイズの単結晶が得られ、弾性・磁性・電気伝導性を示すことが明らかとなりました。現在、力学変形に伴う磁性・電気伝導性の変化を検出しようと計画しています。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1)のテーマでは、SPring-8でのピンポイント構造計測装置によって、結晶を曲げて円弧を作った際、円弧の外側と内側で結晶構造が段階的に変化していることを示唆するデータを得ています。また2)のテーマは、弾性・磁性・電気伝導性という、結晶構造が大きく関連する3つの物性を1つの結晶系で共存させる試みであり、苦戦を強いられると予想していましたが、課題開始初年度でこれを達成することができました。以上より、本研究課題は予想以上に早く進展していると評価します。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、1)の結晶軟化のメカニズムとして、結晶におもりをつけて負荷をかけつつ冷却した際に、構造相転移が不均一に起こっていると考えています。今後はSPring-8でのピンポイント構造計測装置を用い、弾性結晶における構造マッピングを行い、不均一な構造相転移を実証します。また2)のテーマについては、結晶に負荷をかけて変形させつつ電気伝導度を測定可能な装置を自作し、初年度で得られた結晶における物性の力学変形依存性を解明します。また、軟X線磁気円二色性マッピングによって、力学変形に伴う磁気特性の変化を観察することを計画しています。
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