2023 Fiscal Year Research-status Report
Long-term ECMOに向けた次世代国産ガス交換膜の開発:膜構造と機能の異方性設計
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23K08487
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
福田 誠 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20434954)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | long-term ECMO / 中空糸膜 / ポリプロピレン / ポリメチルペンテン / 異方性 / 緻密層 / 細孔構造 / イオンミリング法 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による重度の急性呼吸促迫症候群(ARDS)患者を治療するため体外式膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenator;ECMO、エクモ)の有効性が全世界的に周知され注目されている。COVID-19重症患者のECMO治療には通常2週間などを要するが、本邦では6時間を超える中長期使用が可能なECMO装置は認可されておらず所謂オフラベル使用が常態化していた。医療機器開発体制強靭化の観点からも、中長期耐性を有するlong-term ECMOの実用化が期待されている。 中空糸形状のECMO用ガス交換膜では、酸素と二酸化炭素が膜厚部を構成する細孔内部を相互に逆方向に透過する。そして治療日数が長いほど、水蒸気や血漿あるいはSARS-CoV-2などのウィルスが細孔内部に浸潤し、透過しやすい。したがってECMOが中長期使用において十分な耐久性を発現するためには、酸素および二酸化炭素の透過を促進し、かつ水蒸気や血漿の透過(浸潤)を抑制する、相反する機能が必要である。このためにはECMO膜厚部全体の細孔構造と機能の異方性を高度に制御することが重要である。 本研究課題の第1年目における計画は、多様な素材および構造の中空糸状多孔質複合膜ECMO膜について、膜構造を明らかにし、ガス交換性能や生体適合性などの機能との関連を検証することである。特に多孔質構造への物理的応力が負荷されにくいion-milling(IM)法に着目し、市販のポリメチルペンテン(PMP)膜の膜横断面観察を試みた。その結果、PMP膜の平滑横断面の作製に成功し、その上で異方的細孔構造と緻密層を観察することが可能となり、膜横断面の異方性度合いを定量的に明らかにした。以上のことから、研究実施計画に掲げたマイルストーンに従って、第1年目の研究課題を遂行することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
PMP膜の平滑横断面の作製に成功し異方的細孔構造とdense selective layerを精緻に観察することが可能となったことで、膜構造の評価解析や膜試作について、和歌山県工業技術センター、(地独)大阪産業技術研究所および関連企業との共同研究を一層速く進めることができる体制となった。特に申請者らは(地独)大阪産業技術研究所との共同研究契約を新たに締結し、イオンミリング装置(IM4000-PLUS, Hitachi High-Tech, Tokyo, Japan)を改良した冷却イオンミリング法により、試作膜の細孔構造解析を進めることができる。これにより、多様な素材や多孔質複合構造それぞれの特性に適したサンプル解析方法を検討する予定である。 また分子動力学(Molecular Dynamics:MD)シミュレーション法による検討が進展した。手法として連続体モデル(流体モデルなど)ではなく粒子モデルを用いて、ECMO中空糸膜環境を模擬したシステムと力場を新規構築し、MDシミュレーションを実施した。これにより初期に乾いた状態である中空糸膜細孔に血漿中の水が浸透する過程を調べる事ができた。また酸素および水分子の膜透過現象(交換過程)の可視化に成功した。MDシミュレーション法で求めたガス透過速度と実際の実測値との関係を逐次検証することで、シミュレーション過程をより現実的なモデルに落とし込む事ができた(研究協力者 近畿大学生物理工学部生命情報工学科 宮下尚之准教授)。さらに、ECMO用ガス交換中空糸膜のN2およびCO2ガス透過速度を測定した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第2年目の課題は、Long-Term ECMOのための次世代国産ガス交換膜の考案と試作、評価である。多様な材料や構造で構成されるECMO用中空糸膜について、冷却イオンミリング法による膜横断面の細孔構造解析法を確立するとともに、新たな切り口として、細孔内におけるO2/CO2/水分子混在系でのガス相Knudsen拡散現象を検証することを目的としている。これらの達成に向かって予め計画していた方針に従って研究を進める。この試みは膜工学的観点membrane scienceからの洞察を可能とし、本研究の成果や手法は次世代ガス交換膜の開発に利活用される。新規抗血栓性技術も搭載された次世代ガス交換膜およびECMOの実用化が期待されている。
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Causes of Carryover |
(地独)大阪産業技術研究所との共同研究契約を新たに締結したことにより、イオンミリング装置(IM4000-PLUS, Hitachi High-Tech, Tokyo, Japan)などの借用や検査費用などを支払わなくてもすむようになった。この分を医療機器(膜型人工肺)や装置の消耗品購入のための物品費に充当する計画である。
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