2023 Fiscal Year Research-status Report
マイクロ流体デバイスを用いた記憶維持の分子メカニズムの再構成
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23K14289
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣内 大成 京都大学, 医学研究科, 特定研究員 (00965717)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | LTP / 液-液相分離(LLPS) / CaMKII / マイクロ流体デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶の基盤である長期増強現象 (LTP)では、頻回刺激を受けたシナプスでは反応が亢進する一方、周囲のシナプスは変化しない。このような入力特異性の分子機構は未だ明らかでない。最近、活性化したCaMKIIは液-液相分離(LLPS)により濃縮相を形成することが報告された。そこで本研究では「活性化したCaMKIIのLLPSで形成される濃縮相が入力特異的シナプス反応の亢進のための分子装置として働く」という仮説を立て、シナプス内で「情報」が記憶されるメカニズムを再構成することを目指す。特に、単一シナプスでのCaMKIIの活性化を再現するため、マイクロ流体デバイスを活用していく。それにより(1)スパインを模倣した環境でCaMKII濃縮相による活性化維持を再構成し、(2)CaMKIIが濃縮相内でCa2+非依存的に活性化されるかを検討する。 今年度は、主にマイクロ流路デバイス作製方法の検討、および本研究の目的を達成するためにマイクロ流体デバイスに求められる条件の検討を行った。その成果として、マイクロ流路デバイス作製において、カッティングプロッタを用いた簡易マイクロデバイス作製法を導入し、流路デザインの試行錯誤における工程数や時間、ランニングコストの削減を実現した。また、この方法で作製したマイクロ流体デバイスを用いてCaMKII濃縮相の形成、維持機構の再構成するための条件を検討した結果、本研究の目的を達成するためにデバイスに求められる条件として、デバイス表面に CaMKII濃縮相の構成分子を流動性を保った状態で固定することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では「活性化したCaMKIIのLLPSで形成される濃縮相が入力特異的シナプス反応の亢進のための分子装置として働く」という仮説を立て、シナプス内で「情報」が記憶されるメカニズムを再構成することを目指す。特に、単一シナプスでのCaMKIIの活性化を再現するため、マイクロ流体デバイスを活用していく。それにより(1)スパインを模倣した環境でCaMKII濃縮相による活性化維持を再構成し、(2)CaMKIIが濃縮相内でCa2+非依存的に活性化されるかを検討する。 マイクロ流体デバイス作製では、カッティングプロッタを用いた簡易マイクロデバイス作製法を導入し、流路デザインの試行錯誤における工程数や時間、ランニングコストの削減を実現した。 (1)に関して、作製したマイクロ流体デバイスを用いて、CaMKII濃縮相の形成、維持機構の再構成するための条件を検討した。デバイス外で形成させたCaMKII濃縮相を流路に流したところ、焦点面がずれるなど、(2)の目的を果たすための安定した観察が難しいことがわかった。そこで、CaMKII濃縮相の構成分子であるNR2Bをマイクロ流体デバイス上に固相化し、流路に活性化CaMKIIを流すことでデバイス上でCaMKII濃縮相を形成させることを試みたが、この条件ではデバイス上でCaMKII濃縮相は形成されなかった 。これらの検討結果から、デバイスに求められる条件として、デバイス表面に CaMKII濃縮相の構成分子を流動性を保った状態で固定することが示唆され、来年度に向けたデバイス作製における知見を得ることができた。 (2)に関しては、上記のマイクロ流体デバイスの条件検討を進めることで、残りの期間で検討できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的を達成するためのマイクロ流体デバイスの条件について、今年度の検討により、デバイス表面に CaMKII濃縮相の構成分子を流動性を保った状態で固定することが示唆された。そのため、脂質を用いることでガラス表面にCaMKII濃縮相を構成する分子を流動性を保ちつつ固定化できるのではないかと考えており、ひきつづき条件検討を進める。また、(2)の目的を達成するために今年度CaMKII変異体の精製を試みたが、一部の変異体で収率が低くなることがわかった。これらの変異体について、精製効率を高めるための条件検討も進めていく。
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Causes of Carryover |
研究開始当初、マイクロ流体デバイスの作製は光硬化性樹脂(フォトレジスト)やPolydimethylsiloxane (PDMS)を用いた一般的な方法で行い、デバイスの条件検討を行う計画であった。しかし、高価で専門的な装置や設備を必要とすること、試薬の入手の難しさ、およびランニングコストは、様々な流路デザインを試行錯誤する際の制限となることから、デバイスの迅速な試作のためにカッティングプロッタを用いた簡易的な作製方法を導入した。これにより、流路デザインの試行錯誤における工程数や時間、ランニングコストの削減を実現できたことで、当初の計画に比べ共用機器利用などの面で今年度使用額が大幅に削減されたことが次年度使用額が生じた理由である。一方でデバイスにおける条件検討は当初の予定よりも様々な条件を試す必要があること、条件検討を完了したデバイスを用いた再構成実験を来年度は本格的に実行できる見込みであること、CaMKII変異体分子精製効率向上のためにさらなる条件検討が必要となったことから、次年度末には概ね2年分の使用計画の通りに使用すると見込まれる。
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