2023 Fiscal Year Research-status Report
材料科学と遡及的解析を基にした高品質上皮組織工学の実現
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23K17216
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
園井 理惠 九州大学, 工学研究院, 助教 (30792345)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 細胞挙動 / 上皮極性 / 液体足場 / 再生医療 / 力学的相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮細胞はバリア機能を形成・維持し,様々な物質移動を担っている重要な組織である.生命機能の維持には均一な上皮極性形成が望ましく,再生医療等製品の非侵襲的な評価や制御ができれば,iPS細胞から分化誘導した貴重な細胞を損失せずに,高品質な製品提供を約束する.令和5年度では,基底膜側からのデザインされた力学刺激によって高速かつ均一に上皮細胞を成熟化することを目的とし,液体足場を用いて上皮細胞を培養した.細胞は成熟化における細胞挙動と特性を調べるためにタイムラプス観察と免疫染色を行い,定量解析を実施した.その結果,液-液界面でMDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞を培養すると,遊走が低下し,活発な細胞増殖を示した.一方,フィブロネクチンでコートした液-液界面で培養した細胞は,固-液界面と同様に活発な遊走と増殖を示し,最終的には集密的な状態に達した.その後フィブロネクチンでコートした液-液界面の細胞は,ストレスファイバーの形成が抑制され,敷石状の形態となり,培養容器内に均一に分布した.培養容器内において,これらの細胞はタイトジャンクションを均一に形成し,成熟に達した.ストレスファイバーの形成とアポトーシスを抑制するために,Rho-associated protein kinase(ROCK)の特異的阻害剤であるY27632を何もコートしていない液-液界面の細胞に曝露すると,細胞が高密度かつ均一に液-液界面上に分布し,成熟に達した.以上の結果から,液-液界面における上皮細胞の挙動を制御することで,培養容器内の細胞の成熟化を均一に促進することを明らかにした.これらの研究成果を3月には論文として投稿するとともに,プレプリントとして公開した(https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-3993493/v1).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,材料科学及び組織工学における基盤技術として,多くの組織・臓器の実質機能を担う上皮細胞組織を,in vitroにおいて効率的に形成する方法を探索し,高品質な再生医療等製品の産生に寄与することを目的とするものである.上皮細胞のモデル細胞として用いられるMDCK細胞を用いて,液体足場を介して細胞挙動を制御し,成熟化を促進することを明らかにし,既に1篇の論文を投稿している.これらの成果は,臨床研究が進められているヒト角膜や網膜色素上皮細胞等に適用することで,より実用性の高い応用研究に向け展開することを考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに液-液界面で培養した上皮細胞の成熟化における挙動と特性を既に明らかにしており,今後は,取得した知見を基に液体材料を用いた上皮細胞の成熟化並びに上下軸極性制御のための培養環境の設計に展開する.また,培養プロセス開発に不可欠な操作性や安定性の検討とともにヒト網膜色素上皮細胞や角膜細胞を用いた実践的な課題に取り込む.なお本申請の目標設定は,予備検討が終了していることから実現可能なものと判断できる.
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