2023 Fiscal Year Research-status Report
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23K17781
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松井 良太 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (00624397)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡崎 太一郎 北海道大学, 工学研究院, 教授 (20414964)
丸山 一平 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (40363030)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 座屈拘束ブレース / 環境負荷 / リサイクル性 / 塑性変形能力 / 機構安定性 / 繰返し載荷性能 / 制振部材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、1990年代に実用化され始めた、日本発の建設用部材である座屈拘束ブレースの材料に焦点を当て、環境負荷を低減する枠組みの構築を目指している。一般的に座屈拘束ブレースでは、コンクリートやモルタルなどの流動性のある材料を鋼管に充填し、鋼の芯材を拘束する形式が多用されている。座屈拘束ブレースは高い耐震性能を誇り日本のみならず海外でも積極的に開発が進められているが、最終的にはコンクリートと鋼を使用するためリサイクル性の低い産業廃棄物となる。そこで、本研究では環境負荷を低減する座屈拘束ブレースを実現することを目標としている。本年度は、この座屈拘束ブレースに関して、充填材の選定と試験体の設計に注力した。本研究課題では、環境負荷を低減するため、充填材に用いる材料の候補としてモルタル、ジオポリマー、砂質土と多孔質金属を挙げた。モルタルはリサイクル性とCO2削減量を期待できず、ジオポリマーはCO2削減量を期待でき、砂質土はリサイクル性が高くCO2削減量が期待でき、多孔質金属はリサイクル性の高い材料を選定した。座屈拘束ブレースは、環境負荷低減を試みつつも、国内外における設計指針において耐震性能の高い部材として評価できる仕様を目指した。局所的に塑性ヒンジを形成させることなく安定したエネルギー吸収性能を有する座屈拘束ブレースを対象に定め、芯材端部の補強部、充填材および拘束鋼管には十分な耐力と剛性をもつ材料と断面を採用した。このほか、塑性変形能力が同等と見なされる太短い座屈するブレースの繰返し載荷性能を検証した。同ブレースは、極稀に生じる地震動においても座屈拘束ブレースと同等の性能を有すると評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の最も重要な目的は、環境負荷を低減した座屈拘束ブレースの機構安定性と塑性変形能力を検証し、実現性を吟味することである。当初、計画していた通り、2023年に準備を進めたため、2024年度にこの座屈拘束ブレースの繰返し載荷実験を実施できる段階となった。実験を遂行するため、充填材の候補に挙げた環境負荷を低減する材料のうち、モルタル、ジオポリマーと砂は確保できる見通しが立っている。多孔質金属については未だ検討しきれていない点を残しているが、2024年7月までにすべての材料の手配を済ませられると見込んでいる。座屈拘束ブレースの芯材や拘束鋼管などの鉄骨部品については、依頼先の鉄工所に必要となる図面や指示書を送付済みであり、同様に2024年7月までに製品一式を実験場へ納品できる予定である。当初、2023年度に実施を予定していた充填材の性能確認試験や鉄骨部品の組織観察については、本課題で挙げた項目の優先順位を全体的に見直し、2024年度以降に実施することとした。これとは別に、本課題で提案する座屈拘束ブレースがいかに優れているかを示すため、比肩する座屈するブレースの繰返し載荷性能について検証した。得られた成果は、2024年度に実施する環境負荷を低減した座屈拘束ブレースの塑性変形能力をいかに検証するかという上で重要な示唆に富んでいた。以上から、当初よりやや方針転換したものの、本課題における重要な項目を予定していた通りに進められていると判定した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、環境負荷を低減する座屈拘束ブレースの繰返し載荷実験を実施できるよう行程表を組む。2024年4月から6月にかけて、充填材の力学的特性と施工性について実験で検証する。施工性、リサイクル性とCO2削減量を鑑みて、充填材として候補の材料は以下の通りに選定した。モルタルは、細骨材と結合材を同じ重量で混合したベースに石灰系膨張材を配合した無収縮モルタルとした。ジオポリマーは、施工性を重視し、施工性の良好なフライアッシュをベースとした高炉スラグ微粉末に凝結遅延剤などを加えた調合とした。砂質土は、細粒度含有率を調整するためJISで規定されている3号から7号の珪砂を選定した。多孔質金属については検討中であるが、弾性係数が10GPa程度のアルミニウムと鋼の合金を有力な候補と見定めている。これらの充填材の候補として選定した材料の力学的特性については、座屈拘束ブレースの載荷実験を実施する前までに実験で確認する予定である。 座屈拘束ブレースの芯材断面は、期待される最大耐力が試験機容量の350 kNを下回るよう、12 mm×60 mmとした。充填材にモルタル、ジオポリマーと多孔質金属を選定したブレースでは、圧密せずとも機能を維持できるため、最も簡便な拘束材の一種であるである鋼モルタル板の拘束材を選定した。充填材に砂質土を採用した座屈拘束ブレースでは、圧密しなければ機能を維持できないと予想し、周辺に数個の鋼管を配置して芯材を拘束する形式とした。両端をガセットプレートで接合し、座屈拘束ブレースに加力するセットアップを計画した。載荷履歴には、座屈拘束ブレースを組み込んだ架構がASCE/SEI 7で規定される所定の性能を満たすために要求されるプロトコルを採用した。以上より、当初計画した通り座屈拘束ブレースの繰返し載荷性能を、2024年10月までに検証できる見込みである。
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Causes of Carryover |
当初、研究分担者である東京大学の丸山が、北海道大学で実施予定であった実験に立ち会う予定であった。同実験は、本課題の核心である環境負荷を低減する材料の選定ならびに強度や剛性を確認するために実施することを計画していたが、ビデオ会議やメールを活用して丸山と相互に連絡を取り、また北海道大学でこの材料の分野を専門とする教員と協議することで十分に準備できると判断したため、丸山の実験立ち会いを見送った。次年度使用額は、この丸山の立ち合いに係る旅費の分を削減したため発生した。今後、次年度使用額は、環境負荷を低減する材料の入手費用に充当する予定である。
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