2022 Fiscal Year Annual Research Report
布工芸品の継承をめぐる文化人類学的研究――生産者、資源管理、加工技術を中心に
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21H00649
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Professional Institute of International Fashion |
Principal Investigator |
金谷 美和 国際ファッション専門職大学, 国際ファッション学部, 准教授 (90423037)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上羽 陽子 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (10510406)
柴田 誠 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (40799607)
竹田 晋也 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (90212026)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 布工芸品の継承 / 自然資源の知識と管理 / 材料の加工技術 / 材料を採取する生態環境 / 生産者のライフヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、布工芸品がグローバル化の進展のなかどのように継承され、変化を遂げてきたかを明らかにするものである。特に布工芸品の生産者がグローバル化によって変容する世界に対応する際に、布工芸品を支える自然資源の知識と管理、加工技術がどのように変化してきたのかを明らかにするものである。 2022年度は、研究対象の一つである京都府の藤織りについて金谷が丹後藤織り保存会を対象にコミュニティとライフヒストリーの調査をおこない、柴田が昨年度におこなった生態学的調査から得られたデータの分析をおこなった。それにより、地元コミュニティによる藤織り技術伝承の実践とフジ植生のある土地の生態学的特性についての一端を明らかにしつつある。その成果の一部は、金谷と竹田によって『民族藝術学会誌arts/ 』の特集としてまとめられた。また、柴田と指導学生によって京都大学で開催された国際シンポジウムにおいてポスター発表され、ベストポスター賞を受けた。 さらに、海外の共同研究対象地に代わり長野県安曇野市において天蚕を対象とした研究を7月の予備調査(前年度繰越分の調査)を踏まえて立案し、10月にスタートさせた。10月と2月の二回共同調査をおこない、天蚕の飼育の通年プロセスのうち後半部分を参与観察した。上羽が天蚕の繰糸に関する調査を12月と2月におこない、加工技術を明らかにしつつある。 金谷は、インド、グジャラート州において染織品アジュラクの生産者の現地調査を行い、グローバル化のなかで変容する生産者について明らかにした。その成果を、日本文化人類学会第56回研究大会(2022年6月4日~5日、明治大学)にて発表し、学会誌『文化人類学』に投稿準備中である。また成果の一部は国立民族学博物館友の会機関紙『季刊民族学』184号に発表し社会還元した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
5月に大阪において研究会を開催し、昨年度のまとめと今年度の研究計画について議論をおこなった。そのうえで、長野県安曇野市において天蚕の飼育と加工技術に関する文献調査と現地調査をおこなった。2021年度の繰越金を用いた7月の共同での予備調査に続き、2022年10月と2023年3月に2回の共同調査を行った。そこで明らかにしたのは、天蚕を布工芸品にするための工程として、1)天蚕の飼育、2)繭を糸にする、3)糸を布に織るの3つに分けられること、現地コミュニティは3つのグループに分かれて技術伝承と作業をおこなっていることである。1)については、天蚕の飼育はクヌギ畑の管理と、天蚕の1年をとおしたライフサイクルに対応した人間の働きかけについて観察する必要があることが分かった。2)については長野で技術展開したケンネル式による繰糸技術について明らかにする必要があることが分かった。1)についてはすでに10月と2月の現地調査によって観察をおこない、来年度も引き続き行う予定である。2)については主に上羽が12月と2月に技術を習得しながら調査をおこなっており、こちらも来年度に引き続きおこなう予定である。 京都府宮津市における藤織りの研究については、金谷が丹後藤織り保存会の現地調査を9回おこなった。保存会の役員会合やフジキリなどの藤織り製作作業に参加し、聞き取り調査をおこなった。また、金谷と竹田は、上世屋で活動する世屋里山ネットワークによる植物を利用した在来技術の伝承活動にも参加した。それによって技術伝承が直面する課題などを明らかにしつつある。インド、グジャラート州の伝統的染織品の生産者については、12月から1月にかけて現地調査をおこない、グローバル化に対応して生産者たちが布工芸品の素材を変化させていることを明らかにした。このように、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)研究打ち合わせ(2回実施、大阪開催):3年目となる2023年度は、前年度の研究成果を共有し、改めて研究組織全体としての問題意識を確認するために、国内での研究打ち合わせを実施する。 2)フィールド調査:京都府宮津市において藤織りを対象とする研究は、金谷と柴田によって継続する。長野県安曇野市の天蚕については、昨年度までに得られたデータを分析し、研究メンバー間で調査項目を検討のうえ共同調査と個別調査を実施する。調査項目は、①生産・流通・消費に関する生産者のライフヒストリー(金谷)、②自然資源管理のルールや権利、自然資源管理の在地の技術(竹田)、③植生の特徴と土地利用の変遷、資源利用量と回復速度の定量的評価(柴田)、④使途に応じた素材の選択、自然資源から糸・染料への加工技術(上羽)である。来年度は、現地調査を補うため遠隔操作可能な定点観測を行うことを計画している。そのためにデータロガーとカメラを設置する予定であり、機器設置の準備は整っている。 3)最終年度にむけた成果報告の形式や時期について、具体的に話をすすめ今年度中に決定する。
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