2021 Fiscal Year Annual Research Report
Open quantum dynamics theory of excition, electron and proton transfer processes: Hierarchical equations of motion approach
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21H01884
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷村 吉隆 京都大学, 理学研究科, 教授 (20270465)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 開放系の量子力学 / 電荷移動結合プロトン移動 / 電荷移動錯体 / ホルンスタイン・ハバードモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の第一段階として、光合成系や電荷移動錯体など、最近注目されている幾つかの典型的なバイオ系やナノ系を対象として、散逸系の量子力学のフレームワークに合うようにモデル化して、現代的な実験観測量である非線形応答スペクトルを計算・解析を行った。特に光誘起電荷移動結合プロトン移動系と、局在振動モードと結合した強電子相関系をターゲットにして研究した。モデル化するにあたっては、熱浴との非線形的な相互作用の影響を調べ、機械学習を用いたモデル化の可能性についても探求した。構築したモデルの幾つかは量子階層方程式(HEOM)を用いて、非線形応答関数などの実験観測量を計算することにより、その精度を評価した。具体的には①2次元電子振動分光による光誘起プロトン結合電子移動過程をモデル化し、その過渡吸収スペクトルの計算と解析、②励起子系について機械学習により溶液中にある色素ダイマー系を、散逸系の量子力学によるハミルトニアンを使ってデル化し、2次元分光スペクトルを計算、③熱浴と相互作用するホルンスタイン-ハバード系を採用して、レーザー駆動電荷移動錯体の光学応答解析を、階層型運動方程式を用いて数値的に厳密なシミュレーションを実行、④量子サーモスタットを使って構成されたスピン熱浴系による研究、⑤離散ウィグナー関数の周期的システムバスモデルに基づく開放量子ダイナミクス理論の独立した5テーマについて研究を行い、論文として出版した。コロナ下ではあったが、これらの成果はZOOMによる国際シンポジュムなど招待講演で発表した。11月にはアメリカ化学会の基幹雑誌の一つであるJ. Phys. Chem. Bに、申請者の還暦を記念して、Yoshitaka Tanimura Festschriftが出版された。日本人を対象にしたFestschriftが発刊されたのは、長倉三郎氏以来と思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
機械学習もHEOMの計算も、実用的な結果を得るには高い計算コストがかかる。この問題を解決するためには、大容量のメモリーを搭載した計算デバイスであるグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)を用いる必要がある。機械学習によるモデル化の基礎アルゴリズムの開発は当初の予定どおり順調に進んだが、コロナの影響と半導体不足によりトGPUの購入が半年遅れ、モデル化した後に必要な数値計算の実行が遅れた。しかし、過去の研究費で購入したGPUを活用し、水の2次元分光スペクトルの計算は実行できなかったが、上記5テーマについての研究は、少し遅れながらも達成し、論文としてまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に繰り越した研究費を用いて早い段階にGPUを入手し、初年度より大規模な数値計算を行う。特に①太陽電池の素材としても注目されているPerylene bisimides H会合体をモデル化し、階層方程式(HEOM)を用いて時間ゲート蛍光スペクトルを計算し解析、②非平衡過程から準静的過程について、HEOMを用いて量子熱浴系を厳密にシミュレーションすることによる量子熱力学の基礎理論の検証、③非線形多モード量子ブラウン運動モデルによる水のモデル化と2次元赤外スペクトル、二次元赤外・ラマン分光スペクトルの計算と解析、の3つのテーマについて研究を行う。
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