2023 Fiscal Year Annual Research Report
Open quantum dynamics theory of excition, electron and proton transfer processes: Hierarchical equations of motion approach
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21H01884
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷村 吉隆 京都大学, 理学研究科, 教授 (20270465)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 開放系の量子力学 / 2次元赤外分光 / 量子熱力学 / 2次元テラヘルツNMR |
Outline of Annual Research Achievements |
①示強性と示量性変数で表現された自由エネルギーで記述される量子熱力学の構築、②水の対称、反対称伸縮と変角の3モード間のエネルギー緩和過程を解析するプログラムの作成、③テラヘルツ磁気共鳴2次元分光のシミュレーションを行った。 ①に関してこれまでの量子熱力学は、熱力学と称しているが仕事や熱の定義が曖昧であり、また、熱力学の根幹である示量性と示強性の変数で表されてないなど、熱力学との対比が明確でなかった。そこで本研究では、前年度の成果である量子カルノー機関の解析の基礎となった、最小仕事の原理(エントロピー最大の原理)を、変温過程まで拡張した“無次元化された最小仕事の原理”を導入し、それよりギブス、ヘルムホルツ、エンタルピー、内部エネルギーの4つの熱力学ポテンシャルを示強性と示量性熱力学量の全微分形で表すことに成功した。これは系・熱浴ハミルトニアン系から熱力学体系が導出可能なことを示した最初の研究である。 ②に関しては水の分子内、分子間振動モードを、非調和性を含めたブラウニアン系でモデル化し、古典階層方程式に関するプログラムを開発した。3次の2次元赤外分光スペクトルを計算し、解析を行っている。 ③については、MITのKeith Nelsonなどが行ったテラヘルツ磁気共鳴2次元分光の実験に触発され、キラリティを持つスピン系がこの実験手法で解析できるか、モデル化してシミュレーションを行った。この実験はTHzパルスの磁場成分を用い、スピンをフェムト秒のタイムスケールで複数回励起することにより実行される。非線形応答関数理論を、磁気的双極子に適用し、スピン格子系にフォノン場の効果を含めて、階層方程式によるシミュレーションを行い、2次元スペクトルを計算し、この実験手法によりキラリティを検出できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
課題タイトル「励起子、電子、プロトン移動反応系」の研究は、近年のナノテクノロジーの進歩により物理や物理化学を中心に実験的にも理論的にも精力的に進んでいる分野である。励起子系、電子移動系、プロトン移動系、電荷移動結合プロトン移動系それぞれに対して、本年度までに論文を数本ずつ発表しており、当初の研究目的は、ほぼ完了している。それに加え、階層方程式(HEOM)の応用として行った、非線形多モードブラウン運動モデルによる2次元赤外分光の解析も、水の分子内・分子間の全てのモード結合を含めた2次元赤外、赤外・ラマンスペクトルを、量子散逸効果を含めて厳密に、かつ、パソコンレベルの計算機において数時間内に計算を可能にする計算プログラムを開発し、この分野の研究を大きく進展させた。残る課題はモード数を増やすことであるが、その基礎プログラムの開発も終わっている。 これらのそれぞれの過程の根幹となる量子熱力学においても、昨年度の量子カルノーシミュレーションの研究を基礎に、熱浴ハミルトニアン系から“無次元最小仕事の原理”を導入することにより、熱力学の中心関係式である、全微分形の自由エネルギーを示量性・示強性変数を用いて表すことに成功し、量子熱力学の新たな方向性を示した。現在、この研究を非平衡系に拡張している。 本研究の基礎となっているHEOMについては、2020年に執筆したHEOMのJCPのperspectiveが、Web of Scienceにおける引用数で、全化学分野のTop 1%の文献に選ばれたことが示すように、世界的に注目されている手法である。
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Strategy for Future Research Activity |
量子熱力学の研究については、熱力学の成立条件である準静的状態において、“無次元最小仕事の原理”を導入することにより、示量性・示強性変数を用いて自由エネルギーを表すことを証明した。現在、この研究をさらに発展させ非平衡領域でも熱力学が構成できるかを調べている。そして、非平衡領域においては、“無次元最小仕事の原理”が拡張され、非平衡無次元最小仕事の原理が存在することを発見し、定式化を行った。現在、スターリングエンジンのシミュレーションを行い、理論の正当性を数値的にも検証している。我々の強みは、階層方程式(HEOM)を用い、非平衡系に対しても、数値的に厳密なシミュレーションが可能であり、実証的に熱力学理論を構築できるところにある。 2次元分光に関して、開発したコードは3モードまで扱えるようになったが、まだ古典的な場合に限定されている。このプログラムをグラフィック・プロセッサ・ユニット(GPU)を用いて拡張・高速化し、量子的な場合についても、分子内から分子間モードへのエネルギー移動をシミュレーションし2次元IRスペクトルや、2次元IR―Ramanスペクトルでどのように観測されるかを探求する。 当初の目的である励起子・電子・プロトン系の研究は、目途がついたので、それを発展させ、BCS型の超伝導の基本ハミルトニアンである、フローリッヒ・ハミルトニアンに対する研究を行う。このハミルトニアンは電弱相互作用のハミルトニアンと類似形をしており、HEOMを拡張して、その系に適応することも試みる。
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Research Products
(5 results)