2022 Fiscal Year Annual Research Report
Molecular and cellular biological analysis on valuable material productivity in the multinuclear and multicellular filamentous fungus Aspergillus oryzae
Project/Area Number |
22H02245
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
樋口 裕次郎 九州大学, 農学研究院, 准教授 (50732765)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 黄麹菌 / Aspergillus oryzae / グルコアミラーゼ / mRNA動態 / MS2システム / 微小管 / アクチン / smFISH |
Outline of Annual Research Achievements |
黄麹菌Aspergillus oryzaeは、古来日本において日本酒・味噌・醤油といった発酵醸造産業で用いられてきた糸状菌であり、高い安全性で有用な酵素タンパク質や二次代謝産物などの低分子化合物を菌体外に大量に分泌生産する能力を有する。しかし、糸状菌としての特徴である多核多細胞の黄麹菌において、有用物質を時空間的にどのように生産制御しているのか、詳細な分子機構は未だ明らかになっていない。 mRNAの細胞内局在化機構は、タンパク質の翻訳・成熟・局在を制御する上で生理的に非常に重要である。また、糸状菌で分泌されるタンパク質は主に菌糸の先端から分泌され、細胞骨格である微小管およびアクチンケーブルを介して分泌小胞により輸送されてエキソサイトーシスされている。黄麹菌は、有用酵素の分泌高生産性を有するため、タンパク質分泌メカニズムの解明に向けて、細胞内輸送に関する細胞生物学的研究が行われてきた。しかし、これまでの研究では主にタンパク質レベルでの解析にとどまり、タンパク質が翻訳前にどのような制御を受けているのか、さらには黄麹菌における多核多細胞性という観点においては十分に明らかにされていない。 本研究では、黄麹菌において微小管を構成するチューブリンおよびアクチンに関連したタンパク質に対して、それらのmRNA局在を解析し、タンパク質局在との関連性を明らかにしている。さらに本研究ではこれまでに、黄麹菌が多量分泌生産する有用糖化酵素であるグルコアミラーゼのmRNAをMS2システムを用いて生細胞にて可視化することに成功した。そして、グルコアミラーゼmRNAが黄麹菌細胞内にて菌糸の部位特異的に発現・局在制御されていることを見出した。さらに、グルコアミラーゼmRNAの局在および動態を時空間制御する分子機構を明らかにしてきている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
改変型緑色蛍光タンパク質(EGFP)を各種タンパク質と融合発現する黄麹菌株において、egfpに特異的な塩基配列で構成され赤色蛍光標識したプローブを用いたsingle-molecule fluorescence in situ hybridization (smFISH)法により、mRNAを可視化した。 微小管を構成する因子として、α-tubulin (AtuA), β-tubulin (BtuA), and γ-tubulin (GtuA)を解析対象とした。それぞれにEGFPを融合したタンパク質を発現する黄麹菌株を作製した。AtuAとBtuAはフィラメント状に観察され、菌糸先端に向かって伸長したり収縮する様子が見られた。一方、GtuAは核に観察され、微小管が核から伸長していることが示唆された。smFISH解析の結果、atuAとgtuAのmRNAは核以外の細胞質にも見られ、そうした部位で翻訳されていることが示唆された。 アクチンケーブルおよびアクチンパッチの動態を解析するため、トロポミオシンAoTpmAおよびアクチン結合タンパク質AoAbp1にEGFPを融合させた株を作製した。AoTpmAは菌糸先端に局在が観察され、アクチンケーブルが菌糸の先端から後方に伸びたり先端に戻るような動態が観察された。また、smFISH法でAotpmAのmRNAは菌糸の中央部から先端にかけての局在が見られ、Aoabp1のmRNAは菌糸先端や細胞膜上に局在が見られた。アクチンに関連する遺伝子のmRNAが主に菌糸先端部で局在が確認されたことから、これらの遺伝子はタンパク質が機能する部位に近い核で転写されていると考えられた。 以上のように、当初の予定通りに固定した黄麹菌多核多細胞において、mRNAとタンパク質の局在関係性についての知見が得られているため。
|
Strategy for Future Research Activity |
多核多細胞である黄麹菌において、これまでにグルコアミラーゼglaAのmRNAを生細胞可視化するために、MS2システムの導入に成功している。さらに、黄麹菌におけるもうひとつのグルコアミラーゼ遺伝子であるglaBのmRNA可視化も行う。glaBはglaAと異なり、黄麹菌の固体培養(穀類や豆類を用いる)において特異的に発現することが知られている。glaBのmRNAの生細胞解析により、これまでに未解明の固体培養における遺伝子発現に関わる分子細胞生物学的知見が得られることが期待される。 黄麹菌において、酵素が高分泌生産されている際に、小胞体ストレスが誘導されていることが報告されてきた。そこで、小胞体ストレス時に発現誘導されるシャペロンタンパク質をコードするbipAについてmRNAの生細胞可視化を試みる。そして、小胞体ストレス条件において、mRNAとRNA結合タンパク質などで形成されるストレス顆粒とbipA mRNAの関係性について、黄麹菌における多核多細胞性の解析を行う。 さらに、これまでにsmFISH法で固定細胞において局在解析を行ってきた遺伝子についてもMS2システムを導入する。具体的には、細胞骨格であるアクチンと微小管に関連するタンパク質を解析対象とする。そして、これまでに得られているグルコアミラーゼmRNAの発現・局在制御機構との比較解析を行う。 上述の研究対象遺伝子に対して、翻訳過程を可視化するために、Suntagシステムを導入する。これにより、mRNAをmCherryの赤色蛍光で、翻訳後の新生タンパク質をsfGFPの緑色蛍光でラベルし、翻訳最中のmRNA分子を黄色蛍光にて生細胞可視化する系を構築する。以上から、多核多細胞である黄麹菌におけるmRNAから翻訳にいたるまでの時空間分子制御機構に関する新規知見を得る。
|
Research Products
(9 results)