2022 Fiscal Year Annual Research Report
深層・統計学習と非平衡系物理の理論に基づく文化と知能の進化モデルの研究
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22H03661
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 栄太 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (10707574)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金子 仁美 桐朋学園大学, 音楽学部, 教授 (00408949)
齋藤 康之 木更津工業高等専門学校, 情報工学科, 准教授 (40331996)
伊藤 貴之 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (80401595)
持橋 大地 統計数理研究所, 数理・推論研究系, 准教授 (80418508)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 創作物データの進化分析 / クラスター構造の進化モデル / 創作スタイルの進化予測 / 高次元統計量空間上の進化 / 統計学習の進化モデル / 機械学習による適応度推定 / 文化進化データの可視化 / 進化する自動作曲システム |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、特に、データ収集、文化進化モデルの時間発展解析、機械学習を用いた文化進化データ解析、創作データの時間発展の可視化手法、および進化モデルの音楽情報処理への応用において成果が得られた。データ収集では、チャート曲の楽譜データおよびメロディー・コード進行データ、歌詞データ、絵画画像データの収集・整備をして、その基礎統計分析を行った。 文化進化モデルの時間発展解析では、高次元の統計量空間の点で表される創作物データに対して、クラスタリング分析と適応度に基づく時間発展モデルを統合することで、クラスター間相互作用とクラスター内相互作用の両方を扱う枠組みを研究した。これにより、日本および米国のポピュラー音楽の作曲スタイルの進化において、クラスター間とクラスター内ダイナミクスの両方が同程度に重要であることを示した。また、データから進化ダイナミクスの動力となる適応度関数を推定する統計的手法を開発し、実際のデータに適用することで、一般的な回帰手法よりも高精度で将来の創作スタイルの分布の予測が可能なことを示した。 創作データの時間発展の可視化手法の開発では、創作物データを次元削減手法により得られた2次元空間上で可視化して時間発展を分析する方法、クラスター分析の結果を用いてクラスターの相対頻度および分散などのクラスター特性を可視化する方法、そして、クラスターごとに統計量の時間発展を描写する方法の開発を行った。 音楽情報処理への応用では、自動作曲システムCREEVOの公開を行い、既存データから学習した作曲モデルおよび進化分析によって得られた作曲モデルを多数の利用者に評価してもらうことにより、後者においてより高評価の作曲モデルが得られることを実験的に示した。これは作曲モデルを進化させることにより、従来の機械学習よりも高品質の音楽生成手法が実現できることを示す点で重要な結果であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していた研究項目である、データ収集、文化進化モデルの時間発展解析、機械学習を用いた文化進化データ解析、創作データの時間発展の可視化手法、および進化モデルの音楽情報処理への応用において、想定どおりの成果が得られている。収集したデータは音楽・視覚芸術・文学などの領域におけるものであるが、順次、基礎分析から進めており、各データにおいて、興味深い現象が観察されており、今後の研究により分析結果を成果としてまとめられる見込みが得られている。開発した時間発展解析手法は、これらの文化領域に汎用的に適用できるもので、今後、さらに多くの適用事例が期待できる。機械学習に基づく進化データ解析は、複数の研究メンバーにより異なる枠組みでの研究開発が進んでおり、これらの統合を行うことで、さらに多くの問題に応用できる手法が実現できると考えられる。可視化手法については、開発段階ではあるが、研究現場での可視化手法の必要性についての体系的な理解が進んでおり、次年度以降の研究における基盤が整いつつある。研究分担者およびその他の連携研究者との議論の場も増えており、本研究の目標の一つである、汎用的な文化進化分析ツールの開発に向けた準備も着実に進んでいる。 2023年2月にオンライン形式で開催したワークショップでは、他分野の研究者とも交流を行い、海外の研究機関からも多数の参加者があった。当初の計画にはなかった、海外の研究者との共同研究も複数立ち上がっており、次年度以降の成果につながると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に従って、引き続き進化モデルの理論解析、分析手法、情報処理技術への応用を研究する。 進化モデルの解析では、統計学習過程と適応度に基づく選択過程を組み合わせた進化モデルに基づく、創作スタイル分布の時間発展解析手法を開発する。また、高次元統計量により表される創作知識空間での進化過程が、そこから生成される少量の創作物に対する社会評価に基づく選択圧により駆動される場合に生じる、生成データ量、選択係数、創作者数による適応進化の速度への影響を統計物理のモデルに基づき解析する。 文化進化のデータ解析では、時間情報付き創作物のデータから社会評価モデル(適応度分布)を推定する方法を開発する。また、創作物の類似性と時間的近親性に基づく、参照と変形を含む進化モデルに基づく分析により、参照における近親性と頻度依存性、また創作スタイルの変異モードをデータから一挙に推定する方法を研究する。さらに、この結果から創作者のコミュニティー構造や変異における戦略の分析を行う方法論を構築する。 可視化手法に関しては、創作データを高次元な特徴量空間における点群と捉え、この点群に対して、次元削減および対話的操作による次元選択を適用して可視化する手法を研究する。特に、低次元可視化空間でのデータにクラスタ分析の結果を色により投影した上で、データ点の選択、低次元内での線分の入力、特徴量の選択次元の入力によりデータの時間変化軌跡および変化の方向を可視化する方法を研究開発する。 情報処理への応用では、自動採譜において、創作スタイルの時代変化を取り入れた手法を研究する。また、統計学習に基づいて多様なスタイルのメロディーの生成が可能な自動作曲システム CREEVO を用いて、進化モデルにより構築する時代を先読みした作曲モデルの有効性を、一般ユーザによる創作支援や音楽教育支援への実践活用を通して検証する。
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Research Products
(24 results)