2023 Fiscal Year Annual Research Report
脳クレアチン供給を実現するモノカルボン酸輸送体認識型プロドラッグ開発とその有用性
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23H02647
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
細谷 健一 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (70301033)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
立川 正憲 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (00401810)
豊岡 尚樹 富山大学, 学術研究部工学系, 教授 (10217565)
赤沼 伸乙 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 准教授 (30467089)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | モノカルボン酸トランスポーター / プロドラッグ / 血液脳関門 / クレアチン / MCT |
Outline of Annual Research Achievements |
末梢から脳神経細胞への直接的なクレアチン供給にはクレアチントランスポーター (CRT/SLC6A8) が関与し、このCRTが欠損している患者は知的障害や言語発達遅滞が示される。この脳クレアチン欠乏症候群患者に対しては経口クレアチン補充療法では、脳内クレアチンレベルの補充が十分に行えないことから、血液脳関門・神経細胞に発現する輸送機構を利用したクレアチンプロドラッグの送達法確立が必須となる。血液脳関門実体細胞・神経細胞にて共にモノカルボン酸トランスポーター (MCT) が発現することが知られており、本輸送機構に認識されるようなクレアチン誘導体化が有効と考えられた。この仮説を実証するため、2023年度ではクレアチンのグアニジノ基をアシル化することによる誘導体化を実施し、11種類のプロドラッグ候補を合成した。これら候補化合物について、マウスMCT1由来の相補的RNAを注入することで作出したMCT1過剰発現アフリカツメガエル卵母細胞 (oocytes) における[14C]L-乳酸輸送の変化を指標に、分子認識性を評価した。その結果、8種類のアシル化クレアチンについてマウスMCT1に認識されることが示唆された。その中で強力な阻害効果が示された化合物について濃度依存的な[14C]L-乳酸輸送の阻害効果を解析した結果、そのIC50は数十μMであり、MCT1に対し比較的高い親和性を示することが明らかとなった。MCT1は血液脳関門にて栄養物の脳分布を担うことことから、ヒトBBBモデル細胞であるhCMEC/D3細胞のL-乳酸輸送に対するアシル化クレアチン共存の効果を解析した。興味深いことに、マウスMCT1発現oocytesにおけるL-乳酸輸送を阻害しなかった誘導体の一部について、hCMEC/D3細胞におけるL-乳酸取り込みを阻害した。従って、合成したアシル化クレアチンはMCT認識性について種差を示す可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた11種類のアシル化クレアチンの合成に成功しており、これら合成化合物を起点として様々なプロドラッグ候補の創出が可能と期待される。また、in vitro解析としてマウスMCT1の発現系に加えて、前述の"研究実績の概要"では未記載ではあるが、神経細胞においてマウスMCT2の発現系構築にも成功しており、血液脳関門・神経細胞共にクレアチンプロドラッグの透過ルートと想定している分子実体の機能を解析するための準備は問題無く進行したと判断される。 血液脳関門実体細胞を用いた輸送解析について、研究代表者が単離に関わったマウス条件的不死化脳毛細血管内皮細胞株に加え、ヒトの血液脳関門モデル細胞株であるhCMEC/D3細胞についてクレアチンプロドラッグを対象として解析の環境整備も問題無く終えている。前項記載のようにクレアチンプロドラッグのヒトBBBにおけるL-乳酸輸送系に対する認識性について一部結果を得ており、合成されたクレアチンプロドラッグの透過ルート決定付けは予定通りに進められるものと期待される。 当該年度においては神経細胞について胎生15日齢の個体を用いた単離法を行い、神経細胞様の細胞を回収することに成功している。グリア細胞の混入割合確認と、それを考慮した神経細胞調製法の最適化は十分に今年度中に実施出来なかったが、今後のアシルクレアチン類の神経細胞における輸送系の認識性評価と、2024年度に実施予定である親化合物・クレアチンへの変換効率の解析は当初の予定通りに実施可能という見通しは立った。 以上の点から、当初計画以上に本計画は進展したものとは判定されないものの、本研究申請時期に想定した内容通りに進んでいると評価される。そのため、"おおむね順調に進展している"を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
グアニジノ基をアシル化することで合成されたクレアチンプロドラッグ候補はMCTを始めとしたL-乳酸輸送系に対する親和性が、本年度の研究を通じて明らかとなった。今後は、最もMCTに対する親和性が高い誘導体についてLC-MS/MSを活用した定量法を確立し、そのプロドラッグ候補化合物が血液脳関門実体細胞・神経細胞において輸送されること、そしてその輸送にMCT1/2が関与することを示していく予定である。また、神経細胞にて親化合物に変換されるかについても、本定量法を活用した代謝解析を実施することで明らかにしていく計画である。 MCTをバイパスルートとして想定したプロドラッグの脳への移行性については、マウス静脈内投与後の脳移行性をintegration plot法にて評価することによって明らかにしていく。また、CRT欠損時においても同様の脳移行性を示すことについては、CRT欠損マウスを活用した動態試験を実施することで明確になると期待される。 前述のように、マウスとヒトではクレアチンプロドラッグ類の輸送関与分子実体に対する認識性に差異がある可能性が示唆された。そのため、ヒトを対象とした解析は必要不可欠と言える。ヒト血液脳関門実体細胞におけるCRT欠損は、hCMEC/D3細胞に対しCRTゲノム編集を行うことで、CRT欠失ヒトBBBモデル細胞を作出する。神経細胞については、CRT欠損患者の皮膚由来線維芽細胞ライブラリーを活用してiPS細胞を調製し、その細胞をニューロンへと分化誘導することで作出する。それら細胞材料を活用して、アシル化クレアチン類の輸送解析と、クレアチンへの変換を解析することで、マウス・ヒト間のアシル化クレアチン類動態の種差を明確にすると共に、ヒト脳へのクレアチン供給を実現する候補化合物の絞り込みを、今後進めていく予定である。
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Research Products
(6 results)