2023 Fiscal Year Research-status Report
日本において近隣が不平等を生み出すメカニズムの解明
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23KJ1826
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
大和 冬樹 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 近隣効果 / 教育 / 都市 / 因果推論 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、貧困層が集住する不利な近隣の存在が不平等の生産を後押ししているのではないかとする近隣効果の研究が日本でも進展しつつある。しかし、これまでの研究は不利な近隣が子どもの学歴達成を抑制する近隣レベルの社会過程について十分迫ることができておらず、日本で近隣効果が作動するメカニズムの解析が進展しているといえる状態ではなかった。本研究では、このメカニズムを明らかにするために、A.不利な近隣の効果が大学進学に影響を与える経路の解明、B.不利な近隣の地理的文脈の解明、C.親の資源・教育方針の分析、D. 子どもと近隣との関わりの分析、E.中学校・高校の効果の検証の5つの作業課題を設定しており、2023年度は主にA・C・Eに関する分析を行ってきた。具体的には、日本で子どもが中学校から高校に進学する段階で働く近隣効果のメカニズム、また日本における近隣と学校の関係の国際的に見た場合の特徴の分析を行った。まず、中学校から高校に進学する段階では、不利な近隣に居住している子どもや母親がどのように将来展望を行い、どのように進学の効用を見積もり、そしてそれらの展望や効用の見積もりが高校選択にどう影響を与えているかについて分析した。この分析結果は日本都市社会学会で報告し、論文としてすでに投稿し査読中である。また、日本における近隣と学校の関係については、因果媒介分析を行った結果、高校が近隣効果を媒介するという特徴を持っており、これがアメリカと比較した場合の日本の制度的特徴であることを分析した。この分析結果は、2024年4月のアメリカ人口学会(Population Association of America)年次大会で査読付き発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、A.不利な近隣の効果が大学進学に影響を与える経路の解明、B.不利な近隣の地理的文脈の解明、C.親の資源・教育方針の分析、D. 子どもと近隣との関わりの分析、E.中学校・高校の効果の検証の5つの作業課題を設定しており、2023年度は主にA・C・Eに関する分析を行ってきた。具体的には、日本で子どもが中学校から高校に進学する段階で働く近隣効果のメカニズム、また日本における近隣と学校の関係の国際的に見た場合の特徴の分析を行った。これらの分析に関しては、前者は学会報告の後、論文として投稿し、非常に高い確率でアクセプトが見込まれる。また後者に関しては、米国を中心としてトップ大学の都市研究者が多数集まるカンファレンスに査読付き発表を通し、日本データを用いたローカルな分析を国際的な研究の潮流に乗せることに成功しつつある。元々の研究計画では、日本における近隣のメカニズムを解明したうえで、さらにアメリカなど世界で展開されている近隣効果に対して理論的貢献となる成果を出すことを企図していたが、それらの目標に向かっておおむね順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
不利な近隣が子どもの学歴達成を抑制するメカニズムについて、引き続き分析を行っていく。今年度は、学会発表を5回、論文投稿を2-3本予定している。学会発表では、今年度は海外渡航を3回行う予定で(1回はすでに渡航済み)、アメリカの近隣効果研究コミュニティへの参加、また韓国や中国をフィールドとしている研究者たちとの東アジアの近隣国際比較研究ネットワークの作成を予定している。日本の近隣を理解するうえでも、またこの研究を国際的な文脈に位置づける上でも、国際的な近隣比較の視点は重要であると判断したため、元々の研究計画に加えて、国際比較の分析も進めていく予定である。4月のアメリカ人口学会参加時点でアメリカの研究者数名と共同研究の計画を進めており、今後より具体化していく予定である。特に、近隣の操作的定義と理論の関係や、近隣と国家レベルの制度との関係については、長年研究が必要であると指摘され続けてきたものの、世界各国での研究は進んでいない状態であるので、これらの問題に関して元々の研究計画に引き付けて重点的に進めていく予定である。論文投稿としては、日本の近隣と国家レベルの制度との関係についての論文を海外誌に、不利な近隣への居住が大学進学にあたえる影響の異質性の解明に関する論文を国内誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
◆R5に追加交付手続きをして頂いた特別研究員奨励費(雇用PD等)(学術条件整備)の執行金額
※研究代表者が直接使用できないが、受入研究機関が雇用PDの雇用に伴う経費(大学負担分の社会保険料など)として交付。
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