2015 Fiscal Year Annual Research Report
Understanding Persistent Deflation in Japan
Project/Area Number |
24223003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 努 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (90313444)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 浩介 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (30263362)
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Project Period (FY) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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Keywords | マクロ経済学 / デフレーション / 金融政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国では過去10年以上にわたって、政策金利がゼロの下限に張りつく中で、物価が緩やかに下落するデフレーションが進行している。本研究では、デフレに代表される経済の「貨幣的側面の変調」とGDPトレンド成長率の低下や金融機能の低下などの「実物的側面の変調」が多くの国で同時発生していることに着目し、その相互連関を解明する。 26年度までに行った研究で浮き彫りになった重要なトピックは物価予想の形成プロセスであり、デフレからインフレへと移行する局面で期待がどのような役割を果たすのか、期待の変化がいかにして生じるのかを調べることは、長期デフレ解明のカギとなる。こうした問題意識から27年度は物価予想の形成プロセスの解明を中心に研究を進めた。具体的には、約15000人の消費者に対してアンケート調査を行うとともに、それらの消費者の購買履歴情報を収集し、アンケートの回答とその人が実際にどこで何をいくらで買ったかという情報とを組み合わせたデータセットを構築した。 アンケート調査から判明したのは物価予想の年代格差であり、シニアは高いインフレ期待をもつのに対して若年層のインフレ期待は極めて低い。これはインフレ期待がその人の生きてきた時代に強く影響されることを示している。つまり、生まれてこの方デフレしか経験していない若年層ではデフレマインドが深く沁みついているため政府や日銀がデフレ脱却に向けた様々なメッセージを発してもそれが届かない。人々のインフレ期待はその人の過去のインフレ経験に影響されるという仮説を中心に論文をまとめ国際コンファランスなどの場で発信した。27年度はこの論文を含む13本の論文を作成し内外で発信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、平成24年度から27年度までの4年間で、合計83本の論文を作成してきた。これらの論文のいくつかは既に査読雑誌に掲載またはアクセプトされている。査読雑誌に投稿中あるいは投稿後の改訂中のステータスにある論文も多く、今後、学術雑誌への掲載が見込まれる。論文以外のアウトプットとしては、本研究に深く関連する書籍の執筆に着手しており、日本経済新聞社との間で出版契約を締結済みである。また、産業財産権としては、物価指数の算出に商品の新陳代謝(新商品の参入と旧世代の商品の退出)の影響を反映させるためのアルゴリズムを研究代表者である渡辺が中心となって開発し、平成26年11月に特許出願した。さらに、本プロジェクトが主催した3回のコンファランスを含め多くのコンファランスにおいて本プロジェクトの研究成果を報告してきた。 本研究では、物価指数の計測誤差を調べる研究の副産物として、2013年5月より「東大日次物価指数」を日々作成し、プロジェクトのHP上で公開すると同時に、ロイター、ブルームバーグ、QUICKなどの情報ベンダーに配信してきた。具体的には、日経デジタルメディア社の提供するスキャナーデータを用いて、Tornqvist指数を日次で、しかもラグ2日間というスピードで計算し公開している。サイトはCPIの先行きに関心をもつ投資家など海外も含め様々な人が閲覧しており、メディアでも頻繁に報道されている。新聞等のマスメディアで本プロジェクトの研究成果が報道された事例は24-27年度の累計で280件であり(新聞181件、テレビ50件、雑誌49件)、金融機関やシンクタンクのレポートに本プロジェクトの研究成果が紹介・活用された事例は134件である。内外で我が国のデフレとそこからの脱却に関心が集まる中、学術的な頑健性をもつ本プロジェクトの研究成果を社会・国民に向けて広く発信することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトの当初計画では、5年間の前半に長期デフレに関する事実整理とモデル構築・検証を行い、それを踏まえて5年間の後半で政策シミュレーションを行うことを計画していた。事実整理とモデル構築・検証については当初の計画を着実に実行できている。今後、この作業の仕上げを行い、これまでの研究成果をとりまとめ査読雑誌に投稿するとともに国際コンファランス等での発信を続ける。また、政策シミュレーションについては、これまで行ってきた事実整理とモデル構築・検証の研究成果を土台にして実行していく予定である。さらに、本プロジェクトの成果を政策担当者等の実務家に発信するために啓もう書の出版の準備を現在進めており、28年度中の出版を計画している。 28年度はこれまでの研究成果を踏まえ、日本と先進各国の国際比較を行う計画である。これまでの研究で十分に解明し切れていないポイントとして、デフレ期において価格の硬直化が進んだのは何故かという点がある。この解明は「緩やかでしかし長期にわたる物価下落」という日本のデフレの重要な側面の理解につながる。この解明には日本と先進各国の比較分析が必要であり、28年度はこれに取り組む計画である。具体的には、まず、価格の硬直化が起こる原因として考えられるいくつかの仮説を理論モデルを用いて整理した上で、testable implicationsを得る作業を行う。これまでの研究で、価格硬直化には、①トレンドインフレの低下と、②インフレノルム(インフレに関する社会的規範)の変化が関係していることが分かっている。この2つの仮説を識別する手法を提案する。次に、日本を含む先進各国のミクロ価格のデータセットを構築し、これを用いて検証作業を行う計画である。
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Research Products
(66 results)