2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24240044
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
秋山 泰 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (30243091)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬々 潤 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (40361539)
関嶋 政和 東京工業大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (80371053)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生体生命情報学 / アルゴリズム / 薬学 / ハイパフォーマンス・コンピューティング |
Research Abstract |
(1)「化合物データベースのネットワーク解析による複数標的分子候補の列挙」に関しては、複数分子を標的として薬剤を投薬した場合に細胞内でどのような変化が起こるかに関して、ネットワークフロー解析を用いて計算機実験をする系を構築した。また、構築したプログラムを用い、単細胞生物の大腸菌の単一遺伝子破壊株で採取されたデータに適用することで、構築プログラムが動作することを確認した。さらに、既存手法では各タンパク質は有無だけが考えられ存在量が考慮されていなかったが、この点を改良し、特定のタンパク質量に制約を加えた条件下においても計算ができるようにした。これにより薬剤により完全に特定のタンパク質やパスウエイを止めるのではなく、穏やかに止めた状態での細胞表現形の変化を解析できることが見込める。また本アルゴリズムを、大腸菌のセリン欠失株、グリシン欠失株に適用することで、これらの欠失株では、利用される代謝反応系が異なる可能性があることを示唆する結果を得た。 (2)「形状相補性に基づくドッキング手法による分子-キナーゼの大規模組み合わせ探索」では、MEGADOCKソフトウェアの大幅な高速化、精度向上、および計算可能な分子種の拡張を行うとともに、大量のタンパク質群を対象としたネットワーク推定実験を実施し、年度内に3本の査読付き論文として採択された。 (3)「水分子を考慮した複数分子標的薬のリード化合物生成」では、Jarzynskiの等式に基づくタンパク質とリガンド間の結合自由エネルギー計算について、CPUに加えてGPGPUのような異なるプロセッサが混在する計算環境において計算資源を十分に活かすために、プロセッサ間で計算負荷のバランスを取る機構を実装した。結果として、GPGPU向けに最適化された分子動力学シミュレーションプログラムを、さらに最大で約20%程度計算速度を向上させることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各サブテーマについて、現在までの達成状況は以下のとおり。 (1)「化合物データベースのネットワーク解析による複数標的分子候補の列挙」では、データベースからのネットワーク構築、構築したネットワークに対する解析アルゴリズムの開発、創薬ターゲット候補の抽出の3点を実施中である。当初は、このうちデータベースからのデータ抽出より開始する予定であったが、対象データベースに情報の更新が予定されるなど、不安定な点があったため、当初予定を変更し、ネットワークフロー解析(パスウェイの使用度合いを水の流量の様なもので表し、どのパスウエイが利用されたか調べる手法)、解析アルゴリズムの開発から行った。解析アルゴリズムの開発および改良は概ね順調に進み、特定のタンパク質に対して、量的な変化を行った場合、利用されるパスウエイの変化及び表現型の変化の推定に近づいている。 (2)「形状相補性に基づくドッキング手法による分子-キナーゼの大規模組み合わせ探索」では、MEGADOCKソフトウェアの高速化や精度向上の面では大きな進展があり、成果発表も十分に達成できた。しかしMEGADOCKが当初、大型の分子を対象に設計されていたことから、リガンドとの形状相補性を計算する時に、リガンド結合部位周辺でのグリッド長およびパラメータの再調整が必要となっている。このため市販ドッキングソフトとの比較を計画に加えた。 (3)「水分子を考慮した複数分子標的薬のリード化合物生成」では、GPGPUに最適化された既存の分子動力学シミュレーションプログラムについて実行の解析を行ったところCPUとGPGPU間の負荷の偏りが存在していることがわかった。そのため、プロセッサ間で計算負荷のバランスを取る機構の実装を行なった。これにより計算速度の向上が達成でき、比較的短時間でタンパク質・水の相互作用を求めることを可能にした。
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Strategy for Future Research Activity |
各サブテーマごとに、今後の研究を以下のように推進する。 (1)「化合物データベースのネットワーク解析による複数標的分子候補の列挙」では、昨年度は優先順位を下げていたデータベースからのデータ収集を優先的に行う。化合物情報のデータは予想を上回る速度で増加しており、それに合わせてアルゴリズムも大規模データに対応させる必要があるため、アルゴリズムの改良も併せて進める。MD計算の対象となるタンパク質―化合物の早期抽出に向けてパイロット的な計算結果の導出を目指す。 (2)「形状相補性に基づくドッキング手法による分子-キナーゼの大規模組み合わせ探索」では、独自ソフトウェアMEGADOCKの機能拡張を進めつつも、本プロジェクトの全体計画に遅れを生じさせないために、一部の計算は前述の既存の分子ドッキングソフトウェアを用いて開始し、3つのサブテーマ間の連携の研究に十分な時間が確保できるように方策を立てる。 (3)「水分子を考慮した複数分子標的薬のリード化合物生成」では、昨年度に高速な分子動力学シミュレーションプログラムを開発し、タンパク質・水の相互作用を比較的短時間で求めることを可能にしたが、予備実験を別に行った結果、さらにFMO(Fragment Molecular Orbital)計算を用いて、キナーゼとリガンド間の相互作用エネルギー解析を行うことで、結合に重要な相互作用を求められることが分かってきた。今後は、この知見を組み込み、水分子が自由度を得るとエントロピー的に有利に働くことを重視した計算手法とFMOによる相互作用エネルギー計算を組み合わせることで標的化合物の設計手法の確立を進める。
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