2012 Fiscal Year Annual Research Report
北極の温暖化増幅における季節サイクルと多圏相互作用の追究
Project/Area Number |
24241009
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
猪上 淳 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, チームリーダー (00421884)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
榎本 剛 京都大学, 防災研究所, 准教授 (10358765)
中野渡 拓也 北海道大学, 低温科学研究所, 博士研究員 (20400012)
大島 和裕 総合地球環境学研究所, 研究部, プロジェクト研究員 (40400006)
高谷 康太郎 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 主任研究員 (60392966)
飯島 慈裕 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 主任研究員 (80392934)
堀 正岳 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 研究員 (60432225)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 北極海 / 低気圧 / 海氷 / 雲降水 / 観測 / データ同化 / 水循環 / 予測可能性 |
Research Abstract |
近年頻発する日本を含むユーラシア域での寒冬イベントについて、バレンツ海の海氷面積と低気圧活動に着目した解析を行い、海氷が少ない冬は寒くなる傾向にあることを示した(Inoue et al. 2012, J. Clim.)。これは低気圧経路が北側(北極海上)にシフトし、北大西洋から来る暖気がユーラシア大陸に入りづらい状況になり、大陸上は例年よりも寒くなるためである。近年の低気圧経路の変調は、大陸上の水蒸気輸送にも密接に関連し、降水量-蒸発量の変動が、シベリア3大河川の流量の変動のほとんど全てを決定付けることを、アラスカ大学国際北極研究センターとの共同研究から示した(Zhang et al. 2013, Nature Clim. Change)。 一方、海洋地球研究船「みらい」による現場観測データの解析から、海氷が消失することによって雲底高度が低い雲(500m以下)の出現頻度が3割減少していることを明らかにした(Sato et al. 2012, GRL)。これは海氷が無くなることで海面からの熱供給が増加した効果を示唆する。さらに、「みらい」で取得したラジオゾンデ観測データに関しては、データ同化システムを用いて北半球の大気循環におけるデータ空白域での高層気象観測データの影響を調べた(Inoue et al. 2013, GRL)。北極低気圧に伴う対流圏界面の折れ込みは観測データを同化しないと再現できず、対流圏内の気温や風速に影響を及ぼすことを明らかにした。その影響は、観測緯度帯だけではなく中緯度にまで及ぶため、気象予報における正確な初期値の作成には、北極海上の高層気象観測が重要であることも示唆される。 次年度の「みらい」北極航海に関して、国際連携のもと北極圏のラジオゾンデ観測網を強化し、同期観測の実施とそれを用いたデータ同化研究を推進するプロジェクトを立ち上げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
バレンツ海の研究(Inoue et al. 2012, J. Clim.)においては、日本の冬の寒さとの関係について新聞・テレビ等多数の取材があり、研究の波及効果は極めて高いと言える。現場観測データと大気領域モデルを組み合わせた学生の研究指導も行っており、日本海洋学会で発表した成果はベストポスター賞を受賞した。 今年度発表した査読付き論文のうち、Zhang et al. (2013 Nature Clim. Change)はNatureのリサーチハイライトに、 Sato et al. (2012 GRL)はNature Geoscienceのリサーチハイライトに、Inoue et al. (2012, J. Clim.) は米国気象学会のPapers of Noteに選ばれ、いずれも高い評価を受けている。プレスリリースは3件実施した。Sato et al. (2012)に関しては、研究代表者が指導している学生が第一著者であり、若手育成にも貢献している。 データ同化研究の成果(Inoue et al. 2013, GRL)を受けて、2013年度の北極航海ではドイツのAWI及びロシアのAARIと協力し、地上のラジオゾンデ観測の頻度をニーオルスンとティクシで増やし、広域のラジオゾンデ観測ネットワークがどの程度北半球の大気循環再現性に役立つかを調べるプロジェクトを立ち上げた。世界的に競争の著しい北極研究において日本がプロジェクトを主導できている点は評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は「みらい」北極航海が大きなイベントとなる。それに向けて、今年度開発した低気圧進路予測システムを運用し、北極低気圧の観測に役立てる。また、国際連携で同期観測を実施するためにワークショップ等の開催も行う。観測終了後は、地球シミュレータを用いたデータ同化プロダクトの作成にとりかかり、観測データの影響評価を調べるための解析の準備を行う。2014年度も「みらい」北極航海が予定されており、そのプロポーザルの作成、国内外の相乗り課題の調整なども並行して行う。 日本の冬の気候に影響を及ぼすバレンツ海の海氷面積に関して、海洋観測データを用いた海氷予測に資する知見を論文としてとりまとめる。また、夏のボーフォート高気圧の実態解明について、夏と冬の低気圧活動に着目した解析を実施し、成果を論文にとりまとめる。
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Research Products
(32 results)