2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24242036
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Okinawa International University |
Principal Investigator |
狩俣 恵一 沖縄国際大学, 総合文化学部, 教授 (60169662)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西岡 敏 沖縄国際大学, 総合文化学部, 教授 (30389613)
小嶋 賀代子(下地賀代子) 沖縄国際大学, 総合文化学部, 講師 (40586517)
真下 厚 立命館大学, 文学部, 教授 (50209425)
又吉 光邦 沖縄国際大学, 産業情報学部, 教授 (50269172)
照屋 理 沖縄県立芸術大学, 付置研究所, 研究員 (60626068)
田場 裕規 沖縄国際大学, 総合文化学部, 講師 (80582147)
浦本 寛史 沖縄国際大学, 経済学部, 講師 (50582144)
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Project Period (FY) |
2012-10-31 – 2015-03-31
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Keywords | 口頭伝承 / 身体 / 音声 / 琉球語 / 琉球士族 / 芸能 / 身分差 / 地域差 |
Research Abstract |
2012年度は、沖縄語・宮古語・八重山語による歌謡と昔話のデジタル化作業に向けての機器備品の調達を行い、音声のデジタル化作業に取り組んだ。また、祭りや芸能の映像資料については、専門の業者に依頼してデジタル化作業を行った。そして、デジタル化した歌謡・昔話・芸能等を基に、以下の調査研究を行った。 ①昔話の調査研究では、粟国島の祭り及び昔話調査を行い、また公開講演会及びシンポジウムを開催して語りの特性とその保存継承方法について議論した。②歌謡の調査研究では、八重山歌謡及び琉球古典音楽をデジタル化した歌の試聴会を開き、その音及び声の特徴が現在と相違していることをテーマに討論した。③昔話の話型とユタの呪詞の構造を比較検討するために沖縄語を使用するユタとともに、八重山で実践的な調査を行ったが、沖縄語を知らない八重山では言葉の意味よりも唱えの音声の力が大きな役割を果たしていた。④芸能の調査研究では、組踊の所作と唱えについて、デジタル化した映像資料と現在の組踊役者の演技ついて比較検討した。 以上の調査研究の結果、口頭伝承の昔話や民間巫者のユタの唱えは、それぞれの地域の言葉で語られるので、地域差による言葉の相違があった。特に、昔話では、竹富島・小浜島・黒島などの島ごとの言葉の相違、あるいは道路を隔てた字ごとの言葉の相違が顕著であった。しかし、それに対して、歌謡の詞章や芸能のセリフでは、地域差の相違よりも、士族と農民の身分差による言葉の違いのほうが際立った。 要するに、昔話とユタの唱えはその地域の言葉で語り、唱えているが、歌謡の詞章と芸能のセリフは首里を中心とした琉球士族語が多用されている。特に、琉歌と組踊の詞章は、琉球士族の言葉が基調であり、庶民のウチナーグチ(沖縄口=沖縄方言)とは相違していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デジタル化した音声及び映像資料を活用しての調査研究は、全体として順調に進んでいる。特に、歌謡と芸能については、その音声及び映像資料から、士族と庶民の身分差による身体の相違があり、身分差によって、体の動きや使い方、言葉の発音や用語が異なっていることを明らかにした。 身分差による言葉や身体の相違は、本土では当然のこととして認知されているが、沖縄では近代化以降、特に戦後においては共通語化が促進されたため、その問題が意識されなくなった。また、沖縄の説話・歌謡・芸能のフィールド調査は、地域差を中心に文字化による文献中心の研究を目的として録音・録画が行われてきたが、本研究では言葉の意味よりも、声・音の聴覚や体の動きの視覚に注目して音声資料と映像資料を分析し、現在の祭祀・昔話・歌謡、そして組踊や地域の村踊りの比較検討を行った。 つまり、従来の琉球言語文化の研究では、奄美諸島・沖縄諸島・宮古諸島・八重山諸島という地域間の相違に目を向け、各地域を幅広く踏査し、地域の相違に着目して研究する民俗学的な方法が中心であったが、その方法は首里を中心にした琉球士族文化の研究をおろそかにすることにつながったのである。 したがって、今後は琉球の士族文化を中心にした研究が必要であり、そのことを踏まえて、本研究では身体・声・音を総合的に表現する組踊研究を進めることが有効であると考える。 ただし、レコードやビデオテープのデジタル化が順調に進んでいるのに対して、当初デジタル化作業のメインと考えていた昔話のデジタル化作業がかなり遅れている。その理由は、カセットテープがすぐに切れてしまうという問題を抱えているからである。今後も、切れたカセットテープをつなぎ直してデジタル化を進めることになるが、これはかなりの時間を要すると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、声や音や体の動きに注目して音声資料と映像資料を分析し、現在伝承されている祭りや昔話及び歌謡、そして組踊や地域の村踊りとの比較検討を行った。 その結果、従来の琉球言語文化の研究では、奄美・沖縄・宮古・八重山という地域間の言語及び文化の相違に着目した民俗学的な研究が中心であった。しかし、今後の沖縄の言語文化の研究は、首里を中心にした琉球士族の言語文化に着目した研究が必要であると考える。特に、琉球士族が育んだ琉球古典芸能の研究は、民俗芸能と同レベルで研究されてきこともあって、古典芸能としての組踊や琉球舞踊の継承は現在、危機的な状況に陥っている。 したがって、沖縄の古典芸能研究は、琉球芸能をデジタル化した音声及び映像資料を基に、本土の古典芸能との比較研究を進めるとともに、本土の茶道・華道・宗教などの身体的儀礼文化との比較研究が必要であると考える。というのは、琉球古典芸能の基本である琉球士族の身体は、本土士族の礼法である小笠原流から学んでいたからである。 換言するならば、琉球の組踊や舞踊等の古典芸能は、小笠原流の身体儀礼から学んだ琉球士族の身体を基本としており、その視点からの琉球士族文化及び琉球古典芸能の研究が必要であると考える。しかし、今の沖縄では、琉球士族が身に付けていた小笠原流の身体儀礼は既に失われてしまっている。 よって、琉球の古典芸能と琉球士族の身体研究には、本土の身体的な儀礼文化の研究が必要であり、そのためには茶道・華道・宗教などの身体儀礼を行う人々及び研究者、能楽・歌舞伎等の古典芸能関係者に組踊を観ていただいて意見交換を行い、その調査研究を進める必要があると考える。
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Research Products
(5 results)