2012 Fiscal Year Annual Research Report
先住民族の労働・生活・意識の変容と政策課題に関する実証的研究
Project/Area Number |
24243055
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小内 透 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (80177253)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野崎 剛毅 國學院大學北海道短期大学部, 幼児・児童教育学科, 准教授 (50412911)
小野寺 理佳 名寄市立大学, 保健福祉学部, 教授 (80185660)
小内 純子 札幌学院大学, 社会情報学部, 教授 (80202000)
品川 ひろみ 札幌国際大学短期大学部, 幼児教育保育学科, 教授 (80389650)
新藤 慶 群馬大学, 教育学部, 准教授 (80455047)
新藤 こずえ 立正大学, 社会福祉学部, 講師 (90433391)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 先住民 / アイヌ / サーミ |
Research Abstract |
1.4カ年計画の初年度に当たる本年度は、北海道日高管内新ひだか町でのアイヌ民族と地域住民を対象にした生活と意識に関する実態調査とノルウェーの先住民族・サーミが集住する地域にあるサーミ関連機関でのサーミの実態に関するヒアリング調査を実施した。 2.アイヌ民族集住地調査の結果、アイヌ民族に属する人々は、年齢が高くなるほど被差別経験が多く、自らが体験したアイヌ文化に対して否定的であった者が多いこと、しかし現在ではアイヌ文化に対して否定的な者は世代の違いなく少なくなっていること、20歳代・30歳代の若者は日常生活の中でアイヌ文化を体験することがないものの積極的な興味・関心をもっていること、だが若者を中心に文化への興味・関心とは関わりなくアイヌとしてのアイデンティティ意識にこだわりがないことなどが明らかになった。 3.住民に対する調査からは、アイヌ政策としてアイヌ文化の振興に対しては積極的に評価する者が多い反面、生活や教育に関わる経済的支援策に対しては消極的に評価する者が多いこと、現在の地域社会においては、自らを含めてアイヌ民族に対する差別意識は希薄であると回答する者が多数であること、にもかかわらず40歳代以上の世代を中心にアイヌ民族との婚姻に関しては多くの者が否定的であることがわかった。 4.ノルウェーのサーミ集住地域、カラショーク、カウトケイノに訪問し、サーミ議会、サーミ博物館、サーミ劇場、基礎学校、サーミ高校、サーミ大学等のサーミ関連諸機関でサーミの実態についてヒアリング調査を行った。その結果、ノルウェーのサーミ政策が第2次世界大戦後見直され、とくに1980年代のアルタダム建設反対運動を契機にサーミの復権が進んだこと、サーミの復権には国際的な先住民族運動が大きな影響を与えたこと、サーミ集住地では教育・文化を含む政策全般をサーミ議会が一元的にコントロールしていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.当初計画の通り、北海道新ひだか町を対象にして、アイヌ民族集住地調査を予定した内容で実施することができた。具体的には、北海道アイヌ協会と同協会新ひだか支部の協力を得て、57名のアイヌ民族の人々を対象に生活の歩みと意識に関するインタビュー調査を行った。また、地域住民を対象にした郵送アンケート調査では、1,229名の地域住民への調査票を配付し、529名から有効な調査票を回収することができた。有効回収率は43.0%であった。さらに、郵送アンケート調査の回答者のうち了解を得られた43名の方に対して、アンケート調査に追加する形でインタビュー調査を行うことができた。 2.ノルウェーのサーミ集住地での機関ヒアリング調査では、直接当事者から多くの情報を得ることができた。同時に、各種の資料やデータを提供して頂き多くの成果を得ることができた。さらに、事前に把握していなかった重要なサーミ関連諸機関の存在が明らかになった。とくに、カラショークやカウトケイノが位置するフィンマルク県の土地を管理する土地公社(サーミ側からの3人とフィンマルク県からの3人により構成)の存在を把握できたことは大きな成果であった。これにより、先住民族が公的な土地を管理する仕組みを今後直接ヒアリングできる可能性が開かれた。 3.ノルウェーにおけるサーミ集住地での調査とアイヌ民族集住地での調査の結果にもとづいて、本研究プロジェクトの初年度の成果として、それぞれの中間報告書を刊行した。前者は、『調査と社会理論・研究報告書29 ノルウェーとスウェーデンのサーミの現状』、後者は『調査と社会理論・研究報告書30 新ひだか町におけるアイヌ民族の現状と地域住民』と題するものである。このうち、前者は本プロジェクトの研究分担者の何名かが、別の研究プロジェクトとして昨年から取り組んできた研究の成果と組み合わせた形でとりまとめたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
1.本研究プロジェクトの2年目に当たる2013年度には、2012年に続いて、アイヌ民族集住地調査と北欧のサーミ集住地での調査を以下のように実施し、研究を推進する。 2.アイヌ民族集住地として、北海道伊達市を対象にして、アイヌ民族の人々に対するインタビュー調査と地域住民に対する郵送アンケート調査およびインタビュー調査を実施する。すでに北海道アイヌ協会および同協会伊達支部に調査依頼を済ませており、調査対象者の人選をお願いしている。調査対象者の人選を支部にお願いするのは、われわれが対象者の名前や住所を把握できないようにするためである。昨年も、この方法を用いて、調査対象者の人選を行っている。 3.北欧のサーミの調査は、2012年度に引き続き、ノルウェーのサーミ集住地を対象にして実施する。2012年に訪問しヒアリング調査を行った各種機関への補足調査と同時に、新たにフィンマルク土地公社、サーミラジオ、サーミテレビ等の新たなサーミ関係機関を対象にヒアリング調査を行う。さらに、すでに訪問した諸機関を通じて、質問紙を用いた各種の調査を試みる。具体的には、サーミ議会を通じて、議会有権者を紹介して頂き配付やインタビューの形で、生活の歩みや様々な意識について調査を行い、基礎学校・サーミ高校の児童・生徒、保護者、教師、サーミ大学の学生・教員に対するサーミのあり方に関する意識等の調査を配付やインタビューの形で実施する。 4.アイヌ民族集住地調査とノルウェーのサーミ集住地調査で入手したデータを整理し、2012年度と同様、年度内にそれぞれの中間報告書を作成し刊行する。 5.2014年度は、3箇所目のアイヌ民族集住地として、北海道白糠町を選定し従来と同様、アイヌ民族と地域住民を対象とした調査を実施する。北欧では、フィンランドのサーミ集住地域での調査を行い、ノルウェーやスウェーデンとの比較・検討を目指す。
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Research Products
(2 results)