2013 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル社会における技術者倫理に関する実証的比較研究-行動規範構築と教材開発-
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24300274
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
栃内 文彦 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (50387354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
札野 順 金沢工業大学, 基礎教育部, 教授 (90229089)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 工学教育 / 技術者倫理 |
Research Abstract |
本研究の目的は,グローバル社会に対応した国際的な視野を持つ技術者倫理教育のための事例教材がないことを鑑み,日米欧の各地域の工科系学生(および,可能であれば技術者)の意思決定のプロセスにおける共通点・相違点の比較を通して,グローバル社会における技術者倫理の行動規範の原案作成と,これらを学ぶことのできる事例教材開発を目指すものである.平成25年度の研究実績は以下の通りである: 1)日・米・英・蘭の技術者倫理教育ネットワークの拡大:英国レスター大学の研究者(企業倫理),オランダのハーグ高等専門学校の研究者(法曹倫理,技術者倫理)の知己を得,本研究に海外研究協力者として加わることとなった.彼らにより,「ソーラーブラインド」の理論的分析やSNSを活用した技術者に求められるグローバルスキル教育手法の実践・開発が開始された. 2)事例教材「ソーラーブラインド」を用いた実証的比較調査:金沢工業大学,米国イリノイ工科大学の技術者倫理科目において,アンケート形式の比較調査を実施した.「公衆の安全」など共通して重視される価値について,実際に重視されている程度の認識度合いなどに興味深い差が見られることが分かった. 3)研究会の開催:海外研究協力者のMichael Davis(イリノイ工科大学)を招聘して研究会を,グローバルな文脈における技術者倫理についてと,倫理的意思決定を行なうためのガイドライン「セブン・ステップ・ガイド」について,の2テーマで開催した. 4)セブン・ステップ・ガイドの改訂とその試用:上記の知見を取り入れて改訂を行なったセブン・ステップ・ガイドを,技術者倫理教育に用いているE-ラーニングシステム「Agora」日本語版の改訂に伴い搭載し,試用した.その結果に基づき,「セブン・ステップ・ガイド(KITバージョン)」を作成した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の当初の研究計画は,1)各国の技術者倫理および同教育の特色,重視される価値(地域特有の価値観,様々な価値の重視される度合い・順序など),の抽出と明確化を行うこと,2)事例「ソーラーブラインド」,「ギルベイン・ゴールド」を用いた実証的比較調査を通年にわたり実施し,倫理的意思決定をする際の共通点や相違点を随時明確化すること,3)ここまでの調査から得られた,特に技術者倫理(教育)の特色や重視される価値に関する知見を踏まえて,グローバル社会における技術者の国際的行動規範素案を作成し,個別の条文・文言の精査を進めること,だった. 先述の研究実績は当初計画とは若干異なっているが,その理由は以下の通りである: ・本研究を土台とした技術者倫理に関わる教育・研究者のネットワーク拡大を志向した:平成24年度に作成した「ソーラーブラインド」英語吹替版などを通じて本研究内容に興味関心を抱く研究者らがコンタクトしてくるようになり,本研究の目的を鑑みて,そうした人々のネットワークの拡大を目指すこととした. ・本研究の理論面の計画を縮小し,上記のネットワーク拡大を含め実践面に重点をおくこととした: これまでに実施したアンケート調査の結果を簡単に検討したところ,重視すべき価値について各国間で大きな違いが見出されることはないということが示唆された.一方,グローバル社会における各国のローカルな特徴の認識という観点から実践的側面で価値の分析を進めることで興味深い知見が得られる可能性が示されたため,本研究の目的に照らして,より実践的な方向に研究をシフトさせることにした. このように,当初計画から若干異なる方向に研究を進めることにしたが,当初計画を踏まえての研究内容であること,かつ,「研究実績の概要」で述べたように具体的な成果が得られていることから,現在までの達成度は「概ね順調に進展している」と評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
平成26~27年度においては,「現在までの達成度」で述べた研究計画の変更,および,これまでの研究の進捗状況を踏まえて,以下のように研究を実施する. 平成26年度:1)「ソーラーブラインド」「ギルベイン・ゴールド」を用いた実証的比較調査:アンケート調査の結果,および,Agoraを用いた事例分析データを分析し,グローバル社会において重視すべきとして共有されている複数の価値に関して,それらが実際に重視されている程度の認識度合いを比較検討し,技術者として倫理的意思決定をする際の各国間の共通点や相違点を明確化する.2)明確化された共通点や相違点を要素として含むような(それらについて学ぶことのできる)技術者倫理教育のための事例教材の作成に向け,そのような要素が適切に含まれているかどうかを評価する基準を策定する.3)[実施時期を平成27年度にする可能性あり]海外研究協力者らを日本に招聘し,1)と2)に関する検討,本研究内容の社会への発信のためのワークショップを開催する. 平成27年度(最終年度):1)グローバル社会における技術者倫理を学ぶことの出来る事例教材案を作成する.それを工科系の学生に実際に分析させ,改善箇所の洗い出しおよび教材としての有効性の確認を行う.明らかになった改善点を修正し,事例教材として完成させ,公開する.さらに,以上の事例教材開発手順をまとめ,マニュアルとして公開する.2)Society for Ethics Across the CurriculumおよびAssociation for Practical and Professional Ethics両学会の年次大会(前者は11月ごろ,後者は3月ごろ,ともに米国内で開催),日本工学教育協会および科学技術社会論学会などの場で,本研究成果を報告する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨今の経済情勢により海外出張旅費が当初予算を超えた.特に,2014年3月の米国出張(2名)において,航空券代金の見積額が見込みを大幅に超えたため,次年度の研究費から30万円を前倒し請求した.しかし,同代金は見積額より約9.6万円減(2名)となったため,最終的には,約8.3万円の次年度使用額が生じた. 上記の次年度使用額を併せて,平成26年度の研究費は約108.3万円となるが,6月に予定しているオランダ出張(約40万円.海外研究協力者らとの打合せ),研究調査などでの数回の国内出張(場合によっては米国出張)(約40万円)のための旅費として使用する予定である. ただし,平成26年度末から平成27年度にかけて海外研究協力者らを日本に招聘してワークショップを開催する予定であるが,招聘人数と費用および期日についての予定の検討を進める中で,使用計画が今後大きく変わる可能性がある.
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Research Products
(3 results)