2013 Fiscal Year Annual Research Report
電気磁気効果を用いたナノスケール金属およびナノ粒子集合体の磁気秩序制御
Project/Area Number |
24310093
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 徹哉 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20162448)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 忍 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (60276417)
牧 英之 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (10339715)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 磁気物性 / 電気磁気効果 / 磁性制御 / 磁性薄膜 / 磁性ナノ粒子 |
Research Abstract |
Pdに電場を印加することで強磁性発現条件の境界で磁性を制御する。まず、強誘電体の分極電場を用いたPdナノ粒子の磁性制御を目指す。PdとBaTiO3のナノ粒子超格子を用いて、強誘電体キュリー温度TC上下でPdナノ粒子の磁性の変化を調べる。これまで、BaTiO3およびPdのナノ粒子を作製し、粒子混合体の磁性を調べたが、TC上下で明瞭な変化を確認するには至っていない。次に、チタン酸ストロンチウム(STO)基板上に堆積させたPd(100)超薄膜で、量子井戸状態から理解されるように膜厚に対して周期的に強磁性が発現すること、その磁化とキュリー温度がNiと同程度であることを見出し、X線磁気円二色性測定から強磁性がPd由来であることを確認した。さらに、Pd薄膜に自己組織化単分子膜(STO)の形成または酸素ガス吸着を行うことで、強磁性磁化が膜厚に対して系統的に変化することが分かり、電荷移動で磁性制御が可能であるとの見通しを得た。電場印加実験では、まず、イオン液体を用いた電気二重層を通した電場印加を行ったが磁性変化を確認するに至っていない。一方、NbドープSTO基板上にPdを堆積させ、基板とPd薄膜間に電場を印加して界面での位相シフトを変化させることで磁性を操作する手法を案出し、実験を遂行している。 相互作用の強い強磁性微粒子集合体で、微粒子の磁気異方性を電場で変化させ、相互作用とのバランスの変化を用いて磁性を制御する。このために、MgO 被覆Feナノ粒子集合体にイオン液体に形成される電気二重層を用いて強電場を実現する。これまで、FeとMgOのコアーシェル粒子の作製を試みたが、MgO作製時にFeの酸化が生じたため、FeとMgOを用いたグラニュラー膜を作製して同様の実験を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで、Pd超薄膜の磁性の特定、その起源の解明、および電場印加により磁性制御が可能であることを示唆するいくつかの根拠を得ることに成功している。また、NiドープSTO基板とPd薄膜間に電場を印加して位相シフトを変化させることで磁性制御するという新たな手法を提案し、実験を進めている。しかし、電場印加の手法に実験上の難しさがあるため磁性制御には至っていない。PdとBaTiO3のナノ粒子作製条件の絞り込みは大きく進歩したが、まだ超格子の作製に成功していない。このため、Pdナノ粒子への十分な電場印加が実現できておらず、その磁性操作には至っていない。Feナノ粒子集合体の磁性操作に関しては、MgOとのコアーシェル構造を作製する際にFeが酸化する問題を克服することができておらず。Fe/MgOグラニュラー系を作製することでこの問題を回避する方針を立てた。以上Pd薄膜の磁性制御に関しては、かなり目処がついており、その実現の可能性は高いと考えている。一方、ナノ粒子集合体の磁性制御に関しては、試料作製に大きな障壁があり、グラニュラー系の作製など別の方向からこの問題の解決を目指しているところである。総合的にみて、薄膜系に関しては、ほぼ順調に進んでいると考えられるが、ナノ粒子集合体に関しては、少し予定より遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) STO基板上のPd薄膜では量子井戸状態から説明されるように膜厚に依存して周期的に強磁性が発現した。この強磁性発現に近い膜厚を持つPd薄膜では、電場印加で磁性が容易に可逆的変化しうる。Pd薄膜の磁性の起源を明瞭にするためX線磁気円二色性測定および角度分解光電子分光測定を行い、量子井戸状態の確認と膜表面および基板との界面での位相シフトの大きさを算出し、電場印加磁性制御に最適な膜厚を特定する。 (2) Pd薄膜表面にSAMの形成または酸素ガスの吸着を行うことで、膜厚に依存して自発磁化が系統的変化することが明らかになった。今後、ガス吸着時のPdの結晶性変化の有無を放射光を用いた回折実験で確認する。さらに、SAM形成とガス吸着に伴うPd薄膜の磁性変化を詳細に観測し、電場印加磁性制御の条件を特定する。 (3) Pd(100)超薄膜への電場印加により電荷移動を行い、帯電状態で磁性変化を誘導する。このために、イオン液体を用いた電気2重層を用いて電場を印加し、磁化変化をカー効果により測定する。次に、NbドープSTO基板とPd薄膜間に電場を印加して界面での位相シフトを変化させ、磁性発現が生じる膜厚をシフトさせることで、Pd薄膜の磁性制御を実現する。この磁性変化をSQUID磁力計中で電場印加することで評価する。 (4) Pd/BaTiO3ナノ粒子超格子を作製し、BaTiO3ナノ粒子のTC上下で分極の有無に伴うPdナノ粒子の磁性の変化をSQUID磁力計により測定する。 (5) FeとMgOを同時スパッタすることで、Fe/MgOグラニュラー試料を作製する。これに電場を印加することで、Feの磁性制御を実現する。 以上の測定結果より、電場印加による磁気相転移制御の可能性を明らかにし、実用上有効な手法を提示する。さらに磁気相転移の物理的側面についての議論を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の基盤となるPd薄膜の磁性に関する基礎研究において大きな進展が見られ、早急に研究を進める必要が生じ、前倒し支払の請求を行った。しかし、前倒し支払い分を過剰に見積もりすぎたため、次年度使用額が生じた。 Pd薄膜の磁性に関する基礎研究をさらに加速させて進める必要があることから、その実験費、成果発表のための出張旅費として使用する予定である。
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