2014 Fiscal Year Annual Research Report
日本型コミュニティ放送の成立条件と持続可能な運営の規定要因
Project/Area Number |
24330167
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
松浦 さと子 龍谷大学, その他部局等, 教授 (60319788)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 明子 名古屋大学, その他の研究科, 准教授 (00351156)
林 怡蓉 大阪経済大学, 情報社会科学部, 准教授 (10460990)
北郷 裕美 札幌大谷大学, 社会学部, 准教授 (20712623)
金山 智子 情報科学芸術大学院大学, その他の研究科, 教授 (40383971)
寺田 征也 明星大学, 人文学部, 助教 (40583331)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | コミュニティラジオ / コミュニティ放送 / 公共性 / コミュニティジャーナリズム / ソーシャル・キャピタル / 島嶼部・中山間地・原発立地地域 / ボランティア / 非営利放送 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本におけるコミュニティ放送局は300局を越えた。東日本大震災後、臨時災害放送局が被災地で活躍したことからその必要性が広く認識され、各地で開局の気運が高まっている。防災や減災に一定の役割を果たすことはもちろん、復興期においても被災した人々を地元方言で励まし、コミュニティの再生を促進する効果が明らかになった。また福島では原発事故後の線量放送など、生活安全上の関心に応え、エネルギーの地産地消への地元の意欲を鼓舞している。 被災地、離島、中山間地等、ラジオを必要とする地域ほど、経済的、人的資源にも恵まれず、放送運営や経営のノウハウが確立されていない局も多く、コミュニティ放送の設立のハードルは高い。制度的にも免許交付更新の条件は厳しいために、その持続可能性については、コミュニティ放送にとって恒常的な悩みとなっていることも確認された。海外で通念とされている非営利放送やボランティアの参加は、日本では少数派である。そして、コミュニティ局運営への参加や、地域連携、広告資源以外の収益開拓は、一部の局にしか実行されていないこともわかってきた。 また、原発再稼働をはじめ議論の分かれる地域課題について、禍根を残さない議論や番組制作は困難とされ、報道に取り組む局も少なく、過激な政治的・宗教的表現に対する警戒から、コミュニティ放送が地域課題を解決するためのコミュニケーションを創るに至っていない局があることも原発立地件調査で確認した。しかも、ヘイトスピーチのような番組が一部で放送され、放送の水準や内容について住民が関与できない放送局も少なくなく、果たして住民の参加や運営が果たされているかといえば、一部の局を除いてパブリックアクセス、ジャーナリズムに対する意欲は低い。 本研究グループでは、そのような背景におけるコミュニティ放送の公共性に関する評価指標の設定について研究したメンバーは研究書を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究メンバーは本研究が開始される以前から既にコミュニティ放送について各自の視点からさまざまなタイプの放送局に接触し、関係を持っており、また本研究費以外にも研究費を得て参与観察している研究者や、実践現場の只中において研究を行っているメンバーもいる。そのため、最も現場に則した情報に迅速に接することができている。また、被災地や離島、中山間地、原発立地地域のコミュニティ放送局の方々は、一部を除いて、研究成果に関心を持ってくださり、協力的な態度で接してくださっていることもほぼ調査が順調に進んでいることの理由であろう。 制度や基金については、財団や地域基金の設立など理論より現場では支援体制の拡充を諮る地域もあり、行政や地域社会からの働きかけの意欲も近年高まっている。しかし、一方で住民自身が支える自覚は住民のなかに未だ高まっているとはいえない。ヒアリングを行ったコミュニティ放送局のなかには一定の収益を確保できるノウハウを蓄積しており、新たに開局するグループに運営指導を行っている。そうした局は、JCBA(日本コミュニティ放送協会)、AMARC日本協議会とは異なるネットワークを形成しており、また非営利放送局のネットワークもまたそれらとは別のネットワークがあり、コミュニティ放送局同士のさまざまなネットワークが重層的に構築されつつある。 一方、まちづくりの中核メンバーが局運営に関与することで、放送内容がまちの将来を検討する側面を持つと同時に、少数意見や異論反論を排除する傾向が静かに浸透しているような、「コミュニティメディアの窒息」状況が見て取れる。 こうした側面について局内外から問いかけを重ね、国際的なコミュニティ放送のあり方とは一線を画す、日本型コミュニティ放送の特徴が明らかになりつつあり、おおむね順調と回答する。
|
Strategy for Future Research Activity |
このように順調に研究は進展し、それらの各調査状況が明らかになってきたところから、日本型のコミュニティ放送とはどのようなものであるのか、国際的には類をみないほど商業的運営にこだわる局が多いなかで、ボランティアや非営利運営の局が限られているのはなぜか、住民参加実現、地域連携の有無等、メンバーの提起する「公共性」指標をどこまで用いることが現実的なのか、日本の放送が、ある意味、価値基準が多様でガラパゴス的な状況について、歴史的地理的背景、導入の経緯、コミュニティの政治的経緯などについても、最終年の今年は、比較することができると考える。台風豪雨等の通過エリア、島嶼部、原発立地地域、貧困地域、中山間地等、まちの課題を見つめ、それらのエリア特性ごとに、存する放送局についてニーズが果たされているのかについても検討を試みる。 また、ケアの観点からコミュニティ放送のあり方を見つめてきた分担者は、コミュニティ放送局が醸成してきた地域のソーシャルキャピタルについて検討し、討論・議論を熟議の場に成熟させることが可能かどうかについて台湾と比較しつつ研究をしている分担者は、理論的側面からコミュニケーションの場としてのコミュニティ放送について検討する。予てから調査項目等を検討していた悉皆調査の実施について議論を深め、本年の進み具合や多角的な調査の検討を行い、質問紙調査か、それに代わる調査の可能性を議論する予定である。 さらに、教育機関との連携、地域ジャーナリズムの側面から日本型コミュニティ放送の規定要因を探る分担者も参加、最終年の今年、来年の出版に向けて、報告の方向性を議論する場を何度か設ける予定である。 本年は、各自分担者が分担テーマに沿った調査成果を報告、分担者の研究関心の視座から、日本型コミュニティ放送局がどのように映じてきたのか、メンバーの視座の交代も試みつつ、新たな論点を発見したい。
|
Causes of Carryover |
代表者が勤務校で「カリキュラム改革」会議主催が多かったこと、分担者の就職着任異動、妊娠出産による産休等の事情による研究計画変更で出張調査の回数が例年に比べて減ったため、フィールド調査費が十分使えなかった。しかし、交通費支出は減ったが、それぞれ文献調査や資料収集等、研究を怠ることはなかったので、研究全体への影響は低い。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
4年に1度開催されるAMARC世界コミュニティラジオ放送連盟の世界大会がガーナで開催され、共同研究者が参加を予定していることと、代表者も分担者もフィールド調査は例年程度に行える体制に戻ったので、前年度に使えなかった費用は、今年度確実に使用させていただきたい。
|
Research Products
(23 results)