2016 Fiscal Year Annual Research Report
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24340035
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須藤 靖 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90183053)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トランジット惑星 / 天体力学 / 3体問題 / 惑星リング / 逆光惑星 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度においては、主として以下の2つの成果をあげた。 1)階層的重力3体系における惑星移動の数値シミュレーション 主星、内側の惑星、外側の摂動天体の3つからなる系の重力進化を追跡する数値計算コードを完成させ、系統的なパラメータサーベイを行った。特に、その3つがほぼ同一軌道面にある場合には内側の惑星の離心率が極めて1に近くなるために、逆行ホットジュピターを形成する可能性がある唯一の理論モデルであることが指摘されていた。しかし、それは純粋にニュートン的な重力相互作用に基づく永年摂動計算であった。我々は、主星と惑星の自転角運動量、一般相対論の効果、潮汐変形、などを取り込んだ計算を行い、ほとんどの場合、惑星は安定軌道になる前に潮汐破壊されることを示した。したがって事実上、逆行ホットジュピターを形成することは困難である。一方、このような摂動効果を通じて、順行ホットジュピターが形成される可能性は高い。ホットジュピターの形成、特に移動機構にはまだ定説がなく、その一つの経路を与えるものである。 2)惑星リング候補天体の発見 トランジット惑星からその周りのリングを検出する方法論を構築し、実際にそれをケプラー探査機による長周期惑星候補に応用した。その結果、土星と同程度の惑星リングをもつと考えられる候補を初めて発見した。ただし、リング以外にも連惑星、あるいは円盤を持つ近接食連星系である可能性も残っており、今後の追観測などを通じてさらに研究を継続することにしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の目的であった天体力学の数値計算については、その結果をまとめるとともに、解析的議論を駆使して得られた結果の時間スケールを説明することに成功した。さらに、実際に存在する階層的3体系に対してこのモデルを適用し、それらの観測的性質を説明できるかどうまで検証した。これは当初の予定以上の進展である。 さらに、惑星リング候補の発見は、それが確認されれば極めて重要な結果である。残念ながらこれは現実的な時間スケールの間には一度しか起こり得ない現象であり、再検証はほぼ不可能である。しかしながら、この候補天体の検証とは独立に、惑星リング探査が可能になったことを示したという意義は高い。そのため、この結果を発表した米国天文学雑誌を出版している米国天文学会のホームページにおいて、今週の注目論文としてとりあげられた。この事実は、この論文の発見はもとより、その方法論と将来性が評価されたものと理解している。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の結果は、今後引き続き研究を継続する大きな動機づけとなっている。 重力3体問題に対する永年摂動を計算する数値シミュレーションコードはすでに完成しているので、今後は新たな大学院生とともに引き続き研究を進める。特に、今まではほぼ同一軌道面にある3体問題に特化したパラメータサーベイを行ってきたが、軌道傾斜角の分布をも考慮したより系統的サーベイを行う。この場合、古在効果も重要となるため、質的に異なる結果が期待される。さらに、コア集積モデルにもとづいた微惑星のN体シミュレーションを用いて、惑星散乱の結果として残される3体の初期条件分布関数を計算し、それを初期分布として採用することで、3体問題の最終状態に対する一般的な相図を完成させる。 リング探査の方法論は、必ずしも長周期の惑星だけでなく、複数回トランジットを起こす惑星に対しても応用可能である。可能性は低いとしても、主成分が氷ではないリングが存在すれば、より短周期で複数回トランジットを起こす惑星であれば、むしろ検出はより容易であり、かつその信頼度は格段に高くなる。したがって今後は、周期には関係なく、トランジット光度曲線の信号雑音比が高い惑星をすべて解析し、リングの有無を調べた上で、検出されればそのパラメータさらには分布関数、仮に検出されない場合でも、リングサイズの上限値を周期の関数として得るなど、今まで存在しないような新たなパラメータ空間における惑星の性質を定量化する予定である。
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Causes of Carryover |
9月に研究代表者の右目が白内障であることがわかった。12月に手術を行ったのであるが、予想外に複雑な症例であることがわかり、2月末に再手術をするまでの期間、ほぼ右目は見えないまま左目だけで生活することを余儀なくされた。そのために、実質的にその間の研究継続がかなり困難となった。また、2月にフランスで自ら主催する予定であった国際会議にも欠席せざるを得なくなった。 このために次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2月末に受けた再手術の結果、視力は徐々に回復しており、5月には眼鏡で矯正すれば右目でも論文を読むことが可能になる程度には戻る予定である。4月にはすでに新たな大学院生とともに、当該課題の研究遂行について計画を立て、必要なコンピュータの購入を行った。さらに、11月にはフランスの共同研究者のもとに出張するとともに、11月末に東京大学において国際研究集会を開催する予定であるので、その際の招聘旅費等に使用する予定である。
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