2013 Fiscal Year Annual Research Report
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24360013
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
荻野 俊郎 横浜国立大学, 工学研究院, 教授 (70361871)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 固体表面 / グラフェン / 生体分子 |
Research Abstract |
固体表面と生体分子の相互作用解明は、細胞培養、再生医療、バイオセンサーなどにおいて重要である。本研究では、酸化物単結晶とグラフェンの表面におけるタンパク質分子の吸着動態を解明することを目的とした。また、その応用として、溶液中で生体分子を選別して検出する生体分子ゲートデバイスの実現へ向けた基礎技術の構築を目指した。 酸化物単結晶においては、生体親和性の高い酸化チタン表面の応用へ向けて、すでに実績のあるサファイアと同様のドメイン構造形成を試み、形成条件を明らかにした。また、タンパク質の構成要素であるペプチドの吸着選択性を明らかにした。グラフェンは貼り合わせる支持基板の性質によって表面の特性を制御することができる。支持基板表面への自己組織化単分子膜形成により、正負の電荷をもつ親水性表面と疎水性表面を作製し、貼り合わせたグラフェン表面の化学的性質を制御し、タンパク質吸着を調べた。その結果、タンパク質の凝集・脱離に顕著な差異が発見され、基板表面によるグラフェン表面の物性制御が有効であることが示された。これらの研究では、グラフェンを貼り合わせるときの基板表面の吸着水制御(T. Ogino et al., J. Phys. Chem. 116, 2012, 10084)と表面電位評価(T. Ogino, et al., J. Col. Interface Sci., 361, 2011, 64)の重要性が認識されていたので、前者の精密制御のための真空型グローブボックスと、後者の評価のためのポテンシオガルバノスタットを購入した。 分子ゲートデバイスにおいては、分子ゲートをビーズが通過するときの溶液中のイオン電流計測を進め、圧力差による通過に対しては明瞭な電流ドロップが認められるが、溶液中の電位差だけでは十分な数のビーズ通過を得るのは困難であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、固体表面と生体分子間に働く相互作用を明らかにすること、その応用として固体ゲート(微細孔)を通過する生体分子を制御し、固体表面への吸着現象を用いて通過分子を検出するデバイスの開発を行うことである。 固体表面と生体分子の相互作用解明においては、本報告者のグループで発見した金属酸化物表面の相分離技術をさらに発展させ、生体親和性の高いチタン酸化物でも同様な相分離構造が得られることを発見した。グラフェン表面においても、支持基板のパターン化により吸着動態の異なる「相分離グラフェン表面」の形成に成功した。これらの表面は固体と生体の相互作用解明に有力な基盤技術を提供し、分子ゲートデバイスにおける各種の検出装置を取りそろえられる見通しが得られた。これらは、当初の計画以上の達成度であったと判断できる。一方、分子ゲートデバイスにおいては、標的となる分子やビーズのゲート通過を効率的に計測する条件が確立されていない。圧力差によりビーズ通過は制御できているが、汎用デバイスとしては、ゲート前後の電位差で制御するデバイスが好ましい。したがって、デバイスの特性計測技術においては計画にやや遅れがみられる。 以上を総合すると、固体表面と生体分子の相互作用解明においては計画以上の達成度であり、また、研究論文はリストに挙げてある通りインパクトファクターの高い論文誌に多数掲載されており、成果は計画以上と自己評価できる。しかし、分子ゲートデバイスにおいてやや遅れがみられるため、総合評価としては計画通りの進捗とする。
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Strategy for Future Research Activity |
固体表面と生体分子の相互作用については、これまでドメイン構造を発現する酸化物表面と、基板表面の性質によって制御されたグラフェン表面とを用いてきた。またターゲットとして主としてタンパク質分子を用いてきた。今後の研究の柱として、一つは細胞の基本骨格である脂質分子と固体表面の相互作用について重点的に取り上げる。方法として、脂質の自発展開により単層膜から多層膜まで各種の膜形成が可能なことが判っている(K. Yokota, T. Ogino, et al., Jpn. J. Appl. Phys., 53, 2014, 05FA11、等--本論文は2014年4月以降に出版されたためリストには未記載)。また、ベシクル融合については十分な実績をもつ。これらの手法を用いて、各種制御された固体表面とグラフェン表面における脂質分子膜との相互作用を解明する。酸化物基板については、従来のサファイアと酸化チタンに加えて、自発分極をもつ酸化物強誘電体も試みる。 平成26年度の重点項目は分子ゲートデバイスの実現である。この標的として、近年急速に関心の高まっているエキソソーム(直径100nm程度のベシクル)を取り挙げ、そのモデルとしてビーズまたは脂質二重膜からなるベシクルのゲート通過検出と、ゲートへの機能付与による通過選択性とを実現する。最終的には、分子ゲートと固体表面検出器からなる生体分子認識機能を備えたバイオセンサーを実現する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在までの達成度で述べたように、固体表面と生体分子の相互作用解明については計画以上の達成度であったが、分子ゲートについては、ゲートを通過する分子数の制御が不十分であり、若干の遅れが生じている。特に、測定系の不備を特定することに時間を要したため、多数の分子ゲートを用いた実験に至っておらず、26年度に使用を繰り延べた。また、各種の表面修飾を施したビーズを用いて、ゲート通過を制御する計画であるが、その消耗品費も26年度に繰り延べている。最後に、成果の公表に至っていないため、額としては大きくはないが旅費等の使用も見合わせており、次年度使用額に加算されている。 分子ゲートの特性が十分に得られなかった理由として、測定系のノイズ等よりも、ゲートを通過する分子・ピースの数に問題のあることが判明した。したがって、分子ゲート前後の電界制御などにより通過分子・ビーズ数を制御できる見込みが得られている。26年度は、未使用額144万円を、分子ゲートデバイスの試作(40万円)、各種の表面処理を施したビーズの発注(40万円)、測定系の追加(50万円)、および成果の公表(旅費として14万円)を予定している。
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Research Products
(34 results)