2012 Fiscal Year Annual Research Report
同所的種内変異が生み出す相互作用と群集レベルの効果
Project/Area Number |
24370004
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岸田 治 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 助教 (00545626)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 個体群 / 変異 / 表現型可塑性 / 誘導防御 / 成長 / 発生 / 生活史 / 共食い |
Research Abstract |
1.サイズ変異に起因する捕食者種の共食いが被食者種に及ぼす影響:エゾサンショウウオ幼生(サンショウウオ)とエゾアカガエルのオタマジャクシ(オタマ)の食う-食われる関係をモデルとした水槽実験を行った。サンショウウオの孵化タイミングを操作して共食いの生起をコントロールし、サンショウウオが共食いをすると共食いした個体が急激に成長することで大型の餌種であるオタマを利用できるようになり捕食圧が強まることを明らかにした。過去の研究は、捕食者の共食いが餌種への捕食圧を弱めることを一貫して示しており、本研究はそれとは反対の結果である。本研究ではさらに、共食いにより強まった種間の捕食-被食関係が2種の変態タイミングやその時のサイズ、被食者種の防御応答まで変えることを示した。これらは、捕食者個体群の形質変異やその結果としての相互作用が、餌種の個体数と形質を介して群集にさまざまな波及効果をもたらすことを示唆する。 2.生活史初期過程における密度依存的な生活史戦略:個体群変異の創出機構を探るため、孵化直後のサンショウウオの密度依存的な生活史戦略を調べた。孵化直後の個体を高密度と低密度で卵黄を吸収するまで育て、成長と発生を比較したところ、高密度の個体は成長と発生の両方が早いことがわかった。高密度由来の個体は低密度由来の個体に比べて運動能力が高く、大きな個体に共食いされにくく小さな個体を共食いしやすいことも確かめられた。これらの結果から、他個体の存在に対して孵化直後のサンショウウオが示す成長と発生の早期化は、将来の共食い環境への適応として解釈できた。個体が経験する環境条件により可塑性の発現は変化するだろうから、成長と発生の早期化は個体群内のサイズ変異の創出に関与すると予測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は個体群内の形質変異が生物間相互作用に与える影響とその波及効果を調べることであるが、初年度に捕食者-被食者の2種系で捕食者個体群の形質変異の効果を明らかにできた。この2種系は池生態系において核となる相互作用のため、次年度以降の群集・生態系レベルでの研究の基盤的知見を得ることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
個体群内の形質変異の生態学的意義を広く探るために、群集レベル、物質レベルに注目した研究を展開する。群集レベルのテーマとして、サイズ変異に起因するサンショウウオの共食いが池の群集組成と生態系機能に及ぼす影響を野外実験で探る。物質レベルのテーマとして化学量論に焦点を当てた研究を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度当初から学術研究員を雇用する予定であったが、適任者の家庭の事情により採用が遅れ10月からの雇用となったことで未使用の経費が生じた。当該経費は翌年度に繰り越し、25年度の研究費と合わせて学術研究員の雇用のため使用する。
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