2014 Fiscal Year Annual Research Report
古代・中世地中海世界における宗教空間と社会変動-トロス遺跡聖堂遺構の発掘調査
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24401030
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
浦野 聡 立教大学, 文学部, 教授 (60211778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
師尾 晶子 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (10296329)
太記 祐一 福岡大学, 工学部, 教授 (10320277)
草生 久嗣 大阪市立大学, 文学研究科, 講師 (10614472)
中谷 功治 関西学院大学, 文学部, 教授 (30217749)
小笠原 弘幸 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (40542626)
深津 行徳 立教大学, 文学部, 教授 (70208916)
益田 朋幸 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70257236)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 古代末期 / ビザンツ / 聖堂 / 教会 / 都市遺跡 / 聖域 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度においては、トロス司教座聖堂の心臓部である内陣(ベーマ)を発掘した。その結果明らかになったのは以下である。 1内陣には、ベージュモルタルの段階(Ⅰ期)、赤モルタルの段階(Ⅱ期)、白モルタル1の段階(Ⅲ期)と少なくとも三つのフェーズがあることが確認された。赤モルタルの直下には赤モルタルに接して白モルタル2が広範に確認されるが、時期はⅡ期と同時か、あまり離れていない可能性が高い。Ⅰ期が古代末期の創建時、Ⅱ期がビザンツ中期の再建時、Ⅲ期がビザンツ後期の再建・修復時と考えられる。2Ⅱ期には、古代末期の象嵌モザイク石材も再利用されているが、すでに床面を埋めるには不足しており、タイルや転用石材で広く補われていた。このことは、Ⅰ期からⅡ期にかけて、荒廃した中間期を挟み、連続使用されていなかった可能性を示唆する。3最終局面の祭壇跡は、基礎を残すのみで、また天蓋の柱も見いだされなかったことから、Ⅲ期の修復後、聖堂は再び灰燼に帰し、再再建される途上であった可能性がある。4Ⅱ期の祭壇の側板を嵌めた痕跡が残されているが、長方形ではなく若干いびつであり、若干長さの異なる転用材を四面に嵌めた痕跡であろう。ここには、一昨年度発見された、表面に古代末期、裏面にビザンツ中期のレリーフが施された大理石板がはまっていたものと考えられる。5天蓋の4隅の柱礎は現況で東の二点しか残っておらず、Ⅱ期にはすでに天蓋は存在せず、東側の二本のみ、飾り柱として設置されていたと考えられる。6Ⅱ期において、北翼廊と内陣の間には、通路が設けられていたものと見られるが、これは南翼廊と内陣の間が仕切り壁によって切り離されていたのと対照的である。北翼廊第2室に祭壇のような設置物があったことから、終盤に近い局面で、北翼廊と内陣を結ぶ、南北の導線が重要になったものとみられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
聖堂自体の発掘はそこからの情報の多さを考えれば、順調に推移しているといえるが、当初計画で、聖堂の下にある古代の聖域まで掘り進むという計画は、聖堂それ自体の床面が、きわめてよく保存されていることから、容易に達成されない。聖堂南側や東側で、試掘も試みているが、ビザンツ期以降の遺構がかなり残されており、ここでも古代の地表面に到達することは困難な状況にある。 考古学発掘は、当初の想定とは異なる遺構や遺物の発見により、当初計画通りに発掘が進まないことが多い。今回の発掘プロジェクトもまさにその事例に当てはまるものといえる。後代の遺構や遺物が発見された場合、当初の計画を貫徹して、いい加減な遺物・移行処理を行って、既存の遺構を破壊して掘り進めるわけにはいかない。その一方、ある程度、遺構の概要が明らかになった時点で、後代の遺構については発掘を止め、別の箇所からより下の、前代の遺構にアプローチするというやり方は、これもまた、考古学現場では一般的である。そこで、次年度は、試掘も試みることとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、広大な身廊部の床面発掘については、最小限にとどめ、およそ16㎡を開くにとどめる。身廊の東西の中心軸線に沿って、東端、中央、西端を発掘する。そうすることで、床面モザイクのパターンの全体像がある程度つかめることが期待される。 その一方、これまで発掘の手が入っていない、北外壁外側の試掘により、古代の地層を確認することを考えている。ただし、壁面の強度の問題があり、試掘坑を空けることで壁面の崩落を招くと言うこともありうる。現地トルコ人研究者との情報交換を綿密に行い、適切な箇所で、試掘を行うこととしたい。 いずれにせよ、本プロジェクトは、当初の予想に反して、ビザンツ期における使用の痕跡がいたるところで発見されつつあり、リキア地方の、ビザンツ期における政治、宗教の中心地として、これまでは知られてこなかったトロスの役割がクローズアップされるようになってきた。これは、学術上、重要な発見であるので、さらに継続して発掘に当たりたい。
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Causes of Carryover |
聖堂床面、および壁面から採取した6種類のモルタルの、材料分析を予定して30万円弱残したが、材料分析の見積もり(Ravennaのモザイク研究所に依頼)が、1件、450Euroと高額に達したため、日本国内で分析を行うこととし、適切な研究機関を探したが、昨年度中に見いだすことができなかった。今年度、継続して調査中である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
モルタルの材料分析のための費用に充てる計画である。
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Research Products
(6 results)