2012 Fiscal Year Research-status Report
中井正一と『美・批評』『世界文化』『土曜日』-定量的、定性的手法による研究
Project/Area Number |
24500306
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
後藤 嘉宏 筑波大学, 図書館情報メディア系, 教授 (50272208)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白井 亨 京都大学, 経済学研究科(研究院), 助教 (30293856)
岡部 晋典 近大姫路大学, 教育学部, 講師 (60584555)
安光 裕子 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (70128792)
中林 幸子 東北文教大学短期大学部, 総合文化学科, 講師 (70610442)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中井正一 / 『土曜日』 / 『美・批評』 / 『世界文化』 / 共通感覚 / ミッテル / メディウム / 新村猛 |
Research Abstract |
『世界文化』『土曜日』はいずれも中井正一の主宰した媒体であるが、中井がさほど書いていないが代表作「委員会の論理」を載せた『世界文化』と、「巻頭言」を半分以上の号で書いている『土曜日』では、注目する国と党派色に違いがある点を明らかにした。『世界文化』は欧米一辺倒であるのに対して『土曜日』は中国に注目し、欧米よりも近くのアジアに意識の向かわない知識人たちへの批判も見られる。また『世界文化』の同人はマルクス主義者と自由主義者が入り交じっていたとされるが、『土曜日』は社会大衆党寄りで、広義国防を唱える記事が多いことも発見した。 以上の事柄を資料の綿密な読み込みから明らかにしたが、同時に、定量分析のプレ調査を行い、定量的に今後実証する見通しを得た。 他方、両媒体の共通性として、ヘレン・ケラー女史など眼や耳の不自由な人の際立った能力への着目と、その延長上にある共通感覚論への志向が指摘できる。また『土曜日』ではソ連の社会関係を、中井の持論のミッテルの媒介に位置づけ、スターリンによる軍司令官への粛正に対してさえ肯定的な眼差しを投げかける。スターリンへの評価では『世界文化』以上の左傾新聞の側面もある『土曜日』ではあるが、ソ連やスターリンへの肯定的な見方が共通感覚論的な文脈で語られる点が分かった。 また『世界文化』の編集後記において、中井の「委員会の論理」を載せるに当たり、紙幅の都合上削除して貰った旨の記述があることを発見した。『世界文化』『土曜日』共に中井の主宰した媒体であるとされつつ、『世界文化』は中井ら自由主義者とマルクス主義者の路線争いの中、中井はマルクス主義に近づいたとされるが、以上から中井の両媒体への意識の違いが分かった。これらは本研究期間全体の目標である、中井のミッテル概念を捉える際の鍵となる知見であるといえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」に照らし、おおむね順調な成果が得られたと考える。「中井正一と『美・批評』『世界文化』『土曜日』-定量的、定性的手法による研究」が研究課題である。これらのうち中井正一の事実上主宰した雑誌『世界文化』ならびに、やはり彼が主宰した新聞『土曜日』の定性的な分析部分と予備的な定量分析を初年度に行った。特に研究代表者後藤が読み込みをするだけでなく、4名の研究分担者が分担してカード方式によって、キーワードや論点を書き込んだので、定量分析の準備は整っている。今後残りの年次で『世界文化』の前身誌である『美・批評』の定性分析並びに『世界文化』『土曜日』の定量分析、関係者へのインタビューへと展開すれば、研究の目的は達成できる。【研究実績の概要】に書いた研究成果の中心部分については「『講座東アジアの知識人』全五巻、有志社」の4巻「戦争と向き合って-満州事変~日本敗戦-」の「第2編.社会主義の思想」「第4章 人民戦線の人々」として後藤が脱稿し、9月刊行予定である。また共同分担者安光は、『世界文化』の有力同人新村猛の父親出の基礎的な研究をし、今後新村猛の観点からこれら研究課題に挙げた三つの媒体を捉える準備作業をしていて、出の研究成果をまず発表している。これらのメディアを研究代表者後藤は中井正一の視点からのみ捉えがちであるので、新村の視点から捉えることは有益である。 今回「研究の目的」に記した、「中井は読者の投稿によって作られる新聞『土曜日』を作り、異質な背景の人々との交流を実践した」点は、特にその実態を定性的に具にみることができた。そこでの「異質な背景の人々との交流」が『土曜日』であるとすると、アカデミックな世界での異質な専門分野の人々との交流の媒体が『世界文化』である。両媒体の共通性と異質性を浮き彫りにすることで、中井のミッテル概念を共通感覚論とのつながりで理解できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度文献資料の収集並びに文献の定性分析が主体であったので、今後の研究の推進方策としては、二年度以降、定量分析を行い、また関係者遺族へのインタビューや資料貸借の作業を進める。具体的には二年目は《『美・批評』『世界文化』『土曜日』のデータシート作りとコンコーダンス分析、内容分析》と《『美・批評』『世界文化』『土曜日』の原資料収集と関係者へのヒアリング調査》を進める。 《『美・批評』『世界文化』『土曜日』のデータシート作りとコンコーダンス分析、内容分析》では、第一に『美・批評』複写・閲覧作業を行う。『美・批評』は復刻がなされておらず、全巻揃っているのは武蔵野美術大のみで、複写作業を行う。第二に『美・批評』『世界文化』『土曜日』のOCR 読み込み及び読み込みデータの修正作業をする。これは印刷の不明瞭さから来る誤読率の高さに鑑み、サンプリングをしつつ修正に時間をかけておこなう。第三に目次兼索引データベース作り並びに分析として、キーワードの使われ方の一覧を作り、使われ方を比較する。第四に各種内容分析として随伴分析、好意・非好意の分析を行う。さらにこれらに初年度に行った定性分析の結果を組み合わせる。《『美・批評』『世界文化』『土曜日』の原資料収集と関係者へのヒアリング調査》では、中井や『世界文化』同人の遺族や関係者へのヒアリング及び資料借用を行い、可能であれば京都大学文書館所蔵の中井関連文書の調査をする。 これらの調査により、『美・批評』『世界文化』『土曜日』での同人・執筆者の論点の拡散・収斂状況や相互の影響関係が明らかになる。 三年目は《『美・批評』『世界文化』『土曜日』関係者のその他の著述との関係》を見ていくことで、一二年次の研究のさらなる肉付けを図る。それにより同人がこれらの媒体で何を学んだかが分かり、中井の「媒介者」としての位置づけ、捨て身のミッテルの媒介の意味が分かる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度は、二年度三年度に当初中心的課題としていた、『世界文化』『土曜日』そのものの定性的読み込みを先んじて行った。というのもOCRでの読み取りに誤読率が多く、定量分析をそのまま機械読み取りにて進めるとすると、対象ページすべてを扱う訳にはいかないという事態に遭遇したからである。場合によってコンピュータによる自動的な作業ではなく、人力でキーワード等を拾って内容分析する必要がある。またOCRで読み込んでコンピュータで自動的に解析させることをする場合であっても、サンプルを選ぶというか有効な対象を絞る必要が生じる。そのためにはまず全体を定性的に俯瞰し、手作業での定量分析に必要なテーマやキーワードを絞り込む必要が生じた。要するに自動的な作業であれば下手な鉄砲も数撃てば当たるが、手作業であれば狙いを定める必要がある。そこで【研究実績の概要】で記したように、『土曜日』『世界文化』で注目する国に共通性と異質性があるとか、「狭義国防」のように『土曜日』に出てきつつ『世界文化』にないキーワードを見つけた。 以上の点から初年度は、打ち合わせのための旅費以外は、書籍等の購入費の比重が大きかった。また定量分析はプレ調査的なもの以外しなかったので人件費等に充てるお金を使う必要がなかったため、残金がある程度生じた。 初年度はこのように資料の収集ならびに文献の定性分析が主であったが、資料の収集及び定性的読み込みは二年次目も継続して行う。それと同時に、【今後の研究の推進方策】にも書いたように、定量分析を本格的に行うため、アルバイトを雇い、謝金の出費比率を多くし、また、遺族へのインタビューをするため、旅費の比重も増やす。
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Research Products
(11 results)