2013 Fiscal Year Research-status Report
てんかんモデルラットを用いたてんかん発症の分子機構の解明
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24500399
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Research Institution | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
Principal Investigator |
田谷 真一郎 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所・病態生化学研究部, 室長 (60362232)
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Keywords | てんかん / 発達障害 |
Research Abstract |
イハラてんかんラット(IER)は、原因不明の自然発症ラット突然変異体である。また、生後2ヶ月までは明らかな発育遅延が認められ、自発運動の低下・記憶学習機能の不全などの精神発達障害が見られる。このIERをてんかんのモデル動物として解析することで、てんかん発症の分子メカニズムを明らかにする。これまでに私共は、IERの原因遺伝子を同定することに成功し、遺伝子名をEpi-IERとした。そして、IERでEpi-IERのゲノムを調べた結果、イントロン上にSNPを見出した。このSNPにより、Epi-IERは転写の際にスプライシングに異常が生じ、発現が著しく低下することを明らかにした。 昨年度は、IERでみられる神経細胞の形態異常がEpi-IERの過剰発現でレスキューできるか検討した。IER由来の海馬初代培養神経細胞にEpi-IER遺伝子を導入し、樹状突起の伸長や分岐を観察した結果、IERでみられる神経細胞の樹状突起の伸長阻害・分岐抑制はEpi-IERの過剰発現でレスキューできることを見出した。従って、IERの神経細胞の形態異常がEpi-IERの発現低下だけで説明できることを明らかにした。 今年度は、Epi-IERが発現低下するとなぜ神経細胞の形態異常やてんかんを誘発するのか分子メカニズムの解析を試みた。まず、Epi-IERのシグナル伝達系の解析をするために、マウス脳抽出液中からEpi-IERに結合する分子を免疫沈降法により精製し、液体クロマトグラフィーと質量分析による同定(ショットガン解析)を試みた。その結果、約300ものEpi-IER結合分子候補の同定に成功した。今後、新規Epi-IER結合分子を介したEpi-IERのシグナル伝達系の解析を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)イハラてんかんラット(IER)でみられる異常部位の特定とてんかんの関連:In situ hybridization法や免疫染色法により、Epi-IERは脳全体に発現しており、特に扁桃体、海馬で高発現していた。さらに、発現している細胞種を調べた結果、神経細胞全般に発現しており、グリア細胞ではほとんど発現が確認できなかった。次に、IERのてんかん発作の焦点部位を調べた。海馬・扁桃体・大脳皮質に電極を刺し、最初に発火する部位の同定を試みた。その結果、いずれの部位でも発火は確認できたが、特に扁桃体での発火が頻発していた。扁桃体領域を抑制性神経細胞のマーカー分子の抗体を用いて免疫染色を行った結果、抑制性神経細胞の発達異常や配置異常が確認できた。さらに、IPSCを測定した結果、抑制性神経細胞の神経活動の機能低下が認められた。さらに、海馬由来の初代培養神経細胞を観察した結果、IERでは発生初期段階の海馬領域で神経細胞の発達が未成熟(樹状突起の伸長阻害・分岐抑制)であることを見出した。また、軸索と樹状突起が束化してしまう細胞も認められた。さらに、これら形態学的な異常は、Epi-IERの過剰発現でレスキューできることを見出した。 (2)IER原因遺伝子産物の細胞内シグナル伝達系の解明:Epi-IERのシグナル伝達系の解析をするために、マウス脳抽出液中からEpi-IERへと結合する分子を免疫沈降法により精製し、液体クロマトグラフィーと質量分析による同定(ショットガン解析)を試みた。その結果、約300ものEpi-IER結合分子候補の同定に成功した。また、結合候補分子のノックアウトマウスで、IERに非常によく似た表現型を示す分子を見出した。 以上の結果から、当初の予定通りに研究は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)IER原因遺伝子産物の細胞内へのシグナル伝達系の解析 ショットガン解析による結合分子同定法の問題点としては、同定した分子が直接結合するのか、あるいは複合体の一部の分子として間接結合するのかが不明である。そこで、精製した蛋白質を用いてin vitroの結合実験を行う。また、結合する意味合いを明確にするため、ある分子に対し結合できなくなるような特異的なEpi-IERポイントミュータントを作製する。さらに時間的・空間的に結合しうることを確認するために免疫染色や免疫沈降による確認をする。これらの実験で、Epi-IERと結合候補分子の複合体形成が確認されたなら、さらにシグナル伝達経路を調べる。例えばEpi-IERの結合候補分子が酵素であるならば阻害薬を、受容体であるならばアゴニスト・アンタゴニストで刺激する。 (2)IER原因遺伝子のノックアウトマウスのさらなる解析 各発生段階に従って、Epi-IERノックアウトマウスの海馬領域の神経細胞ネットワークの異常について形態学的、免疫組織科学的に調べる。マウスについてはGAD67-GFPノックインマウスと交配し抑制性神経細胞を可視化する。また、Vglut2-GFPノックインマウスと交配し興奮性神経細胞も可視化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度に申請した研究費の一部(約70万円)を26年度に繰り越ししました。25年度の解析は、現有の設備・試薬等でなんとか対応できるのに対し、26年度に計画している生化学的および細胞生物学的解析には新たな抗体・試薬等の消耗品を大量購入する必要があると考えました。また、26年度の研究成果報告および情報収集を目的に国内・国外の学会に参加する予定であるため旅費を申請しました。 使用予定金額:(200万円) 具体的には、抗体(60万円)、生化学実験関連(52万円)、薬品(10万円)、遺伝子導入試薬(20万円)、分子生物学実験関連(10万円)、細胞培養関連(20万円)、実験動物(20万円)、国内の学会参加の旅費(8万円)、を予定しています。 以上の研究経費の妥当性を考慮し、本研究課題の遂行に必要な研究費を積算しました。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Temporal identity transition from Purkinje cell progenitors to GABAergic interneuron progenitors in the cerebellum.2014
Author(s)
2. Seto Y, Nakatani T, Masuyama N, Taya S, Kumai M, Minaki Y, Hamaguchi A, Inoue Y, Inoue T, Miyashita S, Fujiyama T, Yamada M, Chapman H, Campbell K, Magnuson M, Wright C, Kawaguchi Y, Ikenaka K, Takebayashi H, Ishiwata S, Ono Y, Hoshino M.
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 5
Pages: 3337
DOI
Peer Reviewed
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