2013 Fiscal Year Research-status Report
神経前駆細胞の細胞弾性変動を介する神経発生制御機構
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24500417
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
小曽戸 陽一 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (50425625)
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Keywords | メカノトランスダクション / 弾性率 / 神経発生 / 脳形成 / 神経幹細胞 |
Research Abstract |
大脳皮質を構成する神経細胞は、胎生期の神経上皮組織で神経前駆細胞が増殖・分化することで産生される。この過程は内因性(遺伝的プログラム)および外因性(細胞外環境の変遷)が密接に関わって制御されているため、両者を区別して解析することが必要である。 本研究では、外因性、特に組織構造の物理的特性が神経前駆細胞の増殖・分化に与える影響を評価するため、胎生期の神経上皮組織を模倣した培養系の確立を目的とする。間葉系幹細胞を組織の弾性率に対応した培養基質上で培養すると、弾性率に応じて細胞の分化の方向性が変化したという報告がある。そこで、物理的特性として弾性率に着目した。弾性率は生体では組織のかたさ・やわらかさを表す指標であり、その変動は細胞外基質を介して機械的刺激の伝達に関与すると考えられている。さらに、弾性率は数値化できるため、培養基質のかたさを制御することで脳組織の弾性環境を再現し得ると期待できる。 上記の目的のため、神経発生初期・中期・後期のマウス胎仔脳の弾性率を、原子間力顕微鏡を用いて測定した。大脳皮質生組織スライスを作製し、生理的条件下で脳の各層の弾性率を測定したところ、その数値に時空間的な変動があることを見出した。その結果は、現在国際的学術誌(査読あり)に投稿中である。 今後は、この結果を培養系に反映させ、弾性率変動に起因する機械的刺激の伝達が神経前駆細胞の増殖・分化を制御する分子メカニズムについて精査していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、外因性、特に組織構造の物理的特性が神経前駆細胞の増殖・分化に与える影響を明らかにすることを目的としている。先行研究により、未分化幹細胞を組織の弾性率に対応した培養基質上で培養すると、弾性率に応じて細胞の分化の方向性が変化したという報告がある。しかしながら、このような弾性率に依存した未分化細胞の運命選択が発生中の組織で行われているか否かについて、知見がない。その理由として、発生期の組織の弾性率が推移するかどうかの検討手段が確立されていなかったことが挙げられる。我々の研究グループでは、発生期脳組織をモデルとして、その弾性率変動の時空間的推移を計測するシステムを開発した。 具体的には、大脳皮質生組織スライスを作製し、生理的条件下で原子間力顕微鏡を用いて神経発生初期・中期・後期のマウス胎仔脳の弾性率について、測定を行った。脳組織は、発生の過程において層構造を構築する。本研究では、組織各層の弾性率を求めるため、原子間力顕微鏡による測定後に抗体染色を行い、計測した各組織を特定した。同時に、各組織由来の細胞について、一細胞レベルでの弾性率を測定した。その結果、細胞レベルでの弾性率変動と、組織弾性率の変動は、必ずしも関連しないことが明らかとなった。このことは、細胞成分以外に、組織の弾性率を決定する因子が存在することを示すものである。本測定系の確立、またその結果について、現在国際的学術誌(査読あり)に投稿中である。以上、本研究は、順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、発生中脳組織の神経前駆細胞の分化状態に応じた細胞運命および形態の定量的経時観察を、脳組織に近い弾性率を持つ新規培養基質上で行い、弾性率の変動が神経系細胞の増殖・分化に与える影響を精査する。 神経前駆細胞が中枢神経系の神経細胞に至る過程で示す細胞運命および形態変化を、脳組織に近い弾性率を持つ新規培養基質上で細胞培養を行うことで経時的に測定していく。神経前駆細胞の分化段階の進行状態については、大脳皮質の神経分化段階に応じて発現する内在性レポーター蛍光蛋白質(神経前駆細胞に順次発現するNeurogenin2、Tbr2、およびNeuroDの各プロモーター下流にGFPを配置)のシグナルを指標とする。また、生細胞が持つ特徴的な形態(細胞突起の本数・分岐および伸長・退縮、細胞体の周囲長・真円性)の単位時間あたりの変化率について、生細胞イメージングシステムを用いたタイムラプス測定を行い、定量的データ解析から神経前駆細胞の分化状態に応じた細胞形態の特徴量を抽出する。さらに培養後に大脳皮質の各種神経細胞のマーカー分子に対する抗体を用いた免疫染色を行い、神経前駆細胞の経時的形態変化量と神経細胞種の相関について検討することで、大脳皮質の神経細胞種の細胞運命決定に弾性率の変動が関連する可能性を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
購入した消耗品が低価格で入ったため、1万円ほどの次年度使用額が生じた。 研究計画に大きな変化はなく、次年度使用額をH26請求額と合わせて、動物実験を行うための実験マウス購入・飼育、レポーターマウスの作成などに使用する。
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