2013 Fiscal Year Research-status Report
聴覚機能解明および聴覚細胞再生モデルとしての新規誘導型障害マウスの開発
Project/Area Number |
24500502
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
松岡 邦枝 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主席研究員 (40291158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉川 欣亮 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, プロジェクトリーダー (20280787)
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Keywords | 内耳外有毛細胞 / 難聴 / ジフテリア毒素 / トランスジェニックマウス / 疾患モデル |
Research Abstract |
内耳には音刺激を電気シグナルに変換するために重要な2種類の有毛細胞(内有毛細胞;IHC、外有毛細胞;OHC)が存在する。このうち音の調節に重大な役割を担っているOHCの詳細な機能および分化機構を解明し、聴覚障害の治療に役立てることを目的として、ジフテリア毒素(DT)を投与することによりOHCを任意の時期に誘導的に破壊することのできるマウス(OHC-TRECKマウス)を開発した。 5週齢のOHC-TRECKマウスDTを投与して、7日後に内耳コルチ器の免疫染色を行った結果、IHCの形態は正常であるが、OHCはその約99%が欠失していた。また、走査型電子顕微鏡による観察の結果、OHCの形態は完全に破壊されており、1%程度残存するOHCの感覚毛も異常な形態を示すことが明らかとなった。聴性脳幹反応(ABR)により4~32 kHzの音域における聴力変化を経時的に測定した結果、DT投与後3日後までは正常聴力を維持するが、4日後には全ての音域で聴力閾値>70 dBの高度難聴を示した。このことはDT投与後72~96時間に急激なOHCの脱落が起こっていることを示している。DT投与OHC-TRECKマウスで、OHCの伸縮運動の指標となる歪成分耳音響放射(DPOAE)がほとんど検出されないことも、この結果を裏付けていた。また、生後1日のマウスにDTを投与し、5週齢時のABR測定を行った結果、完全難聴を示したことから、生後直後の未熟なOHCの破壊も可能であることが明らかになった。さらに、マイクロアレイにより発現遺伝子を網羅的に解析した結果、DT投与OHC-TRECKマウスでOncomodulin遺伝子(Ocm)の発現が激減していることが判明した。免疫染色の結果、OCMタンパク質はOHCに局在しており、OHCの機能に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、樹立した3系統のOHC-TRECKマウスが異なるDT感受性を示し、DTの投与によりそれぞれ高度難聴・中高度難聴・軽度難聴を示すことを確認し、OHCの機能解明の目的には高度難聴を示す系統を選択することとした。当初の研究計画に則し、まず成体マウスを用いてOHCに障害を与えるための至適投与DT量を50 μg/kgと決定し、DTの投与がIHCの形態には影響を及ぼさず、OHCのみを消失させることを内耳組織の免疫染色および走査型電子顕微鏡による解析で証明した。また、ABRおよびDPOAEといった電気生理学的手法による聴力測定で、DT投与後72~96時間にOHCの破壊が起こり、聴力障害がOHCに由来するものであることを明らかにした。さらに、出生直後のOHCも破壊可能であることも確認した。DT投与後・DT非投与のOHC-TRECKマウスおよび野生型マウスの内耳に発現している遺伝子をRNAマイクロアレイにより網羅的に解析した結果、OHCに特異的に発現しているOncomodulin遺伝子を発見するに至った。OHC-TRECKマウスはOHCの機能を特徴付ける遺伝子あるいは生後発達における形態形成に重要な遺伝子を探索するためのツールとして極めて有用であることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度内耳RNAのマイクロアレイ解析でOHC特異的発現遺伝子として同定したOncomodulin遺伝子のノックアウトマウスをCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集により作製し、OncomodulinのOHCにおける役割を解析する。また、OHC-TRECKマウスにDTを投与することにより、出生直後および生後発達後のOHCを破壊するることが可能であることから、生後0日および生後4週のOHC-TRECKマウスおよび野生型マウスにDTを投与し、厳密に蝸牛コルチ器よりRNAを調整してRNAマイクロアレイあるいはRNA-seq(ゲノム支援申請中)により発現遺伝子を網羅的に解析し、OHCの形成初期に重要な遺伝子および形成後の機能維持に重要な役割をもつ遺伝子を網羅的に探索する。昨年度に行った内耳RNAを用いた解析よりも高精度にOHCの機能に重要な遺伝子が同定されることが期待される。同定したOHC特異的発現遺伝子は、RT-PCRによるバリデーション後、in situ ハイブリダイゼーション、ウェスタンブロット、免疫組織染色等によってOHCにおける発現特異性を検証する。発現特異性の認められた遺伝子はCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集によりノックアウトマウスを樹立する。樹立したノックアウトマウスの電気生理学的に聴力測定を行い、さらに、ノックアウトマウスのOHCの形態を走査型および透過型電子顕微鏡によって詳細に観察する。以上のようなKOマウスの表現型解析により、OHC特異的発現遺伝子の機能を明らかにしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、OHC-TRECKマウスの聴力測定・免疫組織学解析・マイクロアレイ解析のために多数のマウス個体が必要であるため、体外受精による繁殖を計画していたが、自然交配で年度内に必要なマウス個体数が得られたため、次年度使用額が生じた。 平成26年度は、OHC-TRECKマウスにDTを投与した場合に発現量の減少する遺伝子をマイクロアレイやRNA-seqで網羅的に探索して、OHCの形成初期やOHCの機能維持に重要な遺伝子を同定し、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を用いてノックアウトマウスを作製し、遺伝子の機能解析を行う。そのために、抗体、酵素、一般試薬、手術器具、ピペット・チップ等プラスチック製品およびマウスの飼育費に使用する。また、学会発表のための学会参加費および旅費、論文投稿のための英文校閲費用・掲載料に使用する。
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