2012 Fiscal Year Research-status Report
微小振動子アレイによる触覚呈示と末梢神経障害の定量的測定手法の開発
Project/Area Number |
24500548
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
澤田 秀之 香川大学, 工学部, 教授 (00308206)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 検査・診断システム / 触覚呈示 / 形状記憶合金 / 微小振動 / 触覚受容器 / 溶接 / 糖尿病 / 非侵襲検査 |
Research Abstract |
糖尿病の主要な症状の一つである指先の触覚感度低下が、発症の初期から発見でき、症状の進行度を定量的に計れることは、早期の診断や的確な治療に大きく貢献できる。本研究では、糸状に加工した形状記憶合金(SMAワイヤ)の微小振動子をアクチュエータとして用いた触覚デバイスを構築し、微小振動刺激に対する触覚受容器の働きや機能を調べる。更に、糖尿病患者らの症状の一つである指先感覚の喪失の程度を数値化する、指先触覚感度測定手法を開発する。 研究初年度は、SMAワイヤを用いた高出力触覚呈示デバイスの構築と、触覚刺激に対する4つの触覚受容器(FAI, FAII,SAI, SAII)の高次知覚機能の理解に関する研究をおこなった。これまでに申請者らは、SMAアクチュエータに同一の触覚刺激特性を持たせながら、8×8=64素子を面上にアレイ状に配置した触覚呈示デバイスを構築してきた。しかし、高齢者や、触覚感覚の低下した糖尿病患者には、十分に触覚が知覚できないという問題も明らかになった。より多様な触覚感覚の呈示を可能とするために、高出力触覚デバイスとして、高ストロークを実現する構造を開発した。これにより、SMAのミクロンオーダの伸縮を、梃子の原理を応用して触覚刺激子に伝えることによって、上下動に換えて増幅することが可能となった。ここで、回路配線にはSMAワイヤと同程度の径を持つマイクロワイヤを用いるが、アクチュエータが最大200Hzの振動を起こすため、一般的な半田付けによる方法では、接合界面が動作に追従できず剥離してしまうという問題がおこった。そこで、アクチュエータの振動動作を維持しながら、接合部のサイズを線径と同程度に抑えるため、レーザ溶接による両線の接合方法を開発した。これにより、50μm径のワイヤ同士を高精度に重ね合わせ、ビーム熱量とその照射位置を高度に制御してレーザ溶接を行うことが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度の計画は、形状記憶合金(SMA)ワイヤを用いた高出力触覚デバイスの構築と、触覚刺激に対する4つの触覚受容器の高次知覚機能の理解に関する研究の遂行であり、下記の通り、順調に進めることができた。 SMAワイヤを用いた高ストローク触覚デバイスの構築については、梃子の原理を応用して、ミクロンオーダの微小振動を縦方向に10倍程度、ストロークを増幅する構造を新たに開発した。更に、8×8=64素子を面上にアレイ状に配置した触覚呈示デバイスを構築した。各アクチュエータを同期して、あるいは個別に時間差を付けて振動させることで、指先に圧力や移動感覚など様々な触覚をできることを確認した。ここで、振動子から変位増幅された圧力が呈示されることになるため、半田によるSMAワイヤと電子基板との接合が、強度不足となることが解った。そこで、レーザ溶接による接合方法を開発した。これにより、50μm径のワイヤ同士を高精度に重ね合わせ、ビーム熱量とその照射位置を高度に制御してレーザ溶接を行うことが可能となった。 また、振動刺激パターンに対する触覚受容器の高次機能の科学的理解については、これまでに構築してきた触覚デバイスと、上述の高出力触覚デバイスとの併用によって、より広範囲の振動変位ならびに振動圧力の呈示が可能となる、より詳細な調査が可能となった。本年度は、次年度以降の研究の準備として、特にデバイスの振動特性について調べた。高速度カメラと変位計などの各種計測器を用いて、本デバイスによって呈示できる物理刺激について測定をおこない、次年度から触覚受容器の高次機能の科学的理解にむけた研究を開始する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、皮膚のミクロンオーダの部位に、300Hzまでの微小振動刺激を与えることにより、多様な触覚感覚の呈示が可能であることを示すことができた。平成25年度からは、前年度に構築した二つの触覚デバイスを用いて、人の皮膚下に分布する4つの触覚受容器を選択的に刺激し、知覚される感覚を生理学的、認知学的視点から計測し、考察をおこなう。更に、これらの成果を基に、末梢神経障害に起因した指先感覚の喪失の程度を数値化する、指先触覚感度測定手法の構築をおこなう。 まず、触覚呈示デバイスをドライバ・アンプを介してPCと接続することにより、触覚測定システムの制御をおこなう手法を確立する。触覚刺激は、SMAワイヤの振動強度、周波数、振動立ち上がり速度、各素子の駆動タイミング、駆動時間などのパラメータによって制御されるため、これらをPCから精密に制御するための通信プロトコルの策定ならびに、ユーザインタフェースの開発をおこなう。単純振動、複数の周波数の組合せ振動などの物理的刺激をデバイスから呈示して、様々な触覚感覚やファントムセンセーション、仮現運動などの高次知覚を生起させ、同時に被験者のEEG, MRIなどを計測して生理的反応を記録する。また被験者からは、知覚された触覚感覚を聴取する。振動パターンの物理的特性、被験者から得られる生理的反応データ、知覚される触覚との間の関連を定量的に解析して科学的意味づけをおこない、高次触覚機能の定量的理解につなげていく。 指先触覚感度測定装置は、症状に応じた刺激パターンを手指に与え、これを患者に答えさせることにより感度測定をおこなう手法を実装する。また、若年から高齢に渡る多様な年齢層の健常者ならびに、様々な診断レベル、症状、治療歴、既往歴を持つ糖尿病患者に対して実証実験をおこない、システムの有効性を確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は主に、触覚呈示デバイスの構築ならびに、触覚測定システムの制御手法の確立に関する研究をおこなう。特に、様々な触覚感覚の呈示のために、デバイスの制御パラメータを様々に変化させながら実験をおこない、デバイスや回路の試作・検討を重ねる必要がある。そのため、触覚ディスプレイ制御用CPU回路基板の作製費、触覚ディスプレイ作製費、実験のための治具製作費、と研究補助費を計上する。また、研究成果の発表のため、国際学会ならびに国内学会への参加費、論文投稿費を計上している。
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Research Products
(14 results)