2012 Fiscal Year Research-status Report
神経障害性疼痛による大腰筋の左右差の形成に対する姿勢保持神経機構の関与
Project/Area Number |
24500604
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
上 勝也 和歌山県立医科大学, 医学部, 学内助教 (20204612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仙波 恵美子 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (00135691)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 神経障害性疼痛 / ヒラメ筋 / 大腰筋 / ミクログリア / マクロファージサブタイプ |
Research Abstract |
本研究の目的は, 「慢性痛に対する骨格筋の適応反応とその反応を生み出す神経機構を明らかにする」ことである. そこでまず私達は, 坐骨神経部分損傷(PSL)に伴うマウスの行動的変化を捉えることを目的として, 「①Von Freyテスト, ②Rota-Rodテスト, ③Spontaneous weight distributionの測定」を実施し, PSLはマウスに「①アロディニアの長期発現, ②運動機能の低下, ③非損傷側下肢への体重移動」を起こすことを観察した. このような疼痛・運動機能・姿勢の変化は損傷側ヒラメ筋の筋線維横断面積を著しく減少させるとともに, 萎縮筋の筋線維間隙にはとくに多くのM2マクロファージの侵入を認めた. これらの結果は, PSLに伴う筋萎縮には, M1ではなくM2マクロファージが産生・放出する因子が重要であることを示唆した. 一方, PSLに伴い脊髄後角において増加したミクログリアのサブタイプ(M1, M2)を検討したところ, 炎症性サイトカインやNOを産生するM1ミクログリアは, おもに後角表層や前角の運動ニューロン周辺に局在し, 抗炎症性サイトカインやアルギナーゼ1を産生するM2/M2-likeミクログリアはおもに後角の白質領域および後角深層に散在性に局在, さらにEGFP陽性骨髄由来ミクログリアはM2/M2-likeあるいはintermediate型にあることを認めた. このように24年度のおもな研究成果は, PSLに対する損傷側ヒラメ筋の適応反応の一つとしてM2マクロファージの重要性が示されたことに加えて, 疼痛の発症・維持にかかわる神経機構としては, 脊髄後角でのとくにM1ミクログリアの増加と活性化が重要であるという, これまでにない独創的な成果を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究目的および計画では, 「神経障害性疼痛に対する大腰筋の適応反応を検討する」としている. そこでまず私達は, マウスの筋組織を用いる実験条件(摘出方法・免疫組織染色の条件・使用抗体の選択・イメージ分析など)を確立することを目的として, マウス骨格筋のなかで被検筋として最もよく使われ, さらに筋横断面積(CSA), 筋線維組成および筋肥大や萎縮に伴う分子の変化に関する研究データが多く報告されているヒラメ筋を対象に実験を行なった(大腰筋もヒラメ筋と同時に摘出し, 凍結保存している). おもな研究成果は次のとおりである.坐骨神経部分損傷は, 「1)損傷側ヒラメ筋のCSAを減少させ, 2)両側ヒラメ筋の筋線維組成には著しい差異はなく, 3)損傷側ヒラメ筋にはM1と比較してM2マクロファージの顕著な増加が起こる」ことである. 25年度は同じ実験条件により大腰筋におけるCSA, 筋線維組成およびマクロファージ・サブタイプの特徴などを明らかにする. このように当初の研究目的・計画には含めていないヒラメ筋の分析を実施することによりマウス骨格筋を対象とした実験条件を確立できたことに加えて, 神経障害性疼痛に対する大腰筋の適応反応をヒラメ筋のものと比較することで, より客観的にそれらを特徴づけることが可能となる. さらに24年度は中枢神経系を対象とした実験条件の確立を目的として, 脊髄組織の固定条件、免疫組織染色の条件、使用抗体の選択、イメージ分析などについても検討し, 本実験条件により得られた結果は学会や学術誌での発表に十分に使用できるものであることを確認した. 従って, 24年度に実施した取り組みは今後脳組織を含めた神経系の形態分析を遂行するために有意義なものであった.
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように本研究課題(平成24年度分)に取り組むことで得られた成果, すなわち坐骨神経部分損傷(PSL)に伴う「①マウスの行動変化、②ヒラメ筋の適応反応、③脊髄ミクログリアの応答」を踏まえ, 本研究課題の今後の推進方策として次の事項を予定している. 1)神経障害性疼痛に対する大腰筋の適応反応をヒラメ筋のものと比較しながら特徴づけるとともに, 2)この適応反応を引き出す神経機構については,脊髄ミクログリアで特異的に活性化されるシグナリング分子、とくにCREBのリン酸化に着目してPSLに対する応答を捉え, さらに3)PSL後早期のミクログリアにおけるヒストンH3タンパクのリジンのアセチル化・リン酸化・メチル化修飾等, PSLに対する脊髄ミクログリアのエピジェネティクス制御についても取り組む. 4)大脳レベルでは, 扁桃体ニューロンの活性化および視床下部外側野におけるオレキシンの産生と青斑核におけるその量的変化について検討する. 本研究課題により得られた成果は, 本研究目的にも記載したように「左右アンバランスな筋機能の改善を目的としたトレーニング・プログラムを構築するための分子基盤を提供する」ことに貢献することである. 従って, 5)PSLを施したマウスに走運動を負荷し、走運動が左右アンバランスな筋形態・機能の改善を促すかどうか, またPSLに伴い脊髄ミクログリアで生じた種々の変化が走運動によって抑制あるいは促進されるかどうかについても取り組むことを予定している.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の使用計画としては, おもに実験動物(マウス)やマウスの筋や神経系に使用可能な各種抗体および関連試薬等の購入費として使用する予定である. また研究成果の発表には「日本神経科学会」「日本解剖学会」「日本疼痛学会」「日本理学療法学会」を予定しており, それらの学会参加費・交通費・宿泊費としての使用も予定している. なお平成25年度以降に高額な備品を購入するために本研究費を使用する予定はない.
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