2012 Fiscal Year Research-status Report
日本の農山漁村における持続可能な生活経営と女性農業者の情報アクセスに関する研究
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24500906
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
粕谷 美砂子 昭和女子大学, 生活機構研究科, 准教授 (80369446)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 女性農業者 / 生活経営 / ジェンダー / 情報アクセス |
Research Abstract |
平成24年度は、第1に、2012年6月に、2011年3月の東日本大震災で被災した岩手県沿岸南部地域(岩手県陸前高田市、上閉伊郡大槌町)において現地調査を行った。震災後、元普及職員を中心とした女性起業復興支援開始の経緯、協力機関との連携と展開、女性起業グループ活動再開の経緯・再建プロセスについて聞き取り調査を実施した。本調査の意義は、復興支援を立ち上げた元普及関係者によるこれまでの生活改善経験の有用性の実証につながることである。本調査から、普及関係者による復興支援活動の特徴として、「体系的・継続的支援の視点」、「寄り添い支援」、「ネットワークによる情報収集と信頼関係の活用」、「事務能力の高さ」、「生活分野の技術指導」があげられた。これら特徴が、普及員の職務としての生活改善経験の中で構築されており、復興支援活動において重要であることが明らかとなった。 第2に、7月には、オーストラリア・メルボルンで開催された国際家政学会(IFHE: International Federation for Home Economics)に参加し、本研究の一部をポスターセッションで報告した。11月には、日本農村生活学会において「普及員経験を活用した東日本大震災後の女性起業復興支援―岩手県と事例として―」と題して、口頭報告(共同)を行った。 第3に、千葉県H地域農業事務所に、調査項目の設計、調査方法、分析等について調査協力をし、9月下旬~12月上旬に「千葉県H地域における女性農業者の社会参画に対する意識の実態調査」(アンケート調査)を実施した。配布数は女性農業者226名、男性農業者130名、回収数は女性農業者137名(回収率:59.3%)、男性農業者50名(38.5%)であった。設問項目に「農業経営の情報入手先」を入れ、女性農業者と男性農業者の違いを調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、日本の農山漁村における持続可能な生活経営と、そのために必要な情報アクセスについて、ジェンダー視点から調査・分析・検討を行う。平成24年度は、現地聞き取り調査、アンケート調査の実施、学会においてポスターセッション報告(国外、単独)、口頭報告(国内、共同)を行った。以上の点は、計画に沿って順調に進めることができた。 ただし、平成25年度に残された課題は2点ある。一つは、本調査結果をもとに、元普及員及び女性起業グループが必要とした情報内容、情報収集方法・手段について分析し、どのように復興支援に活かしたのか、被災地における持続可能な生活経営に必要な要素は何か、また、情報アクセスとの関連性を考察することである。 二つには、平成24年度は、本研究の進展に必要なデータ収集としての聞き取り調査、アンケート調査の実施が主体となったため、農業ジェンダー統計研究に関しては、当初の計画どおりには進展できなかった点である。本研究の関連政府統計を用いた、農山漁村における女性と男性の状況の把握・分析、整理、深化は平成25年度に残された。 以上の状況から、交付申請書に照らして、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
国内外の農業政策に関連した厳しい情勢の中で、女性農業者の生活経営に必要な情報とは何か、情報収集の手段、プロセス等、女性農業者の情報アクセスの現状把握は、男女共同参画社会における女性農業者の地位向上を考えるうえで重要である。また、情報へのアクセスの違いは、女性農業者の主体性の確立や女性農業者の社会参画、家族や地域におけるジェンダー課題と関わっている。この問題意識について検討し、農山漁村における持続可能な生活経営と女性農業者の情報アクセス(情報入手と発信)について考察する。 具体的には、第1に、平成24年度に実施した聞き取り調査及びアンケート調査の分析を進め、学会報告をし、投稿論文を執筆する。第2に、平成24年度の進捗に遅れのあった農業ジェンダー統計に関する研究を進展させる。本研究の関連政府統計(農業センサス、農業経営統計調査、国勢調査、労働力調査、就業構造基本調査、社会生活基本調査、家計調査、全国消費実態調査等)をジェンダー統計視点から利用・分析し、農山漁村における女性と男性の状況を把握する。第3に、平成24年度にアンケート調査を実施した千葉県H地域において、より具体的な実態を把握するため、事例聞き取り調査及び生活時間調査を実施する予定である。女性農業者がより自由に活躍できる働き方の実現を希望して起業し、ネットワークを形成している事例、あるいは農村における直売所等の女性起業の事例等を収集する。その事例をもとに、多様な働き方を選択している女性農業者の、情報収集、エンパワーメントの仕方、キャリア形成、「ペイド・アンペイドワークとその他の人間活動のバランス」の保ち方等について明らかにする。第4に、国内だけでなく、国際的な女性農業者の生活経営の動向及び持続可能性を、先行研究及び現地調査(本年度はロシア:ウラジオストクを計画中)により把握し、ジェンダー視点から分析・考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度アンケート調査を実施した千葉県H地域において、より具体的に実態を把握するため、事例聞き取り調査及び生活時間調査を実施する予定である。調査協力者への謝金が必要となる。 本研究に関連して、国内だけでなく、海外の農業政策、女性農業者の地位向上に関わる政策内容と現状を把握し、日本の課題との比較検討を行うため、本年度はロシアのウラジオストクの家族農業経営農家を訪問し、家族及び女性農業者への聞き取り調査を計画中である。そのための外国旅費、調査協力者のインタビュー回答への謝金、移動交通費等の支出が必要となる。 上記調査の分析、検討、学会報告準備、投稿論文執筆のための物品費としてパーソナルーコンピューターを購入予定である。この他、研究成果の発表のための学会参加費、論文投稿料等として使用する計画である。
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Research Products
(2 results)