2012 Fiscal Year Research-status Report
緑藻アオミドロの接合を誘発する要因の探索-教材化と分類の見直しを目指して―
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24501114
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
野崎 健太郎 椙山女学園大学, 教育学部, 准教授 (90350967)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アオミドロ / 理科教材 / 有性生殖 / 分類 / 分布 / DNA塩基配列 / 地理的変異 |
Research Abstract |
1. アオミドロ(Spirogyra属)の採集:在勤地の愛知県を中心に45ヶ所で採集を行った。44ヶ所の内、滋賀県の琵琶湖(3ヶ所)、香川県高松市(1ヶ所)、高知県高知市(5ヶ所)を含んでいる。アオミドロの分布と水環境との関係をまとめてみると、おおよそ、水温は10℃以上(この水温であれば冬季でも繁茂している)、電気伝導度は8~10mS/m以上、溶存態窒素0.5 mg/L以上の水域に生息するようであった。淡水域の藻類の成長を律速することが多いリン酸態リンは、測定限界である0.03 mg/L以下である琵琶湖北湖でも採集されたことから分布を決定する要因にはなり得なかった。pHについても、特に有意な関係は見られなかった。 2. アオミドロの接合調査:2012年3月12日に福井県敦賀市中池見湿地で採集されたアオミドロは、採集地の水質に比べて溶存態窒素濃度、電気伝導度が低い名古屋市の水道水中で培養したところ、採集から1週間後から接合を開始し、ほぼ1ヶ月で完熟した接合胞子を得ることに成功した。この間の形態変化は鮮明な顕微鏡写真で記録し、原記載との比較検討からSpirogyra variformsであると同定することができた。アオミドロの種類ごとの生息地の環境特性や接合形態の時間的推移は、これまでに詳細な記録が無く、この結果を論文として投稿、受理された(Nozaki, 2013)。 3. アオミドロ培養系の確立:2012年にアオミドロの接合を人為的に誘発する(確率40%)研究が出版され、その検討も含めて仕切り直しとなった。 4. アオミドロのDNA塩基配列を用いた地理的変異の解析:16ヶ所から採集した試料を用いて予備的な解析を行った。興味深い結果として、琵琶湖北湖の試料では、全く同じ形態ながら北部と南部では遺伝的差異が見られた。湖内で地理的変異が生じている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、2012年度に計画していたアオミドロ培養系の確立は達成できなかったが、他の項目は、ほぼ達成できたと評価している。特に、予備的に実施したアオミドロのDNA塩基配列の解析結果からは、琵琶湖北湖という狭い空間においても地理的隔離、そして遺伝的変異が生じている可能性が示唆され、アオミドロという一般的にはコスモポリタンとされる緑藻類が実は遺伝的に多様であるという分類学的に興味深い結果が得られた。アオミドロの分類は、接合の形態と接合胞子の形状から分類されてきたが、遺伝情報との対応が必要となることがわかった。 また、2012年3月に福井県敦賀市の中池見湿地で得られた試料からは、接合の一連の形態変化を時系列的に写真に記録することに成功し、これを大学の教職課程の「理科」の授業で教材として利用することができた。アオミドロの教材化研究の発端が実現できたことも自己評価している。この結果は英文のショートノートとして受理されている(Nozaki, 2013)。なお、DNA塩基配列の結果からは、わずか2.5ヘクタールの中池見湿地においても、3~5種類のアオミドロが生息している可能性が示唆されている。 本研究の基礎的背景となる淡水性藻類の分類、生活史、生理、生態に関する知見は、2013年1月に講談社より発刊された「河川生態学(中村太士,編著;川那部浩哉・水野信彦,監修)の3-1「付着藻類」として印刷公表することができた。この書籍は、日本で唯一の日本人の手による河川生態学の教科書として価値が高いと評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 日本全国からの試料の確保:2012年度は愛知県を中心にして滋賀県、高知県、香川県で採集を行い、形態的には、距離が遠くても類似する試料が数多く見られた。一方、DNA塩基配列の解析からは形態が類似していても遺伝的には差異がみられることが明らかになった。そこで更に広範囲から試料を得る必要があると考えた。今年度は、北海道、東北、関東、中国、九州地域から試料を得ることを目指す。同時に水質を中心にした生息環境の調査を行い、アオミドロの分布を決定する環境要因の推定を進める。 2. 形態とDNA塩基配列との対比:試料の形態を、葉緑体の本数、細胞の径と長さを基準として統計的に扱えるように数値化する。合わせて顕微鏡写真の記録を進めて、それらの形態情報とDNA塩基配列の結果とを比較する。 3. 琵琶湖北湖と中池見湿地におけるDNA塩基配列の集中調査:昨年度までの調査によって、これら2ヶ所はアオミドロの調査において興味深い場所であることが明らかになった。琵琶湖北湖は沿岸帯全域で形態が類似したアオミドロが生息しているが、DNA塩基配列に差異がある複数の個体群が存在している。一方、中池見湿地は狭い面積に形態の異なった5種類と思われるアオミドロが生息している。これら2ヶ所で集中的な調査を行うことで形態とDNA塩基配列との関係が明らかになると考えられる。 4. 培養系の確立:琵琶湖北湖、中池見湿地、愛知県名古屋市の椙山女学園大学附属小学校ビオトープからアオミドロを採取し、分類、教材研究の基礎となる培養株を恒常的に得られる環境を整備する。 5. アオミドロの有性生殖の過程を用いた生物教材の作成:Nozaki(2013)で発表した接合初期から接合胞子の完熟まで収めたカラー写真を用いて、生殖の学びに用いる教材の作成を行う。同時に教科書の調査を再度行い、アオミドロ教材の優れている点を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、2012年度中に、アオミドロ培養系の確立を目指していたが、2012年度に兵庫県立大学の新免教授のグループによる画期的な成果が発表されたため、計画を練り直すことにした。そのため、ガラス器具、薬品の購入が当初の見込みを下回った。よって、この残金は次年度の培養系確立のための研究費として用いる。
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