2012 Fiscal Year Research-status Report
インド・アジャンター石窟壁画消失メカニズムの解明に向けた微生物生態学的調査
Project/Area Number |
24501261
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
Principal Investigator |
佐藤 嘉則 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 研究員 (50466645)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島津 美子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 特別研究員 (10523756)
木川 りか 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 室長 (40261119)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 保存科学 / 微生物劣化 |
Research Abstract |
インド共和国マハーラーシュトラ州北部に位置する仏教石窟寺院の一つであるアジャンター石窟寺院は、紀元前2世紀から後6世紀の間に描かれた壮麗な壁画群を有し、歴史学、美術史学などをはじめ多分野において世界的な注目を集めている。しかし、これらの壁画群は、経年による物理化学的な要因、モンスーンなどによる気候要因、過去の修復作業による人的要因、生物的要因など多くの要因が複合的に重なり損傷を受けている。そのなかでも、石窟内部で広く確認され、コウモリの排泄物に起因するとされている黒色物質は、壁画上に粘着して、壁画が描かれている土壁そのものを溶解して消失させるという深刻な被害をもたらすことで大きな問題となっている。本研究は、アジャンター石窟壁画を消失させている黒色付着物質に対して、微生物群集構造を解明して、構成する菌群の代謝様式や生理学的性質から壁画消失のメカニズムを明らかにすることを目的としている。 平成24年度は、現地調査および試料採集を行った。現地調査から、黒色物質の分布はかつてコウモリが生息していたとされる位置と一致していることが観察された。また、壁画層下地の土壁では、現在でも植物材料が分解されずに存在しているが、劣化が進行している黒色物質の付近では周囲より植物材料の分解が進行していることが観察された。採取した黒色物質は光学顕微鏡観察によって微生物バイオフィルムであることが明らかとなり、土壁の分解は微生物に起因した生物劣化であることが示唆された。黒色物質の詳細な微生物群集構造を明らかにするため、培養法および非培養法による解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度研究計画では、黒色バイオフィルムを採取して、①非培養法を用いた黒色付着物質の微生物群集構造解析、②生物物理化学的性質の解析、を行うこととした。アジャンター石窟寺院の現地調査を遂行し、壁画の土壁の劣化因子と考えられる黒色物質の状態観察と試料採取を行うことができた。非培養法では当初予定していたクローン解析よりもさらに情報量の多い次世代シーケンス解析を実施することができた。以上、おおむね当初計画の通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、再度黒色バイオフィルムを採取して、壁画消失に関わると想定される3つの微生物群(硝化細菌、硫黄細菌、有機酸生成糸状菌および細菌)に焦点をあて、培養法を用いて黒色バイオフィルムからの微生物分離とその生理生態学的解析を行う。硝化細菌、硫黄細菌、有機酸生成糸状菌および細菌については、定量的な評価も行う。さらにバイオフィルム総体の硝化活性、硫黄酸化活性についても検討を行う。また、初年度で得られた実験結果から乳酸菌が分布していることが示されたため、これらの菌群を対象とした解析を進める予定である。得られた各種細菌・糸状菌で、分類学的に新規性の高い菌株に関しては、必要性に応じて分類学的研究を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(2 results)