2013 Fiscal Year Research-status Report
インド・アジャンター石窟壁画消失メカニズムの解明に向けた微生物生態学的調査
Project/Area Number |
24501261
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
Principal Investigator |
佐藤 嘉則 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 研究員 (50466645)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島津 美子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (10523756)
木川 りか 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 室長 (40261119)
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Keywords | 微生物劣化 / 壁画 / 保存 |
Research Abstract |
インド共和国のアジャンター石窟寺院は、壮麗な壁画群を有し世界的な注目を集めている。これらの壁画群は、経年による物理化学的な要因などいくつかの要因が複合的に重なり損傷を受けている。なかでも、石窟内部で広く確認され、コウモリの排泄物に起因するとされている黒色物質は、壁画上に粘着して、壁画が描かれている土壁そのものを損傷させることで問題となっている。本研究は、この黒色付着物質に対して、微生物群集構造を解明して、構成する菌群の代謝様式や生理学的性質から壁画消失のメカニズムを明らかにすることを目的としている。 本年度は、微生物の培養を経ないで黒色物質に含まれる微生物群集を解析する非培養法を実施した。冷凍保存した各試料から核酸(DNA)を抽出し、細菌および菌類(カビや酵母)を標的とした遺伝子増幅(PCR)を行い、産物をパイロシーケンス解析に供した。解析の結果、劣化が進行している部位や進行していない部位から採られた試料でも、細菌種として、Lactobacillus属菌、Enhydrobacter属菌、Bacillus属菌などが共通して認められた。菌類も同様に、劣化が進行している部位や進行していない部位から採られた試料でもLecanicillium属菌が優占することが多かった。劣化の進行度合いに関わらず、類似する微生物が土壁上に分布していることが示唆された。特に、Lactobacillus属菌は乳酸を生成する細菌群として知られ、酸による土壁の劣化も予想される。しかし、土壁上に乳酸菌が分布するという生態学的な妥当性についてはさらに検討する必要が有り、培養法も含めた方法で検証する予定である。土壁には植物残渣が含まれているためセルロース分解を行う微生物についても検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画にある黒色粘性物質等の劣化した試料について非培養法を用いた微生物群集構造解析を順調に進めることができた。また、試料の理化学性や微生物活性についても解析を進めることができ、土壁の消失に関わる可能性が高い微生物種の推定をさらに進めることができた。以上、おおむね当初計画の通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
非培養法を用いた微生物群集構造解析の結果、計画の段階で推定していた壁画消失に関わると想定される3つの微生物群(硝化細菌、硫黄細菌、有機酸生成糸状菌および細菌)のうち硝化細菌や硫黄細菌の分布はほとんど認められず、乳酸菌のような有機酸を生成する微生物群が検出されている。また、劣化の進んだ試料は、劣化を受けていない試料に比べ、土壁に含まれる植物残差量が少ないことが目視観察によって明らかとなったため、セルロース分解に関わる微生物群についても検討を進める予定である。
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Research Products
(1 results)