2012 Fiscal Year Research-status Report
赤外線撮影法による彩色材料調査の有効性に関する研究
Project/Area Number |
24501265
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館 |
Principal Investigator |
秋山 純子 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部博物館科学課, アソシエイトフェロー (10532484)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
畑 靖紀 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部企画課, 主任研究員 (80302066)
森實 久美子 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部企画課, 研究員 (70567031)
鷲頭 桂 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部企画課, 研究員 (90590448)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 赤外線 / 絵画調査 / 彩色材料 |
Research Abstract |
絵画の彩色材料分析には、非破壊でもっと簡便な「面」の広がりを持った総合的な判断要素となる科学分析が必要である。本研究では、赤外線撮影法により彩色材料を非破壊で面的に判断することを目的とする。 平成24年度の実施計画に基づき、まずは九州国立博物館の絵画担当の学芸員3名と連携して、どのような彩色材料が使われている可能性があるのか話し合いながら、標準試料となる顔料を選定した。選定の元になった絵画は九州国立博物館所蔵の「唐船・南蛮船図屏風」である。江戸時代までに一般に入手可能であった顔料をピックアップした。選定した顔料は岱赭、弁柄、鎌倉朱赤口、丹、藤黄、日本黄土、白土、胡粉、鉛白、辰砂14、10、白緑、緑青12、8、白群、群青12、8の14種類である。また、修復の専門家による彩色材料についての意見を基に赤外線調査の基本となるカラーチャートを作製した。 赤外線撮影法で見分けられる彩色材料を特定するためには、彩色材料の基本的な情報を事前に確認する必要がある。そこで今年度は実体顕微鏡、デジタルマイクロスコープなどで形状を観察・記録した。また蛍光X線分析装置で成分を把握し、X線回折分析装置で構造を解析して、購入した彩色材料の基礎データを収集した。 九州国立博物館にある赤外分光分析装置(FT-IR)では2.5~25μm(4000~400cm-1)の中赤外領域の分光反射スペクトルを測定できるが、デジタルカメラで利用する近赤外領域(800nm~1.2μm)の分光反射スペクトルは測定できない。そこで近赤外領域の分析ができる簡易型の分光スペクトル装置を使って、それぞれの試料のスペクトルを得た。 赤外線画像の調査では、基本となる「超高精細大型平面入力スキャナ」を使ってカラーチャートおよび収蔵作品をスキャナで撮影し、来年度以降の赤外線による調査の基礎となる画像を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は非破壊で簡便な面的調査に赤外線画像を活用する試みである。絵画の彩色材料分析には、非破壊でもっと簡便な「面」の広がりを持った総合的な判断要素となる科学分析が必要である。そのために本研究では、①赤外線撮影法で見分けられる絵具を特定し、彩色材料の面的調査方法としての有効性を明らかにする。②絵画で一般的に使用される絵具に関して同系色のグループごとにデジタルカメラによって赤外線画像を撮影し、見分けられる有効な赤外線フィルターの組み合わせを確定する。③赤外線撮影法を用いた簡便で確実な彩色材料調査の有用条件を明らかにするとともに、確実な彩色材料調査を行う拠りどころとなる画像データをまとめる。以上、3点について研究を進め、赤外線画像による面的調査の有効性を明らかにすることが目的である。 その中で、今年度は赤外線撮影に有用な彩色材料の基本的な情報を得ることが目的である。赤外線撮影で有用となる彩色材料を明らかにするため、基本となる彩色材料を検討した。 今年度は3年間の研究のうちの1年目となるが、赤外線画像を検討していく上で、基準となるデータを収集することができた。この土台部分がきちんと定まったことで2年目における実際の絵画の調査へと進めていくことができる。また、九州国立博物館が所有する高精細スキャナを使って、九州国立博物館所蔵の絵画の赤外線画像を撮影することができた。高精細スキャナは一定の光と間隔で画像をスキャンすることができるため、ムラのない一枚の赤外線画像を得ることができる。この画像を解析し、標準試料となるカラーチャートの画像と比較することで、2年目以降、様々な絵画調査を進めていく足がかりを得ることができた。このことから、本研究における1年目の研究は2年目の研究を見据え、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降は国内外の実際の絵画を調査する。九州国立博物館の所蔵作品・修復作品の「超高精細大型平面入力スキャナ」を使用して、標準となる赤外線画像を撮影し、解析する。デジタルカメラでも同様の絵画を撮影し、デジタルカメラの可能性を探る。 平成24年度に調べた彩色材料の分析結果をもとに赤外線撮影に寄与するための分析データ、画像データ解析を行う。特に近赤外分光分析装置による測定結果を元に赤外領域の反射、吸収スペクトルをまとめ、フィルターを使用する際の有効なデータを蓄積する。 デジタルカメラによって赤外線画像を撮影し、見分けられる有効な赤外線フィルターの組み合わせを検討する。様々なフィルターで撮影した画像データを、標準データベースとして蓄積する。彩色材料を見分けるために有効な赤外線領域のバンドフィルター(IR76~IR96、R64、R1、52S~77Sなど)、バンドパスフィルター(BPB、BPN、BPM42~60など)の組み合わせを変えて、デジタルカメラで撮影する。 赤外線撮影法を用いた簡便で確実な彩色材料調査の有用条件を明らかにするとともに、確実な彩色材料調査を行う拠りどころとなる画像データをまとめる。 以上のデータを蓄積して、赤外線撮影に有用なデータベースを構築するとともに、実際の絵画を撮影し、赤外線画像の有用性を検討する。本研究においては最も適応しやすい日本絵画の彩色材料、特に顔料についてその識別の有効性を検討する。調査対象とする絵画は西洋の合成顔料が使われる前の時代のものに限定し、平安から江戸時代の範囲とする。今年度は国内の絵画にとどまらず、海外にある日本絵画も調査対象とし、赤外線画像データを収集し、より多くの絵画で赤外線画像の面的調査の有効性を検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は国内外の実際の絵画を調査することに主眼を置く。絵画を計画的に調査するため、絵画史を専門としている研究員と連携し、海外にある日本絵画の作品の調査を行う。特にアメリカ、ヨーロッパの美術館に所蔵されている日本絵画の調査を予定しており、研究分担者含め、4名分の絵画調査の旅費が必要となる。また国内における絵画調査、彩色材料等に関する研究会への出席、学会発表などのため、国内旅費が必要となる。 九州国立博物館の所蔵作品・修復作品の「超高精細大型平面入力スキャナ」を使用して、標準となる赤外線画像を撮影し、解析する。またデジタルカメラでも同様の絵画を撮影し、デジタルカメラの可能性を探る予定である。したがって、両者の撮影で必要な消耗品等の購入を予定している。 デジタルカメラによって赤外線画像を撮影し、見分けられる有効な赤外線フィルターの組み合わせを検討するにあたり、様々なフィルターで撮影した画像データを標準データベースとして蓄積する予定である。したがって、彩色材料を見分けるために有効な赤外線領域のバンドフィルター(IR76~IR96、R64、R1、52S~77Sなど)、バンドパスフィルター(BPB、BPN、BPM42~60など)の購入が必要となる。
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Research Products
(1 results)