2013 Fiscal Year Research-status Report
赤外線撮影法による彩色材料調査の有効性に関する研究
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24501265
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Research Institution | Kyushu National Museum |
Principal Investigator |
秋山 純子 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部・博物館科学課, 研究員 (10532484)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
畑 靖紀 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部・文化財課, 主任研究員 (80302066)
森實 久美子 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部・企画課, 研究員 (70567031)
鷲頭 桂 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部・企画課, 研究員 (90590448)
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Keywords | 赤外線 / 彩色材料 / 面的調査 |
Research Abstract |
絵画の彩色材料調査には、非破壊でもっと簡便な「面」の広がりを持った総合的な判断要素となる科学分析が必要である。本研究では、赤外線撮影法により彩色材料を非破壊で面的に判断することを目的とする。 平成25年度は平成24年度の成果を踏まえさらに次の段階へと進めることができた。昨年度九州国立博物館の絵画担当の学芸員3名および修復の専門家による彩色材料についての意見をもとに作成した赤外線調査の基本となるカラーチャートを使用して今年度は実際の絵画の調査を進めた。 昨年度は赤外線画像を超高精細大型平面入力スキャナで撮影し基本となる画像を得たが、今年度はさらに簡便に撮影できるデジタルカメラを使用して絵画材料の面的調査に赤外線が有効であるかを検討した。使用したデジタルカメラはPENTAX製中判デジタル一眼レフカメラ654Dである。カメラ本体は赤外線カットフィルターが取り付けられていない赤外線撮影用のカメラなので、リコー製IRカットフィルター67mmを取り付けて通常の撮影を行った。今回の赤外線撮影では扱い易いガラスフィルターのKenko製赤外線撮影専用PRO1 Digital R72を使用した。 今年度の実際の作品調査では、アメリカメトロポリタン美術館所蔵の絵画を撮影することができた。昨年作成したカラーチャートを同時に写し込み、それを基準として赤外線画像の検討を試みた。また九州国立博物館所蔵の同時代、同題材の絵画も同じ様に調査し、両者において共通点を見出すことができた。九州国立博物館所蔵の絵画はポータブルの蛍光X線分析を行っており、そこからメトロポリタン美術館所蔵の絵画に関してもおおよその推測が可能であった。 今のところ赤外線画像だけでは使用されている彩色材料の確証を得ることは難しいが、様々な手法で分析した調査事例を増やすことにより、その作品を基準としてある程度推測が可能であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は非破壊で簡便な面的調査に赤外線画像を活用する試みである。絵画の彩色材料分析には、非破壊でもっと簡便な「面」の広がりを持った総合的な判断要素となる科学分析が必要である。そのために本研究では、①赤外線撮影法で見分けられる絵具を特定し、彩色材料の面的調査方法としての有効性を明らかにする。②絵画で一般的に使用される絵具に関して同系色のグループごとにデジタルカメラによって赤外線画像を撮影し、見分けられる有効な赤外線フィルターの組み合わせを確定する。③赤外線撮影法を用いた簡便で確実な彩色材料調査の有用条件を明らかにするとともに、確実な彩色材料調査を行う拠りどころとなる画像データをまとめる。以上、3点について研究を進め、赤外線画像による面的調査の有効性を明らかにすることが目的である。 その中で、今年度はより簡便なデジタルカメラを使った赤外線撮影を行い、彩色材料の面的調査に有効な情報を得ることを目的に行った。 今年度は3年間の研究のうちの2年目となるが、1年目に得られた基準データを踏まえて実際の絵画の調査へと進めていくことができた。 また、1年目は九州国立博物館が所有する高精細スキャナを使って九州国立博物館所蔵の絵画の赤外線画像を撮影したが、特殊な装置であるため利便性に乏しい。今年度は簡便なデジタルカメラでの試みであり、海外にも持参し、アメリカのメトロポリタン美術館でも撮影をすることができた。今年度は昨年度より調査方法を簡便にし、調査事例を増やしたことで、検討材料も増えたと考えられる。 このように1年目、2年目と段階を踏んでより簡便に絵画の面的調査の可能性を探り調査事例を増やすことで、赤外線画像を使った彩色材料の面的調査の有効性をさらに検討していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は最終年度となるため、前半は国内外の実際の絵画をデジタルカメラで撮影し、赤外線画像データの蓄積を図る。後半はこれまでに調べた彩色材料の分析結果をもとに赤外線撮影に寄与するための分析データ、画像データ解析を行う。 デジタルカメラによってカラーチャートの赤外線画像を撮影し、見分けられる有効な赤外線フィルターの組み合わせを検討する。様々なフィルターで撮影した画像データを、標準データベースとして蓄積する。彩色材料を見分けるために有効な赤外線領域のバンドフィルター(IR76~IR96、R64、R1、52S~77Sなど)、バンドパスフィルター(BPB、BPN、BPM42~60など)の組み合わせを変えて、デジタルカメラで撮影する。赤外線撮影法を用いた簡便で確実な彩色材料調査の有用条件を明らかにするとともに、確実な彩色材料調査を行う拠りどころとなる画像データをまとめる。そして実際の絵画の撮影データと比較し、赤外線画像の有用性を検討する。 本研究においては最も適応しやすい日本絵画の彩色材料、特に顔料についてその識別の有効性を検討することを目的に行ってきたが、顔料におけるこれまでの調査を検討した結果、赤外線領域に有効な差があまり見られなかった。したがって調査対象を西洋の合成顔料が使われる時代の絵画まで広げるか、顔料の調査と同様に染料の標準試料を作成し、調査を進めていく必要があることが分かった。このことを踏まえ、顔料で見分けられる部分を来年度確実に抑え、今後の合成顔料や染料に対する赤外線画像を使った面的調査の有効性の研究に生かせるようにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外での調査旅費が安く済んだことと予定していた研究分担者1人分の使用がなかったため 平成26年度は前半に国内外の実際の絵画を調査することに主眼を置く。アメリカの美術館に所蔵されている日本絵画の調査を予定しており、研究分担者含め、2名分の絵画調査の旅費が必要となる。また国内における絵画調査、彩色材料等に関する研究会への出席費用、学会発表などのため、国内旅費が必要となる。 より簡便なデジタルカメラによる赤外線撮影を行うため、安価なデジタルカメラの購入を予定している。デジタルカメラによって赤外線画像を撮影し、見分けられる有効な赤外線フィルターの組み合わせを検討するにあたり、様々なフィルターの購入が必要となる。高画質の画像データの解析とデータ蓄積・整理をするため、画像を十分扱えるスペックを持ったパソコン、周辺機器、ハードディスク、画像ソフトなどを購入し、有効なデータベースを作成する。
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Research Products
(1 results)