2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24510117
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
佐久間 隆 茨城大学, 理工学研究科, 教授 (10114018)
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Keywords | 散漫散乱 / 力定数 / 熱振動の相関効果 / 中性子回折 |
Research Abstract |
酸化銀、酸化銅など赤銅型構造をもつ酸化物や、赤銅型構造と類似した結晶構造をもつフッ化亜鉛などの圧力残留効果や温度依存性などについて、J-PARCに設置されているiMATERIAやオーストラリア原子力研究所(ANSTO)の三軸型分光器Taipanなどを利用し中性子回折測定を行った。また、茨城大学に設置されているX線散乱装置を利用したX線回折測定を実施した。 圧力残留効果では、ブラッグラインの半値幅の角度依存性をもとに、歪みと粒径の変化を決定した。iMATERIAを利用した実験から、酸化銅において試料のプレス圧力の増加とともに、ブラッグラインの半値幅が増加していくこと、この原因が結晶の歪みに係わることを明らかにした。また、Taipanを利用した酸化銀および酸化銅の中性子散乱実験から、16 K程度の低温では、酸化銀のみに比較的強い散漫散乱が生じること、またこの原因が静的な構造乱れ、格子振動のソフト化あるいはエネルギーの低い状態密度数が増加するためであることが判明した。なお、この実験では、散漫散乱強度を静的な乱れと熱的な乱れの要因とを分離するため、回折測定とその弾性散乱部分を測定するモノクロメータを設置した測定とを行った。 X線・中性子回折測定から得られる回折強度のバックグラウンド(散漫散乱)の解析から、熱振動における相関効果が得られる。この相関効果は、原子と原子との間に力定数(ばね定数)が存在するために現れる。これまでの解析で利用されていた関係式をそのまま利用した場合、原子間距離が増加するに従い矛盾が生ずることを平成24度に指摘した。平成25年度は、熱振動の相関効果から力定数を導出する新たな関係式を導き、この力定数を利用して、Alについてフォノンの分散関係、状態密度、比熱のシミュレーションを行った。この結果、これまでの関係式と比較して非常に良好な結晶の物性値を見積もることが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の中核となるJ-PARCのiMATERIAを用いた中性子回折実験は、J-PARCハドロン施設の放射線事故のため平成25年度はほぼ利用できなくなった。このため、ANSTOの協力研究者と打合せ、散漫散乱についての中性子回折実験は、ANSTOにある中性子回折装置(Taipan、Echidnaなど)を利用して行った。iMATERIAでは測定が出来ない中性子弾性散乱についてもTaipanで測定でき、得られたデータは期待以上のものとなった。 平成24年度までにiMATERIAで測定した酸化銅の中性子回折強度の圧力依存性のデータを平成25年に解析し、ブラッグライン強度と歪との関係を明らかにすることができた。この結果を固体イオニクス国際会議(SSI-19)で発表し、論文を準備した。 熱振動における相関効果と原子間の力定数との関係式を検討し、昨年までに得た着想に理論的な裏づけを与えることが出来た。この関係式を明らかにできたことは、今回の研究を通して最も重要な成果の1つといえる。この一般式を利用して力定数を求めることで、まず電荷の影響が入らない金属(Al)についてのフォノン分散関係や比熱などの結果を国際会議において発表した。また、電荷の影響が含まれるフッ化カルシウムでもシミュレーションを行い、弾性率から計算した音速との比較で良好な結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに赤銅鉱型結晶について、X線回折およびJ-PARCのiMATERIAによる温度依存性およびプレス圧力依存性に関する中性子散乱測定を実施した。平成25年度に行ったX線回折による予備測定から、赤銅鉱型結晶と類似の構造をもつルチル型構造にも圧力印加による歪が生じることが確認できた。再開されたJ-PARCのiMATERIA装置を利用して、ルチル型構造の残留応力効果の詳細を明らかにする。これをもとに、歪と結晶構造との関連について研究を進める。 単結晶からの散漫散乱を解析するため、酸素導電体の可能性のあるPrMoOについて、構造と散漫散乱との関係を明らかにする。ANSTOの中性子散乱測定装置Koalaを利用してラウエ反射強度データを収集する。実験は5月初旬頃に行う予定である。 赤銅鉱型構造をもつAg2Oは室温で異常に大きな原子熱振動を示すとともに、低温になるに従い格子定数が増加する。室温以上の回折データについて、ANSTOのEchidna装置を利用したデータ収集を行っていく。また、200℃付近で分解するAg2Oについて、平成25年度に引き続きTG(熱重量)、TMA(熱膨張)、DSC(示差熱)などの熱測定を継続する。定量的なデータを得て論文にまとめる作業をめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度にJ-PARCのハドロン施設で放射線事故が生じ、予定していたJ-PARCのiMATERIAを利用した中性子回折実験が中止となった。このため、計画を一部変更し、赤銅鉱型試料の中性子散乱および(iMATERIAでは測定できない)中性子弾性散乱の実験をANSTOの原子炉を利用して実施した。 平成25年度に中性子散乱の実験をJ-PARCのiMATERIAで実施する予定で、実験試料および合成するための原材料の購入を計画していた。計画していた試料の購入を、平成26年度に繰り越すことになった。 赤銅鉱型構造、ルチル型構造をもつ材料やPrMoOなどの酸化物について、中性子回折、X線回折、熱測定などを実施する。これらの材料や合成を行うための原材料の購入、試料にプレスで圧力を印加し成型するための金型、熱測定の試料容器、真空部品、温度センサーの交換などに研究費を使用する。 酸素導電体の可能性のある酸化物、PrMoO単結晶からの中性子回折実験を行うため、大学院生とANSTOのKoala装置を利用して実験を行う。このための旅費として使用する。また、学会(固体イオニクス学会)や研究会(超イオン導電体物性研究会)等で発表を行うために旅費を使用する。
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