2014 Fiscal Year Research-status Report
海産外来寄生虫のインパクトーエビヤドリムシ科甲殻類を例に
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24510328
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
伊谷 行 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (10403867)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 外来種 / 寄生虫 / エビヤドリムシ / アナジャコ |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、北米西海岸ではアナジャコ類の個体数が激減して、その共生者も絶滅に瀕しているが、その原因はアジアからの外来寄生者であるエビヤドリムシ科甲殻類Orthione griffenis の影響であることが明らかになってきた。なぜこの種が侵略的外来種となったかを明らかにすることが本研究の目的である。これまでに得たさまざまなエビ類を宿主とするエビヤドリムシ類の生態データを解析したところ、全ての種で、クリプトニスクス幼生の着底が宿主の小型個体にほぼ限定されていることが明らかになった。これは、米国のO. griffenisの事例とは異なっていることから、エビヤドリムシ類の着底プロセスに着目する必要があった。そこで、エビヤドリムシ類の付着を防ぐ第5胸脚によるクリーニング行動について比較したところ、米国のアナジャコ類も日本のアナジャコ類も同様の行動が見られ、形態的にも顕著な違いは発見されなかった。すなわち、宿主のクリーニング行動やクリーニング脚の違いによって、米国のアナジャコ類がO. griffenisに寄生されやすいわけではないことが示唆された。そこで、エビヤドリムシ類の寄生生態の一般化を行うため、日本のヨコヤアナジャコUpogebia yokoyai に寄生するGyge ovalisを用いて、宿主への感染時期やプロセスの解明に注力した。その結果、G. ovalisが着底の前に、背甲内に内部寄生し、それにより宿主の掃除行動を抑制している可能性が示唆された。さらに、G. ovalisの雌を実験的に取り外すと、残された雄が雌へ性転換することも発見された。信頼性の高い結論を得るためには、来年度、これらの新知見を十分な例数を用いて結論する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は、1)北米で侵略的外来種となっているエビヤドリムシ類Orthione griffenisと、その他のアナジャコ類,スナモグリ類、クルマエビ類に寄生するエビヤドリムシ類で、生活史や生態を明らかにすること、2)日米のアナジャコ類でエビヤドリムシ類の感染を防ぐ行動を明らかにすること、3)クリプトニスクス幼生に関する知見の収集であった。1)に関しては、O. griffenisは日本においては極めて稀であるため、その生態に関する情報は依然として増えなかった。しかし、さまざまな宿主に寄生する多くの種で生態情報を得ることができ、それぞれ論文を作成中であるため、十分な結果を得ることができたと考えている。2)に関しては、日米のアナジャコ類で第5脚を用いた同様のクリーニング行動が観察され、その形態も同様であった。エビヤドリムシ類の移植実験を行ったところ、移植したエビヤドリムシ類はこの行動により除去されることが明らかになった。3)では、これまで採集していた標本から、宿主の背甲内に寄生性甲殻類の存在を認めた。野外で採集された個体を用いて観察を行ったところ、背甲内の個体が数日後に鰓室内に移動したことから、クリプトニスクス幼生が宿主への感染初期に宿主の背甲を利用することが示唆された。これは、淡水性の他種で実験的に感染させた個体で同様の例が知られていたが、野外個体では始めての知見である。さらに、背甲内から鰓に移ったエビヤドリムシ類に対しては、宿主がクリーニング行動を行わないことも観察された。また、エビヤドリムシ類の雌を取り除いた場合、残された雄が宿主の鰓室内で、雌化する事例があった。これらの発見はこのエビヤドリムシ類の着底プロセスに関する重要な発見であり、例数を増やして観察を続ける必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度まで明らかにした、アナジャコ類、スナモグリ類、クルマエビ類に寄生するエビヤドリムシ類の生態に関する論文を完成させる。新たに行う研究ではとくにOrthione griffenis と他のエビヤドリムシ類で感染のタイミングが異なることに焦点を絞る。なかでも、ヨコヤアナジャコに寄生するGyge ovalisで、感染初期に宿主の背甲を利用する個体を発見したことから、この事例の観察例を増やす。またG. ovalisで明らかになった性転換についても、本種の個体群動態に影響を与える重要な特性であることから、論文化するだけの観察例を得る。さらに、この新たに発見された感染プロセスと性転換現象に一般性があるかどうかを、他の種を宿主とした場合でも明らかにする。そのため各地で採集調査を行い、着底期個体を持ち帰って飼育実験を行う。信頼性の高いデータを得て論文を完成し、英文校閲をへて論文投稿を予定している
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Causes of Carryover |
米国のO. griffenisの生態研究のための旅費を予定していたが、実際には、適した実験個体が採集されないと研究を進めることができないため、研究代表者の渡米のタイミングが採り難い状態が続いていた。そこで、米国の共同研究者と密接に連絡を取り、米国で研究に適した実験個体が採集された際に、こちらが指示した実験をしてもらう、という方向で共同研究を行った。また、国内における実験により、エビヤドリムシ類の新たな感染プロセスや性転換減少を発見することができた。信頼性の高いデータを得るためには、次年度に再度この実験を行い、十分な例数をこなす必要が生じた。海外旅費を使用しなかった未使用額を次年度の国内実験に使用する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度では、新たに発見された感染プロセスと性転換現象に一般性があるかどうかを、観察例を増やすとともに、他のエビヤドリムシ類でも明らかにする。そのため各地で採集調査を行い、着底期個体を持ち帰って飼育実験を行う。信頼性の高いデータを得て学会発表を行い、専門家との意見交換を行う。その後、英文校閲をへて論文投稿を予定している。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Parasitic crustaceans and marine invasions: two case studies from Kuroshio region2014
Author(s)
Itani, G., Yamada, C., Asama, H., Henmi, Y., Kume, H. and Chapman, J. W.
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Journal Title
Kuroshio Science
Volume: 8
Pages: 107-110
Acknowledgement Compliant
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