2012 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本映画にみる銃後の女性像:メディアによる戦争責任過程1950年-2010年
Project/Area Number |
24510391
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
吉田 香織 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (00550386)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長池 一美 大分大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90364992)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 戦争の物語と記憶 / ジェンダー / 戦後戦争映画 / 戦後戦争マンガ |
Research Abstract |
本研究は、日本の戦争映画(マンガを含む)における銃後の女性像についてのテクスト分析と受容についての調査、さらに記憶構築に一役かう戦争博物館の構造を社会的コンテクストとして組合せ、戦争責任とジェンダーの問題について解明しようとするものである。 女性表象に関わる作品、特に、戦争映画と戦争マンガ(特に戦後の戦争少女マンガ)の収集はほぼ完了した(分析対象にする女性主役の戦争映画5作品ほどと、同様の対象マンガを5-6作品)。先行研究の批評については、主としてこれまでの日本・アメリカの戦争映画、反戦アニメ・マンガについて、日本国内外ともに、戦争とジェンダーに関わるテクスト分析と歴史認識についての研究を幅広く再検討した。理論的枠組み・方法論については、1)女性の戦争論、2)イメージ分析、3)国家とジェンダー、4)精神分析に関わる概念を追究し、枠組みを確立することができた。 また、対象作品となる(反戦)マンガ(特に戦後少女文化)における戦争メモリーの成立構造についても、上記の理論と方法論を利用し、テクスト分析を行った。これらの分析結果は、9月にブリティッシュ・コロンビア大学にて研究会と報告会を行った。引き続き、10月と11月に実写映画とマンガ両方の分析の成果を招待講演と報告会にて発表を行い、そこでのディスカッションに基づき、改良点について有効なアドバイスを受けることができた。現在、これらの分析結果について英文原稿を執筆中(ほぼ完成)である。 また、もう一つの大きなテーマである戦争博物館の研究について、24年度中に、日本国内の3つの戦争博物館の観察を行い、研究会において、博物館研究のなかでも特に戦争の記憶構築についての理論と、戦争記憶(認識)に関わる博物館学などの先行研究についてアドバイスを得た。現在、このテーマについては、理論と先行研究をさらに収集し方向性を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は、以下の成果を出すことができたため、順調な進展と判断した。(研究代表者:吉田、分担者:長池の順に以下に記述) (吉田)(1)映画作品の収集:分析対象となる日本の戦争映画作品の収集を完了することができた(これからの研究過程で適切な作品を見つけた場合は随時分析)。(2)先行研究批評・理論的枠組み:主に戦後の戦争映画と記憶の構築、戦争とジェンダーに関わる先行研究を日本国内外の研究者・研究対象に拘らず収集し、徹底してレビューを行った。また、女性の軍事化・女性の戦争責任についてヴィジュアル・メディアを通した表象を詳しく説明できる理論や概念を、戦争論、国家とジェンダー論、精神分析アプローチのなかで追究し、分析に適切である概念・理論がほぼ確定した。(3)上記に基づき、戦後戦争映画と戦争記憶構築のプロセスにおける女性の関わりに焦点をおいたテクスト分析を行い、その成果を予定していた以上に多くの場(国内外の研究会・学会・招待講演)にて発表、ディスカッションを通し有意義なフィードバックを得ることができた。(4)日本の戦争映画(マンガ・アニメ)作品の比較とする、韓国の戦争映画作品(特に女性主役の作品)の収集については、第二次大戦関連ものが少ないためか、現在も収集中である。 (長池)日本のマンガ(特に戦後少女文化)における戦争メモリーの成立構造について、主としてフェミニズム・アプローチ・精神分析の理論をベースとし、ジェンダーの視点からのテキスト分析を行い、その成果を研究会で発表した。現在、英語論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度にテクスト分析を行った対象作品についての受容調査の資料収集、コンテクスト分析のための資料収集に加え、戦争の記憶と女性の戦争責任についての追究のためのもう一つのセクション-戦争博物館(特に女性に関わる博物館)に関する分析-を行い、今後はコンテクストの方に焦点をあて研究を進める方針である。また、以下を今後の研究項目として行う。 (1)現在執筆中の英語の論文(3本)を25年6月中に学術誌へ投稿完了させた後、戦争アニメ、戦争博物館と戦争記憶構築の女性の戦争責任についての論文(英語)を投稿。(2)分析対象とする日本の戦争映画の受容についての資料収集・分析。それぞれの映画についてのアーカイブ、新聞・雑誌による映画レビューの収集と分析。(3)日本の戦争博物館(女性の戦争博物館を含む)の観察を行い、博物館関係者へのインタビューとその考察。(4)日本の戦争映画と比較するための韓国の戦争映画・戦争マンガ作品の収集続行とテクスト分析。(5)韓国の「戦争と女性の人権博物館」の見学と博物館関係者インタビューとその分析・考察。(6)学会発表・研究報告会:国内外の学会・研究会にて、成果(主に戦争映画・戦争少女マンガのテクスト分析)を発表、「日本マンガ学会」での研究会に出席。その後、主に戦争博物館と分析映画の受容についての研究成果を国内外の学会・研究会で発表していく予定である。 26年度には、日本と韓国での戦争博物館調査結果をもとに、取り扱った戦争関連の映画(マンガ・アニメ)作品の分析結果を理論化し、学術誌投稿論文執筆とモノグラフ出版のための執筆を中心とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下の項目を25年度の使用計画とする。 (1)論文投稿:現在執筆中の英語論文(3本)を6月中に学術誌へ投稿完了させる。(2)受容分析:分析対象とする日本の戦争映画の受容についての資料収集・分析。それぞれの映画についてのアーカイブやInter-library Loanを利用し、新聞・雑誌による映画レビューの収集と分析を行う。(3)博物館関連研究:博物館関連の先行研究の批評と博物館に関する理論を追究すると同時に、日本の戦争博物館(女性の戦争博物館を含む)の観察(①「遊就館」8月末3日間、②「那須戦争博物館」9月6日間)を行い、それぞれの博物館関係者へのインタビューとその考察を行う。(4)学会発表・研究報告会:6月に行われる「Popular Culture Association of Australia and New Zealand 2013 Conference」にて、上記の成果の一部(主に戦争映画・戦争少女マンガのテクスト分析)を発表(発表確定)。また、7月に行われる「日本マンガ学会」に出席し、研究成果を発表と研究会の予定。(5)韓国の戦争博物館研究:2月末に韓国の「戦争と女性の人権博物館」の拝観を行い、博物館関係者にインタビューを行い、その分析を、日本の戦争博物館について行った分析と比較考察する。(この際、通訳者を使用) さらに、学術誌投稿のための英語論文は年度を通し(特に、10月から2月にかけて集中し)執筆を行う予定である。
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