2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520032
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Gifu Shotoku Gakuen University |
Principal Investigator |
吉永 和加 岐阜聖徳学園大学, 教育学部, 准教授 (20293996)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 他者 / 言語 / 形而上学 / 否定神学 / デリダ / レヴィナス |
Research Abstract |
平成24年度は、課題「責任論の起源と展開-他者論の宗教的基盤の研究-」に関する研究の一年目として、研究実施計画に基づき、責任論の基盤となる絶対的他性の把握と、それを語る可能性について考究した。その際に問題となるのは、他者を論じるレヴィナスにせよ、デリダにせよ、他者論に西洋の伝統的な形而上学を否定するという役割を期待しているにも拘わらず、彼らの他者論が結果的に形而上学的な傾向をもつという点である。こうした問題の原因を探るために、他性を語る際の言語の可能性と限界を明確にすることが必要であった。 そこで、デリダが「不可能なものの可能性」を語る際に欠かせないと考える否定神学的叙述に焦点を当て、その叙述が必然的なものとされる理路を検討した。具体的には、初期の論考『声と現象』から、言説に関する三部作『コーラ』『パッション』『名を救う』を取り上げて、否定神学的叙述の必然性という観点から架橋しつつ、他性の「場」がいかに想定され、責任が「不可能なものの経験」としてありうるのかを考究した。 また、未発表ではあるが、レヴィナスとデリダの、他者論における否定神学的叙述に関する見解の差異と類似についても検討した。そこで明らかになったのは、デリダは否定神学的叙述を支持し、レヴィナスは自らが否定神学的叙述を否定するとはいえ、両者ともに、他者に関して語る際には、それを「不可能なものの経験」として比喩や誇張によって語ろうとする点で、類似的であるということである。両者が、その責任論と言語論で少なからぬ類似点を持ちながらも、否定神学についての見解において対照を見せるのは、両者の宗教的基盤の相違によると考えられ、そのニュアンスがち詳らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画作成当初、平成24年度は、「他性と否定神学的叙述」というテーマで、主にデリダについて、彼の否定神学的叙述の必然性とその戦略的使用について論じるつもりであった。 平成24年度、実際には、デリダが他性を語る際に不可欠だとみなす否定神学について、それが必然的だと考えられる理路と、デリダによる否定神学的叙述の実験的実践の在り方を検討し、論文として公表した。加えて、未発表ではあるが、レヴィナスとデリダの、他者論における否定神学的叙述に関する見解の差異と類似についての考究も行った。これは、平成25年度に論文として公表するつもりである。 研究計画作成当初は、この後半部分について論じることは時間的に不可能で、レヴィナスについてはデリダの議論に付随させて触れることが可能であるのみだと考えていた。だが、この予想に反して、デリダについての論文作成の後、レヴィナスとデリダの比較考量を独立させて行うことができたため、当初の計画以上に進展した、と判断するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、現在の研究状況は、当初の予定より少しではあるが進展しているといえる。そして、その結果、研究計画時の見込みでは、平成25年度に「責任と原罪意識」を、そして最終年度である平成26年度に「『悲劇的世界観』と責任論」を研究実施に充てるつもりであったが、これを逆転させて、平成25年度にまず「『悲劇的世界観』と責任論」を論じるべきであると考えるに至った。その理由は以下の二つである。 まず、レヴィナスとデリダの否定神学についての見解の相違には、両者の宗教観もしくは世界観が基盤にあると考えられる。研究の継続性という観点からいって、先にその相違を測るべきであり、そのために「悲劇的世界観」という概念はむしろここにおいて有効であろうと思われる。 また、先に「責任論の宗教的基盤」について「悲劇的世界観」という視座を得ておくことにより、最終年度の「責任と原罪意識」というテーマにおける絶対的受動性の問題が、より鮮明になると考えられる。「悲劇的世界観」の探究には、パスカルとカントへの言及が不可欠であり、最終年度の研究をより実り多いものにするためにも、平成25年度のうちにこうした思想を検討して、予め広い視野を開いておきたい。 このように、当初の計画を逆転させることは、最終年度の見通しを立てるためにも、またその研究全体の射程を広げるためにも、意義のあることだと考えられることから、そのように計画を変更して研究を進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度にも、平成24年度と同様、国内外の研究者と広く交流し、かつ文献を収集するために、海外出張(フランス)および国内出張を行う。これが、昨年度分と合わせ、80万円程度と思料される。 また、新たに出版された参考文献を購入する。これが10万円程度と思料される。
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Research Products
(1 results)