2012 Fiscal Year Research-status Report
近代批判思想の戦後―ハイデガーと京都学派におけるナショナリズムの批判と再構築―
Project/Area Number |
24520036
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
Principal Investigator |
轟 孝夫 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 人文社会科学群, 准教授 (30545794)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 国際情報交換 / ドイツ / ハイデガー / 京都学派 / 近代批判 / 和辻哲郎 |
Research Abstract |
本研究の目的は、20世紀において近代批判思想を展開したハイデガーと京都学派の哲学者が、それぞれの思想的立場に立脚した第2次世界大戦前、大戦中における政治的なアンガジュマンを戦後どのように反省し、またその反省をどのようにおのれの思想に反映させたかを検討することである。 1年目の研究計画としてまずハイデガーに関しては、戦後の思想的立場を明らかにすることを課題としたが、この研究は計画通りに進捗し、研究成果を『防衛大学校紀要(人文科学分冊)』第106輯に「ハイデガーにおける悪の概念――「戦後」思想の一断面」という論文として発表した。ハイデガーの戦後の思想に関しては、とかく戦前の思想との断絶が強調され、それがしかもナチス加担に対する反省に由来するとされることが多いが、拙論ではその見方に根拠がないことを示した。 日本の近代批判思想に関しては、おもに和辻哲郎に取り組み、戦中の尊皇論と戦後の象徴天皇論の比較考察を行った。そのことによって明らかになったのは、彼の日本倫理思想史の根幹をなす尊皇論が、まずは戦前、戦中の国体論者に対する暗黙の抵抗として形成され、それ自身きわめて「政治的」な動機をもつこと、また尊皇論のそうした由来ゆえに戦後も彼が自分の立場を変更する必要性を認めていないことである。このように「国体」という言葉への言及を徹底的に避けつつ尊王論を説く和辻の姿勢は、「国体」の合理的解釈により、国体論の暴走に歯止めをかけようとした西田幾多郎の姿勢とは際立った対照をなしている。 なお日本の哲学者の「近代の超克」が必然的に国体、天皇に対する態度決定を伴う点は、ハイデガーなどと比較すると非常に興味深く、よくも悪くも日本の近代批判思想の独自性を示している。こうしてハイデガーと京都学派の比較から、それぞれの思想の地域性を浮かび上がらせることができたのも今年度の貴重な研究成果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハイデガーに関しては「研究実績の概要」に記したように計画通りに研究が進展しており、研究成果の発表も行うことができた。その研究成果の一部はさらに今年度にも論文として公刊される予定である。 日本哲学に関して、和辻哲郎については順調に研究を進めることができ、また和辻倫理思想の解釈における基本的視座を獲得することができた。他の京都学派の哲学者については、今年度は西谷、田辺等にはあまり取り組めなかったが、その代わり、西田幾多郎のの国体論の検討を行い、国体論に対する和辻の立場と比較することで、両者の思惟の特徴を明らかにできたことは大きな成果であった。 なお以上の点から、一般に日本の「近代の超克」思想において天皇、国体の位置づけということが、それぞれの哲学者の立場を理解するうえで、ひとつの重要な観点であることが明らかになった。このように、これまでの研究によって、本研究の今後のあり方を定める基本的視座が獲得できたことも、本研究が順調に進展していると見なすことのできる理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
すでに1年目において、京都学派の主要な哲学者の文献はそろえることができたので、2年目は研究計画通り、まず最初に京都学派の哲学者に関して、彼らの戦後の主著を検討する。そのことによって、彼らが戦後に、自身の戦争加担に対する批判にどのように応答し、またいかなる思想形成を行ったかを明らかにする。そこでは戦前、戦中と戦後とのあいだで彼らの思想に変化や断絶が見られるかどうか、とくに1年目の研究の基づいて、彼らの国体、天皇に対する態度にどのような変化が見られるのかに注目していきたい。具体的には田辺の「懺悔道の哲学」、西谷のニヒリズム論、和辻の『鎖国』、『日本倫理思想史』などを検討していく予定である。 ハイデガーについては、彼の戦前、戦中、戦後の思想的・政治的立場に関する論稿の発表が予定されているので、それとあわせて研究を展開し、研究成果の発表を行っていくことになるであろう。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に引き続き、関連書物の購入を行う。昨年度は1次文献の収集に重点を置いたので、今年度は2次文献等の研究資料の収集が中心となる予定である。 また出張に関しては、国内の関連学会への出席を行い、海外についても11月8日~10日に開催されるハイデガー協会の大会に参加し、海外の研究者との情報交換を行うとともに、海外の研究水準の調査を可能であれば行いたいと考えている。 研究費の使用はおおむね50万円程度を見込んでいるが、出張に35万円程度、文献資料等に15万円程度支出する予定である。
|
Research Products
(4 results)
-
-
-
-
[Presentation] ハイデガーの労働論2012
Author(s)
轟孝夫
Organizer
実存思想協会第28回大会
Place of Presentation
関東学院大学KGU関内メディアセンター
Year and Date
20120630-20120630
Invited