2013 Fiscal Year Research-status Report
近代批判思想の戦後―ハイデガーと京都学派におけるナショナリズムの批判と再構築―
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24520036
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Research Institution | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
Principal Investigator |
轟 孝夫 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 准教授 (30545794)
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Keywords | ハイデガーの技術論 / ハイデガーのデモクラシー批判 / 和辻哲郎の尊皇論 |
Research Abstract |
今年度は、本研究のひとつの柱であるハイデガー哲学とその政治的含意の解明に関しては、前年度までの研究を継続するとともに、その成果を発表することに力を注いだ。具体的には、「テクノロジーとデモクラシー――ハイデガー技術論の観点から」(『情況』11・12月合併号、情況出版、2013年)において、ハイデガーの戦後の民主主義に対する態度が、1930年代後半にその基礎が形成された彼の技術論を背景としていることを示した。また拙論「根拠律に対するハイデガーの立場」(『ショーペンハウアー研究』第18号、2013年)では、ハイデガーの戦後の技術論を彼の根拠律批判と結びつけつつ、その意義を明らかにした。 日本近代哲学に関しては、和辻哲郎の『日本倫理思想史』、とりわけその倫理的立場の根幹をなす尊皇論の政治的意義に着目し、それが国粋主義者の狂信的国体論を牽制する意図をもっていたこと、さらにその尊皇論がそのまま戦後の象徴天皇制の哲学的基礎とされていることを明示した。この成果は、2014年3月にドイツ、ハノーファーで開催されたGesellschaft fuer Interkulturelle Philosophie(インターカルチャー哲学会)の大会において、"Gerechtigkeit aus japanischer Sicht―Unter besonderer Beruecksichtigung des Nihon rinri shisou-shi von Tetsuro Watsuji"(「日本の正義観――和辻哲郎『日本倫理思想史』を中心に――」)という題名のもとにドイツ語で発表された。この発表では和辻の尊皇論を背景とした日本の正義観念を紹介するのみならず、それをさらにハイデガーによるギリシア的正義の解釈と比較することが試みられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハイデガーの戦後の思想、とくに政治的な立場としてはそのデモクラシー批判の意義を、戦前、戦中に形成された技術批判との関わりにおいて明らかにし、彼の戦前、戦後の思想をとくにその政治的含意という観点から比較するという本研究の目的を達成できた。なおその成果を発表した雑誌『情況』11・12月合併号は「テクノロジー・テクノクラシー・デモクラシー」を特集テーマとし、哲学研究者以外の幅広い執筆者の論稿により構成されている。したがって、当雑誌への寄稿により、思想とその政治性という問題に関する学際的な議論の活性化に貢献するとともに、研究成果を広く一般社会に還元するという本研究の目的が果たされたといえよう。 また和辻哲郎の尊皇思想をその政治的意味とともに明らかにし、その成果をドイツで開催された国際学会においてドイツ語で発表した。その際、和辻の思想をハイデガーのそれと突き合わせることにより、西洋哲学と日本哲学の間文化的な比較を行った。そのことにより、西洋哲学と日本哲学の国際的な対話の場を形成するという本研究の目標を達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずハイデガーの研究に関してであるが、2014年春に全集版で3巻本として刊行された"Schwarze Hefte"(黒いノート)の検討を行いたい。この覚書き集に見いだされるハイデガーの政治的発言、とりわけ反ユダヤ主義的発言がドイツをはじめヨーロッパ中で物議を醸しているが、本研究ではこれまでの研究の総決算として、そうした政治的発言の意味を彼の「存在の思索」そのものとの関係のうちで捉えることを試みたい。 日本近代哲学に関しては、これまで和辻哲郎を中心に研究を進め、一定の成果を収めることができた。今後は西谷啓二、田辺元、高山岩男らについて、戦前・戦時中と戦後の思想の比較を行い、そこにどのような変化が見られるかを検討し、「近代批判思想の戦後」という本研究の日本近代哲学に関わる部分の内容をさらに包括的なものにするよう努力したい。 以上の研究を進めるにあたって、これまで通り、学会、研究会における成果発表、意見交換を積極的に行う予定である。また今年度は本研究課題の最終年度にあたるので、これまでの研究全般の成果を紀要や学会誌、雑誌などに発表していくことにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は物品、とりわけ文献の購入が予定より少額となった。 なお海外出張のうち学会参加に関わる宿泊代等について、学会の方からの助成があったことにより、出張経費の負担も若干抑えられ、結果として予定より予算の使用が少なくなった。 次年度に関しては、国内出張、海外出張を積極的に行い、これまでの研究成果に基づいた意見交換、ならびに研究成果の発表をしたいと考えている。 なお文献資料に関しては、本研究課題の充実に資すると思われるハイデガー、京都学派に関係する文献を収集したい。とりわけこれまで比較的手薄だったハイデガーと政治関与に関する欧米の文献の収集を行う予定である。 次年度は今年度、学会で発表したドイツ語論文を紀要で発表する予定があり、ドイツ人にネイティブチェックの依頼が必要となるので、その謝金も発生する見込みである。
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Research Products
(4 results)